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白銀のヴァールハイト  作者: A86
2章 対白魔騎士団
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第20話 招かれざる◯◯

 夜、食堂に皆が集まり夕食をとっていた。俺はさほど腹が減っていなかった。はっきり言えば、クレアのことを考えていたのだ。彼女がどこかにいる、それだけで落ち着かなかったのだ。


「本当に大丈夫、デューク?食欲もなさそうだし」


 アークが本気で心配して聞いてくる。うん、確かに具合が悪いかもしれない。気持ちが……。

 

「俺……今何も食べたくない気分なんだ。でも、心配いらないよ。熱はないし」


 アークが別に心配することじゃない。これは俺の事情なんだから。そう、俺の――


「ねぇねぇ、クレア見かけなかったー?」


「ウグッ……」


 勢いで食べ物がのどに詰まる。なんだ別の子に聞いているのか……。振り返るとナイトの講義で質問してた子だ。クレアのルームメイトなのかな。


「そういえばさっき図書室へいったよ。鍵を持ってたし。なんか調べたいことがあるみたい」


「えー、一緒に食べようと思ってたのに……」


 図書室ってもう閉まってるはずだぞ。わざわざ鍵まで取りにいったのかよ。

 先生達がいる方を見ると、なにやらダニエル先生が学園長に何かを話しているようだった。すると、学園長が立ち上がり、口を開く。


「諸君、悪いが非常事態が起きた。この騎士団内に、招かれざる客が入り込んだようだ」


 周りが一気にどよめく。招かれざる客?それって……。


「静かに、先生の先導で生徒達を寮を戻すのだ。我々が事態を収束させる」


 その後、先生の指導の下で生徒達は続々と寮に戻っていった。学園長は招かれざる客の正体を明かしていないが、俺には少し確信していた。でも、守りが固いこの騎士団になぜ?


「図書室の方へ向かっている。反対側に行って奴を追いつめろ……」


「了解」


「図書室……」


 教師の声がうっすらと聞こえた。…………まずい!

 考えるよりも先に足が動いた。そうしなければ間に合わないかもしれない。急げ!


クレアが危ない……。


「あれ?」


 アークは、俺が勝手に食堂を出て行く光景を一人でじっと見ていた。









◇◇◇


 暗い。明かりが無いせいかいつにもまして不安が増す。ましてや、今自分がどれほど危険なことに突っ込もうとしているかを考えると、身震いした。


 …………寒い。毛皮があるのに寒いと感じられた。だがこれで確信がついた。


 俺は見知らぬ部屋に入り、身を隠した。その曲がり角を曲がり真っ先にあるのが図書室のはずだ。ここからでは見えないがすぐ近くにあるのは間違いなかった。

 奴はどこから来る?前からか、それとも後ろ……。後ろだったら隠れる以外他はない。そしたら温度差でバレて、いっこうの終わりだ。前からくるのを祈っておこう。


ガッ…


「ヒィッッ……」


 誰かに掴まれ思わず変な声が出てしまう。後ろを向くとアークが立っていた。いつの間に……。


「なんだ、アークか。おどかすなよ」


「何してたんだ?寮へ戻らないと」


「図書室に幼なじみがいるんだ。招かれざる客がそっちへ向かっているんだよ」


「えっ…」


ーーその時、

スル…スル……シュー


「!来た……」


 前から聞こえる。あぁ、忘れもしない。見たのはこれで二回目だ。少しずつ、全貌を現している。影が見え、姿が見えてくる。

 巨大で真っ白な蛇、つららのような歯、身を凍らせる霧。その霧で全てを凍らせてしまいそうだ。

 ピキッ……パキッ……

 俺の足下が凍っている。息も白くなってきた。


「あれは……」


 アークが絶句する。そう……白い悪魔、ヴァイス・トイフェルが姿を現した。

 シュー……シュー……

 白い霧を吐き続けるヴァイス・トイフェルはゆっくりと進みながら、図書室へと向かっていき、姿を消した。


「……行こう」


「ちょっと待って……」


 アークが渋っているがそんなのは関係ない。俺は図書室へと走り出す。後ろからは追いかける音が聞こえた。アークは俺を追いかけることにしたんだろう。

 そして、俺達は図書室に向かった……。

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