第22話 三年ぶりの対話
死を覚悟したことがあるのはこれで、二度目になる。もし、これが主人公の場合、漫画か何かだったら誰かが助けに来たりするはずだ。どんな絶体絶命でも切り抜けている。何故そうなるのか?理由は簡単。主人公が死んでもらっては困るからだ。だから創作の中の主人公はほぼ不死身でいられる。でも、俺達は……。
ドォォォォン――
……何だ、今の。何かが爆発したような音だ。それに、近い。
恐る恐る目を開けると、ヴァイス・トイフェルの姿がいなくなっていた。その代わりにメラメラと燃える巨大な物体があった。ヴァイス・トイフェルは?それとも、これは……。
はっと気付きクレアとアークの安否を確認する。……良かった、少し呆然としている程度だ。
「あなた達、どうしてここに?」
「……カレン先生?」
◇◇◇
「生徒は本来、寮に戻っているはず。何故あなた達がここにいるのか、説明しなさい!」
俺とクレアとアークは今、カレン先生に叱られているところだった。図書室の火は消され、本も四〜五冊が燃えてしまった程度で済んだ。
カレン先生の他にもダニエル先生や、カルロス先生も来ていた。それより、カレン先生……やっぱり少し怖いな。
「そ、それはえっと――」
「全て私のせいなんです」
「……どういうこと、クレア・リース?」
クレアの言葉にカレン先生が問い詰める。
「私は夕食の時間帯に一人で図書室に調べ物をしていたんです。二人は助けに来てくれただけなんです。私が、罪を犯しました。すみません」
「たとえ助けに来たとしても一歩間違えれば死んでいたところなのよ!二度と勝手なことは行わないように!」
「だがカレン、その二人が来なければ、クレア・リースは死んでいたぞ。彼らの行動には罰が必要だが、勇気は認めるべきじゃないか?」
ダニエル先生が口を挟む。カレン先生は一瞬迷ったが、すぐに立ち直った。
「そうですね……。罰則は無しにしときます。もう、寮へ戻りなさい」
「はい」
俺達はカレン先生に言われた通りに図書室をあとにした。そのあと、先生達は何か話していたようだが俺にはまったく聞こえなかった。
◇◇◇
「一瞬ハラハラしたなぁ、あの先生」
「罰則を受けると黒の騎士団になるなんて到底無理になるからね」
俺達は学校の外へ出て寮へ向かっているところだ。当然クレアもいる。男子の寮と女子の寮の道は途中まで一緒なのだ。
「……そういえば明日の宿題まだやってないんだ。ごめん僕、先に帰るよ」
「あぁ、気をつけてな」
アークはそのまま走り出して行ってしまった。俺とクレアだけが残された。……どうしよう、いざこの状況になっても、何を話そうか考えるのを忘れていた。
「久しぶりだな……クレア」
「うん……三年ぶりだね」
何を話せばいい……リックのことはいきなり話しちゃまずいし、だとしてもそれだと本題を切り出せないし……。
「デューク……一つ謝らなければいけないことがあるの」
「あ……謝ること?」
「うん、あなたに向かって死ねばいいなんて言って……。デュークだってつらいはずだったのに……。言い訳なんてしない、本当にごめんなさい」
「……いや、悪いのは俺の方だよ。俺のせいなんだ……!謝るのはこっちの方だよ」
雪に染みる赤い血、上半身を失ったリック遺体。それを食べるヴァイス・トイフェル、あれは全て俺の責任なんだ。災いの種は……この俺だ。
「デュークは何も悪くないよ。事故だったんだよ、あれは。責任を感じることなんてない」
「……うん、そうだね」
三年前のクレアとはやはり違っていた。前より物腰が少し柔らかくなっているし、何より以前と違って、落ち着いている気がした。
俺のせいじゃない、か。その言葉が妙に俺を安心させる。その言葉に救われている気がした。
「デュークはどうして対白魔騎士団に入ろうと思ったの?やっぱり、それって……」
「そのやっぱりだよ。他にも理由があるけれどね。……リックの意志を継いだんだ……。クレアこそ、なんで?」
「えっ、えっとその……デ、デュークと同じ」
「そっか、じゃあ俺達同じ理由で入ったんだな」
一瞬、何か言おうとしてたけど……まぁ、いっか。
「それよりデューク。もし、昼休み暇だったら明後日図書室へ来ない?私のルームメイトも来るんだけど、ちょっとうるさくて……」
「あぁ、いいよ。それだったらアークも連れてきていい?」
「アークってさっきのトカゲ獣人の子?もちろんだよ」
本当に久しぶりな気がする。クレアとこうやって何気ない会話をするのを――。
「じゃあなクレア、おやすみ」
「うん、おやすみデューク」
俺はクレアと別れ、一人で寮に戻る。もう四月の中旬なのに、まだ寒い。図書室の時ほどじゃないけど……。そういえば、なんでヴァイス・トイフェルが対白魔騎士団に侵入したんだろう?守りがけっこう堅そうなのに。
結局、俺が考えても何も思いつかなかった。そもそも、この地域いるのだろか、そう考えたりもした。俺は寮へと戻り、寝るまてずっと考えたが、答えは出なかった。
この時はまだ知らなかった。本当の恐怖はこれからだということに……。




