第2話 昼休みの勧誘
「デューク、一緒に昼食食べようぜ」
「ああ、いいよ」
昼休みになり、俺達は屋上へと上がった。正直言って午前中の授業はとても疲れた。主に暗記が重要な科目ばかりだったからだ。国語の古典に世界史や生物、暗記は不得意というわけではないが、覚える量が多くてもの凄く面倒くさい。
「おいデューク、聞いているのか?」
「あっごめん何?」
「対白魔騎士団のことだよ。お前本当に入らないのか」
「リック……何度も言っているけど俺は本当に入りたくないんだ」
対白魔騎士団というのはヴァイス・トイフェルを倒す集団のことだ。15歳から入ることができ、そこで通常の授業もありつつ、厳しい訓練を受ける。入ることは簡単だが、途中で退学してしまう人もいるってリックが言ってたな。
「まぁそう言うなって。対白魔騎士団は確かに死と隣り合わせだ。俺の両親にだって反対されている。でも、この時にもどこかの土地が凍らされているかもしれない。そんなの黙って見てられないだろ?」
「でもリック……」
ガチャ…
その時、屋上のドアが開き誰かが入ってきた。見ると俺のもう一人の親友である黒髪で青い目の人間の少女、クレア・リースだった。
「やっぱりここにいた。何を話してたの?」
「対白魔騎士団の話だよ。俺は入るべきだって言っているんだけど、デュークがなかなか頷いてくれないんだよ」
「またその話?二人ともよく飽きないね」
「いや、俺は別に……」
そう、本当に興味がないだけ。たとえ世界の危機と言われても、俺には立ち向かう勇気がない……。
「まぁ、その話は後でいいや。それよりも二人とも今日俺の家に来れるか?」
リックが家に呼ぶなんて久しぶりだ。リックの両親は厳しくてなかなか遊びに行くことができなかったからだ。
「私は今日、特に予定がないから大丈夫だよ」
「俺も同じだな」
「よし、それじゃあ今日の8時に頼むぜ。すごくいい物みせるから」
「いい物……?それは何?」
クレアがリックにたずねた。リックの方は若干笑いをこらえた顔をしている。
「それは来てからのお楽しみだ。二人とも待ってるからな」
そう言うとリックは校内の中へと入っていった。
「一体何なのかしら?」
「さぁ、あいつの事だからたぶん俺を勧誘する道具かなにかじゃないかな」
クレアは少し苦笑いをした。リックの対白魔騎士団の話は決して嫌いではない。話しているリックは活き活きしていて、輝いて見える。
でも、入るとなると話は別だった。まだ中一だし進路は特に決めていない。普通に高校に入って、普通に大学に入って、普通に社会人になって、普通に結婚をして、普通に子供を育てて、普通に老人になって、普通に死んでゆく――。そんなざっくりとした人生しか考えていない。
だからリックが輝いて見えるんだ。あいつは将来をしっかりと見据え先へ進んでいる。決して生半可な理由ではない。相手を納得できるような理由を持っている。
その姿を羨ましいと思うと同時に、ちょっと悔しい……。だからって友人の道の跡を追うのはどうなんだろう。あいつは喜ぶかもしれないが、俺は嫌だ。人の進路の真似はどうしても許せなかった。でも、明確な進路は決まっていない。それが今の気持ち、今の俺の気持ちだ。
「戻ろうデューク」
クレアが言った。さっきも言ったようにまだ中一だ。焦る必要はない、落ち着いてゆっくりと考えよう。
「うん……戻ろう」