第34話 衝突
速く……速く……急げ。
暗い通路を走り続ける。今、カルロス先生の微かな影が見えている程度だ。追いついているのか、引き離されているのか、暗くてよく分からない。でも、この様子だと引き離されているんだろうな。
光が見え始めた。チャペルへと戻ってきたんだ。そういえば、あのドームの部屋は図書室で見つけた地図でしか描かれていない場所だったんだろう。それが、どういう理由で描かれなくなったのかは分からない。けれども、それでヴァイス・トイフェルの住処にされていたのは事実だ。
――突然、カルロス先生の影が消えた。いついなくなったんだ?
俺はチャペルに着いた。周りを見渡し、カルロス先生を探す。まさか、もう騎士団内のどこかへ行ってしまったのか?
黒い影、俺はその存在に気付かず背後に忍び寄ってきていた。
「はっ……」
カルロス先生のタガーが俺の、心臓を、貫こうとする。駄目だ、間に合わない。
そんな時だった。俺が手に持っていた刀が勝手に動き、カルロス先生の攻撃を防いだ。
「???」
「なん、だと……」
一体何が起きたんだ?刀が何故勝手に……。一方でカルロス先生は自身の攻撃を防がれたことに驚いていた。
「まさか、俺の不意打ちを防ぐとはな……」
とりあえず、細かいことは後にして今は戦いに集中しなければ。相手は教師なのだ。そして、これは授業ではない。本物の戦いだ。加えて相手は俺を本気で殺しにかかってきている……。
考えている暇もなく次の攻撃が来た。右……。俺は左に避ける。だがタガーが俺を追いかけてきた。なんとか刀で防ぐ。
こうなったら、刀を抜いて攻撃を防ぎながら相手の隙を見つけるしかない。そんな高度なこと、授業で習っただけの俺が実践できるだろうか。いや、実践できなければ自分が死ぬのだ。それなら、不器用でも勝つしかない。
俺は相手と適度な距離をおいた。先生はタガーを構える。俺はすぐさま刀を抜いた。
カチッ……カチカチ……
「……あれ?」
刀が……抜けない………。嘘だろ、どこかひっかかっているのか?何度試しても抜くことができない。この刀を貰ったときは大丈夫だったのに。
そうこうしている内に先生が一気に俺に迫ってきた。鞘がついたまま攻撃を防ぎ続ける。
「どうした。刀は抜かないのか?」
相手にはもう気付かれている。仕方ない、このまま戦うしかない……。
「そういえば、お前の仲間はヴァイス・トイフェルと戦っているのか?今頃はきっと、奴の胃袋の中にいたらどうする?」
「……」
聞くな!三人は絶対に大丈夫だ。ヴァイス・トイフェル一匹にやられるほど弱くはないはずだ。それより俺は今の戦いに集中しないと。
「だんまりか。まぁ、それもいいだろう。俺に勝とうと思っても無理だろうな。………俺に隙は存在しない」
!!!
こっちの作戦がバレているのか。カルロス先生は教え子を試しているかのように、邪悪な笑みを浮かべている。その様子だとまだまだ余裕そうだった。
それよりどうする?刀は抜けず、作戦も相手にバレている。こんな絶望的な状況で一体どうすれば……。
「どうやら動揺しているようだな。急に隙だらけになったぞ!」
カルロス先生がタガーで俺の脇腹を切り裂こうとする。間一髪でかわすが、制服が少し切れてしまった。……でも、危なかった。
だが、作戦を途中から変えるなどの余裕は見つからなそうだ。このまま押し通す以外他はない。せめて、皆が来てくれれば形勢逆転はできそうだが……。
そろそろ……疲れてきた。もう十数分は同じことを続けている気がする。先生のタガーが俺を襲い、俺はそのタガーの攻撃を防ぎ続ける。それでも先生の言った通り、いっこうに隙というものがなかった。
「これまで、俺の攻撃を攻撃を防げたことは認めよう。だが、ここまでだ!」
「……っ!」
俺の刀と先生のタガーが交錯をする。その衝撃で手がしびれた。負けるな。押せ、押すんだ。
「ぐっ……」
俺は懸命にカルロス先生のタガーを押し続ける。しかし、相手はビクともしない。何事もないかのような顔をしている。
「何故だ、何故あなたは騎士団を裏切ったのですか?」
突然出た言葉。それは、ここで聞かないともう二度と聞けないと思ったからだ。
「騎士団を裏切った……か。よく考えればそうなるな。だがお前に俺の気持ちは分からん」
「答えろ……!」
「……………いいだろう。俺の家系は代々、対白魔騎士団に入るのがならわしだった。ヴァイス・トイフェルを倒し、世界の平和に貢献するのが役目だったのだ……。俺は当初、その役目に何の違和感も感じていなかった。……だが、父と兄がヴァイス・トイフェルに喰われ死に、母は病気で亡くなって、俺は親戚預けられた。その時に親戚から全てを聞いたのだ……。俺達の家系はヴァイス・トイフェルの消費者だと……。それを聞いて以来、俺は疑問を持った。何故、自分達はヴァイス・トイフェルと戦わなければならないのか、と。そこから次第に自分の運命に抗うようになった。ヴァイス・トイフェルと戦いたくない。消費者などと呼ばれたくない……!そう思い続けた。やっと、やっとのことが願いが叶った。『あのお方』のお陰で、俺は運命に逆らうことができる。それを、ヴァイス・トイフェルも知らないただのティーンエイジャーごときに、俺の計画を邪魔されてたまるか!!」
「ぐはっ……」
カルロス先生の怒りによってか、俺は脇腹を思いっきり蹴られた。そのまま頭が壁にぶつかり、脳震盪を起こす。
うぐっ……景色が白い、奴はどこだ。それより、刀はどこに……。俺は手探りで刀を探す。その時、タガーが俺の心臓を向けていた。
今度こそピンチだ。頭はクラクラするし、刀はどこへいったかよく分からない。俺はただ、先生の顔をじっと見つめることしかできなかった。
「さらばだ……。デューク・フライハイト」




