第26話 見えない恐怖
昼休み、俺とクレア、アークの三人は図書室に集まった。そこにはミリーネもいる。
「どうしたの三人共、そんなに暗い顔をして」
「……話したいことがある。でもここでは言いづらい。場所を変えよう」
俺たちは騎士団の裏側にやってきた。ここでなら人は来ないだろう。
「それで、話って一体何?とても気になる〜」
「……今から言うのは全て真実だ。落ち着いて聞いてほしい」
俺はミリーネにこの騎士団でのヴァイス・トイフェルの体験を全て話した。図書室でヴァイス・トイフェルと出会い、あともう少しで命を落とすところだったこと、今日講堂が凍りついていたこと、そしてヴァイス・トイフェルがどこかにに潜んでいるんじゃないかということ……。ミリーネは俺の話を黙って聞き、ときには驚いたりしていた。話し終えた時、ミリーネが口をゆっくりと口を開く。
「それじゃあ、デューク達はあの日ヴァイス・トイフェルと出会ったんだ。でも、もう一匹いるってこと!?」
「少なくとも一匹はいる。そして、奴らを連れてきた裏切り者も、な」
「そ、そんな……」
問題はヴァイス・トイフェルがどこにいるのかだ。人気がなく、誰も寄らない場所にいる。でも、そんな場所があるのか……。
そもそも一体誰が、何のために?
「はい!あたしカルロス先生が怪しいと思う」
「どうして?」
「だって、全身黒ずくめで一番怪しいしー、絶対犯人だよ」
「見た目、かよ……」
ミリーネの憶測にアークが突っ込む。それより、ヴァイス・トイフェルがどこにいるのか、それさえ分かればいいのに。
「ねぇ、三人共……図書室で見つけた地図があるでしょ……。その地図で一箇所だけ他の地図には描かれていないって言ってたじゃない。もし、その場所が存在してたらーー」
「「「そこだ!」」」
クレアの言葉に一同が口をそろえる。そうだ、あの地図では一箇所だけ他に描かれていない部屋があった。その部屋がなぜ地図から消されたのは分からないけれど、そこならヴァイス・トイフェルを隠せることができるかもしれない。
だとしたら、なぜ図書室に?
「よし、図書室に戻って地図を見てみよう」
「いや、だめだ。地図はない」
「何で?」
「以前、もう一度本の中身を見たんだ。その時には既に地図は無くなっていたんだよ。でも大丈夫、どこにあるのかは覚えている。早速行ってみよう」
◇◇◇
俺達は急いで地図に示された場所へと向かった。そこはチャペルだった。大理石の床、暖かい光、清潔な壁、ここだけが何故か豪華な部屋のように感じた。奥には真っ白な柱がある。
「ここ?」
「いや……もっと奥にあるんだけど……」
「でも、この先には……」
クレアがためしに柱をたたいてみた。
コンコン……
いたって普通の音である。特に変わったことはない。やっぱり、昔に取り壊されたのだろうか。あの地図相当古かったし……。
「振り出しに戻ったな……」
「あぁ、とにかくここではないな」
「うーん、この先にあったりして」
ミリーネが壁をたたく。
ゴンゴン……
鈍い音がした。何も聞こえない。長い沈黙が続いた。柱をよく見てみると、小さな穴があった。鍵穴……らしいが小さくてよく分からない。
「禁じられた部屋だよ!」
ミリーネが叫ぶ。一同の視点がミリーネに集まった。
「禁じられた部屋って三階の右奥にある部屋のこと?」
「そうだよ。あそこならヴァイス・トイフェルを隠せそうじゃん」
「でも、それはさすがにまずくない?規則を破ることになるんだし……」
「確かにそうだけど……分かった、俺一人で侵入する」
「「「えっ」」」
全員が驚く。本当は自分も、規則を破ることに抵抗があるけれど……。でも、ヴァイス・トイフェルの手がかりをつかめるかもしれない。
「だけど、デューク……」
「心配いらないよ。バレないようにできる限りがんばるからさ」
こうして、俺は一人で禁じられた部屋に侵入することになった。行うのは今日の、夜だ。




