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白銀のヴァールハイト  作者: A86
2章 対白魔騎士団
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第21話 絶体絶命

 暗い図書室。そこに灯るアルコールランプの光。その中で一人の少女が調べ物をしていた。その少女――クレア・リースは本の内容をノートに書き写し、その本をしまえば他の本を取り出し、また書き写していく、その繰り返しだった。

 そんな最中に、危険が忍び寄っているのを彼女は知らない。……ヴァイス・トイフェルが図書室の扉をこっそりと抜け、中に入り込んでいることなど全く予知すらしていなかった。


 スル………スル…シュー……シュー……


「………何?……誰なの?」


 クレアは姿が見えない敵に怯えた。アルコールランプの光だけじゃ、敵の正体を把握できないのだ。


 カチッ…………パキッ……


「……凍っている…まさか……!」


 敵の正体に気づき、アルコールランプを掲げる。どこ?どこにいるの?クレアは懸命に探すが見つかるはずがない。白い霧が視界が遮られる。そもそも目の前を見ても無理だ。


 ……背後にヴァイス・トイフェルがいるのだから。


「!!……キャァァァ!」









◇◇◇


「今のは、悲鳴!?」


 アークが叫ぶ。図書室の扉を開け、中を見回した。白い霧、あいつがこの中にいる。


「……誰か助けて!」


「!……クレア!」


 俺は声がした方へと駆けつける。アークも俺に続いた。くっ……霧が邪魔でどこにいるのか分からない。

 すると、目の前の霧が動いた。いや、これは霧じゃない!


「アーク、避けろ!」


 鋭い牙が目の前を襲う。俺達二人は何とか通路に出て二手に分かれた。これで今は、大丈夫なはずだ。そう、今は。

 寒い、寒い。骨の髄まで凍りそうだ。どうすればいい?それよりアークは無事なのか?………落ち着け!まずはクレアを見つけないと。


「デューク、君の幼馴染みを見つけたよ!」


 アークの声が聞こえた。左手の方からか……。

 クレアはテーブルの下に隠れていた。若干泣きかけてもいる。


「クレア、無事か?」


「デ……デューク……なの」


「急いでここを出よう」


「うん、君立てる?」


「……はい」


 クレアはゆっくりながらも立ち上がった。机には本とまだ灯しているアルコールランプそして、ヴァイス・トイフェルが通ったらしき跡が残っていた。どうやら不意打ちをされたんだろう。その時、とっさに机の下に隠れたんだな。

 出口はどこだ?現代国語の授業のとき以来行ってなかったし、道が分からない。この図書室、無駄なくらい広いからな。


シュー……


 …………来たか。しかも前の方にいる。本当にまずいぞ、これは。後ろには机しかない。机の下に隠れるのは今度は無理だろう。前からじゃ丸見えだ。

 近づいてきている。どうする、どうすればいい……!


「アルコールランプ……」


 クレアが呟いた。……そうだ。ヴァイス・トイフェルは火に弱い。たとえ小さくても動きは止められるはずだ。少なくとも、先生達が来るまではーー

 俺はアルコールランプを掴むとヴァイス・トイフェルに向けた。ランプを振り回し、近づけないようにする。


シュー……スル……スル…


 ヴァイス・トイフェルが後ろへ下がっている。改めて見ると、このヴァイス・トイフェルはとても小さかった。………リックを喰い殺した奴よりは。

 だが、後ろへ下がったのも少しだった。奴はまた、俺達に近づいてくる。クレアとアークの息づかいが聞こえた。


「く……来るな」


 ヴァイス・トイフェルは鋭い牙を見せながらこちらを見ている。そして、そのまま襲い掛かってきた。アルコールランプではなく俺の手に……。今まさに、俺の腕を食い千切ろうとしている!


「うわっ」


 この時、自分が愚かなことをしでかしたのに気付いた。手を引っ込めたときにアルコールランプを落としてしまったのだ。ランプはヴァイス・トイフェルの歯にぶつかると、手が届きそうもない場所へと飛ばされてしまった。大切な命綱を失った……。

 ヴァイス・トイフェルは待ってましたとばかりに牙を向ける。今度こそ本当にまずい。俺は死を覚悟した。

 ……終わったかもしれない。まだ何もやっていないのに……。まだ始まったばかりなのに……。ようやく……クレアと出会えて、話ができるとおもったのに……。先生達が来る様子はなかった。たとえ来たとしてももう手遅れだろう。その頃にはもう死んでいる。最後の望みも……叶わない。リック……。


 ヴァイス・トイフェルは大きな口を開けながら、ためらうことなく、俺達に襲い掛かってきた。

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