第32話 裏切り者の正体
俺とアークは部屋に一度戻り、戦うかもしれないため準備をしていた。俺は『裏切りの亡者』からもらった刀を取り出した。これなら十分相手と戦えるだろう。あと禁じられた部屋で見つけたあれも……。
「そういえば、アークの武器は何だ?」
「武器はまだ決めてないんだ。だから、ライターと何か燃えるものを持っていくよ。ヴァイス・トイフェルと戦うことになったときにね」
準備が終わり、俺達はこっそりと部屋を出て寮を抜け出した。決めた場所へと向かうとすでにそこにはクレアとミリーネがいた。
「遅いよ、二人共」
「ごめん、薪を探してたんだ。ミリーネが持っているのは、槍だよね?」
「ふふーん、こう見えて戦闘力はあるんだからね」
皆揃った。例の物も持っている。準備は全て整ったのだ。あとは目的の場所へと行く、それだけだ。
◇◇◇
「ここだ」
俺達が来たのはチャペル。騎士団内の中央にある所だ。前回、図書室で見つけた地図にしか載っていない場所を探した結果、ここにたどり着いた。あの時は分からなかったが、今は少し理解できた気がする。
奥にある柱をよく見ると……見つけた、穴がある。鍵穴と呼ぶべきだろう。そこに鍵を差し込み、九十度回転させる。カチッと音がした。
すると柱に亀裂が走った。ゆっくりと、左右に分かれていく。柱があった場所には長い通路があった。左右には鏡が所ぜましとある。暗くて先がよく見えない。
「こんな仕掛けになっていただなんて……」
クレアが素直に驚いている。俺だって驚いていた。禁じられた部屋で見つけた鍵が柱の鍵穴にぴったり合うだなんて。これは賭けであったのだから。
「……行こうか」
暗い道へと足を踏み入れた。コツ…コツ…と音がする。鏡に自分の、狼獣人の姿が映し出されていた。その暗がりはずっと続き、ついには皆の姿がよく見えないほどまでになった。
「皆、ここにいる?」
「…大丈夫ミリーネ、私達はここにいるわ」
心配になったのかミリーネが俺達がいるか確認をした。暗闇の中に一人でいるような気分だったんだろう。心配になるのも無理はない。
コツ…コツ…
やがて、向こうから光が見えてきた。次第にみんなの顔が見えてくる。光に目を少しくらませるクレア、じっと先を見続けるアーク、光が見えたことで少し安堵しているミリーネ、みんなそれぞれ表情は違った。
「あれは何だろう、部屋かな?」
長い通路を経て、俺達は巨大なドームの部屋に着いた。床も壁も真っ白に塗装されていて、所々に機器が置いている。そして、部屋の中央に誰かいる……。
「まさか、ここに来る奴がいるとは……素直に驚いているよ」
聞き覚えのある声、でも暗くてよく分からない。月の光がガラス越しに部屋を照らす。声の主がはっきりと見えた。
「…………カルロス先生……」
そう、全身黒づくめの服装、近寄りがたい雰囲気、そのまんまだ。なのに、いつもより不気味に感じる。
「あなたがヴァイス・トイフェルを……?」
「そうだ、俺がこの騎士団内で育てた奴らだ。そいつらを人が目につく所に放てば上層部はパニックに陥ってた。無様なものだと笑ったよ」
「本当にそれだけ?」
「いや、そんなことはない。もう一つの目的のために地図が必要だった。夜、ヴァイス・トイフェルを忍び込ませた時、地図を使った。だが、他の連中の邪魔もあってもどの場所には戻せず、仕方なく図書室に一時的に隠したのだ。その時、見つからないかかなり焦ったよ。結局、お前達が見つけたようだかな」
「やっぱり、無窮の石が欲しいの!?」
ミリーネが叫ぶ。その様子だと犯人の正体に驚いるようだ。分からないようだが、俺だって動揺している。
「石?そんなものは知らん。だが、ある物を探しているのは事実だ」
「ある物って何だ?」
「ふん、それを知る前に自分の命を大切にしたらどうなんだ?」
その言葉と同時に地響きのような音がした。その音はどんどん大きくなっていく。上の方か?
見上げるとドームの天井が開いている!さらに、『何か』が俺達とカルロス先生の間に落ちた。途端に空気がひんやりしてくる。
「ヴァイス・トイフェル!」
ヴァイス・トイフェルが首を上げる。でかい。図書室で出会ったのとは比べ物にならないぞ。
「せいぜいこいつと戯れているがいい」
カルロス先生はそう言うと、銃の形をしたワイヤーを取り出し、俺達の斜め上へとワイヤーを放つ。そして、ヴァイス・トイフェルと俺達を飛び越えると元の道へ走って行ってしまった。わずか数秒の出来事であったため俺達は何もすることができなかった。
「デューク!」
「俺はあいつを追う。三人はヴァイス・トイフェルを!」
「で……でも」
クレアが何か言いかけようとしたが俺は、すでにカルロス先生を追いかけていた。話を聞いている場合ではない。今もあいつはどこかへと行ってしまうのだ。なんとしてでも聞かなければならない。
なぜ、騎士団をうらぎったのかを、そして何を探しているのかを――




