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白銀のヴァールハイト  作者: A86
2章 対白魔騎士団
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第38話 実技テスト(結果)

「待って!動かないで……」


 ミリーネは動かず、じっと佇んでいた。ヴァイス・トイフェルの人形は俺達に迫り続けている。このままだと押し潰されそうだ。それでもヴァイス・トイフェルは迫ってくる。ゆっくりと……。


「今よ!あたしの反対側に逃げて!」


 ミリーネの合図と共に俺は彼女の言う通り、右側へと逃げた。ヴァイス・トイフェルは止まり、俺とミリーネを交互に見る。ここからどうするんだ?

 するとヴァイス・トイフェルは俺の方に向きを変えた。そして、俺を追いかけてくる。……逃げなきゃ。

 俺は右に曲がり、左に曲がり、とにかくジグザグ方向で逃げる。ヴァイス・トイフェルは全くスピードを落とさずに来ていた。この時、どうすればいいんだ?

 そうだ、相手と距離を置いて身を潜めるのが先決だ。でも、ここは闘技場、身を潜める場所なんて存在するはずがない。

 それなら、ミリーネにヴァイス・トイフェルを倒してもらうしかない。俺は辺りを見回し、彼女を探した。どこにもいない……。と思ったらすでにミリーネはヴァイス・トイフェルの頭部に乗っていた。彼女の作戦はおそらく、二手に分かれて追いかけられなかった方がヴァイス・トイフェルの頭部を狙う……そういう作戦だったのだろう。

 ミリーネは槍を奴の頭部に突き立てる。そして……刺した。


「えっ……きゃあ!」


 なんだ?……突然、ヴァイス・トイフェルが頭を上げた。角度が急になってミリーネが転げ落ちたのだ。頭部に突き刺さった槍を残して……。ちゃんと突き刺さってないのか?

 それより、ミリーネがヴァイス・トイフェルの近くにーー。早く助けないと。


「あたしのことはいいから!急いで頭部に向かって!」


 ミリーネが叫ぶ。でも、どうやって頭部にいけばいい?俺は残り時間を見た。あと……十分。

 ヴァイス・トイフェルはまだ俺に襲いかかってくる。また、ジグザグに逃げて距離を離す。まずは奴の気をそらさないと。ミリーネはどこだ。見ると、闘技場の中心部で呆然と立っていた。ミリーネも同じ気持ちなんだろう。

 ………奴の正面から、狙う。それだ。その方法で……。

 俺は逃げるのをやめて、奴に向かって走り始めた。相手も俺に迫ってくる。これでいいんだ。


「ちょっとデューク、それはまずいって!」


 ミリーネの声が聞こえるがどうでもいい。自殺行為に見えるだろうが、そんなことはしない。これはまだ作戦の一部だ。

 一度、講義で習ったことがある。ヴァイス・トイフェルは真正面からだとものすごい速さでやってこれる。しかし、ヴァイス・トイフェルにも苦手な動きがある。

 俺はギリギリまで距離をつめた。まだだ、まだ……。

 俺とヴァイス・トイフェルの距離は二メートル、一メートル、五十センチ!

 今だ!

 俺は一気に横に移動した。ヴァイス・トイフェルは真っ直ぐ進むことは得意だが、突然の横移動には弱い!

 俺は刀をヴァイス・トイフェルの体に刺した。刀が持っていかれそうだが、なんとか持ちこたえる。俺は刀の上に乗るとゆっくりと登り始めた。

 その時だった。ヴァイス・トイフェルが暴れ始めたのだ。俺はしがみついているが振り落とされそうで怖い。あともう少しで……落ちる。


「お〜い、こっちだよ〜」


 ヴァイス・トイフェルが暴れるのを止め、再び真っ直ぐ進み出す。ミリーネを標的にしたようだ。俺は彼女に心の中で感謝をし、頭部へとはって進んでいった。

 あと……三分。急げ!


 俺は頭部にたどり着いた。槍は、綺麗に突き刺さったままだった。槍に触れて、さらに突き刺そうとする。すると、またヴァイス・トイフェルが頭を上げた。今度は落ちないように槍につかまる。あともう少しで……もう少しで……槍を……。


「ぐっ……おおお!」


 最後の力を振り絞って、俺は槍を突き刺した。ヴァイス・トイフェルの動きが止まる。そして、ヴァイス・トイフェルはドーンという音と共に倒れた。

 なんとか……倒したのか……。残り時間を見るとあと三十秒、あ…危なかった。

 観客から歓声が湧いた。拍手をしている人もいる。そんなに拍手されるほどの戦いだっただろうか?そう疑問にも思ったが俺は特に気にせず、拍手や歓声の様子をだまって見ていた。








◇◇◇


「お疲れ様、二人共」


 待合室へ戻ってくると、アークが声をかけてくれた。クレアもいる。


「すごいハラハラしたよ。途中でどうするんだと思ってたし。でも、良かった。本当に良かったよ」


 クレアも頷いている。そうか、良かったのか……それはそれで何よりだ。


「どうかな、テスト。高得点取れたかな?」


「取れてるよミリーネ。だってヴァイス・トイフェルの人形を倒せたのはあなた達が初めてなんだから」


「そうなのか、クレア!?」


「うん、そうだよ」


 そうだったのか。だから歓声とかが起きたんだな。じゃあ結果は意外といい方なのかもしれない。まだ分からないけど……。

黒の騎士団に入ろうと決めたんだ。やれることはやりきれた。絶対に大丈夫、自分を信じよう。


 実技テストは数時間後にようやく終わった。皆それぞれいろんな反応だ。それは、筆記テストと同じ。自分は騎士団に切り捨てられる心配は不思議となかった。なんでそう思うんだろう。それは分からない。でも黒の騎士団には届かないかもしれない、それだけは考えられた。


 そして、遂に終業式がやってきた。

次回で2章完結です。

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