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白銀のヴァールハイト  作者: A86
5章 忍び寄る影
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第155話 永遠の世界

 夜二時頃になると、嫌というほどまでに溢れかえっていた音が世界から消えていく。地表で彷徨っていた熱が、太陽が地平線から消えて無くなると空へと吸収されていくかのように、音も地表から離れて吸収されていくのだ。

 夜中の病内は、看護師が複数人活動しているのを除けば静寂に包まれている。連日どの時間帯でも微々たる音しか出さない病院がさらに静かになれば、小さな咳、足音ですらかえって目立つだろう。非常用出口の有難くも気味の悪い緑の光――ピクトグラムが扉を潜り抜けている絵を均等に配置しているのを見ていると、施設の気配りを垣間見れるが、次第に自分の方向感覚が麻痺し、僅かな音にすら過剰に反応して、それは一種の肝試しのように変化していくのだった。

 

 一室のベッドにもぐり込んでいたシャーランは目を覚ました。上半身を起こし、目をこすりながら自身の頭を喚起させて、自分の今の位置感覚を取り戻していく。目線を窓に向けると、霧で霞んだ藍色の空に所々に小さな光の穴を散らばせた情景が見えるはずなのだが、外が湿っているからか、窓が曇っていた。ぼやけてここからだと何も見えない。

 彼女の意識が舞い戻って最初に感じたのは、口の中の粘りと乾きだった。右手を伸ばして小机に置いてあるペットボトルの水を掴んだ。しかし、プラスチックの壁は異様なくらいにへこみ、必要条件にも満たしていないほどの軽さを彼女は感じた。ベットに引き寄せて見てみると中は空で、取り残された水滴がいくつもプラスチックに張りついている。

 水……飲みたい……

 シャーランは膝の上に乗っている布団を捲って足を抜いた。腕が鳥肌を立ち、身震いをする。途端に温まっていた足が部屋に蔓延(はびこ)る冷気に直に触れることになったので、ようやく彼女は今の気温を体感で把握することになったからだ。そっと、右手側の床を覗く。ニンジンの色と形状をした寝袋に包まれ、鹿の寝顔だけを出しているシーナの姿が見えた。病院に戻って彼女にここへ連れられた後、今夜はここに泊まると言い張り、寝袋を持参してここで寝ているのだ。シャーランが起きている間は彼女も起きており、寝たのを見計らってから彼女も眠りについたようだった。

 彼女の安楽ながらも警戒している表情を崩さないように、シャーランは音を立てずにベッドから離れた。裸足が曇天色の床に着くと、冷えた病内の温度を体験したと同時に、埃一つないはずの床に何か白く浮かんでいるものが舞い上がったように彼女は見えた。白く舞い上がったものだけでは語弊があるかもしれない。よく見てみると病室一帯には外と同じ、視覚的に見えるようになった白い冷気が床からあまり距離を離さずに漂っているのだ。彼女の吐息も白くなり、それがこの部屋の温度を表していた。靴下を着用し、スリッパを履く一連の動作だけでも冷気は大暴れをする。もっと濃ければ、雲の上に浮かんでいるような気分になれたかもしれないと彼女は思った。

 引き戸も音を立てないように自分が通れる程度だけ開け、漂泊している冷気が至る所にある隙間を滑り込むように、彼女は病内の廊下へと踏み込む。そこでも冷気は少なからず漂っていて、見ているだけでも――実際にそうなのかもしれないが――気温が一、二℃は下がっているような感じがした。それでも、今彼女が求めているのは水である。透明な液体を飲んで、口の中を潤したい。シャーランは水がある自販機へと真っ直ぐに進んでいった。

 彼女は通路を右に曲がり、緑や赤の光とは違う、眩くあまり体に良くなさそうな光を発する機械に近づいていく。相変わらず夜の自動販売機は健全に働いており、ありがた迷惑と思うくらいに来るはずのない客寄せアピールをしていた。道路では同じ存在が並んでいるために注目されることはないが、ここの病院の特に彼女が今いる階では自動販売機が設置されているのはここと別の場所の計二箇所だけだった。一箇所には機械が二つ並んでおり、片方は水、もう片方はスポーツドリンク一色という何ともバランスの悪い組み合わせで販売されていた。それでもスポーツドリンクが売られている部分で、二つのボタンが売り切れのマークを出している辺り、売り上げはそこそこあるのだろう。

 シャーランは水を売っている自販機にお金を入れて、適当にボタンを押す。後ろから押されて、なす術も無く突き落とされたペットボトルの水が取り出し口のところに現れた。

 ペットボトルを掴み上げ、冷えた水の蓋を開けて口の中に流し込む。干上がった舌はたちまちにして蘇り、唾液を出せるようになった。彼女が未だにペットボトルの口を彼女の口元に当て、水を飲み続けていた時だった。

 スル……スル……

 彼女の水を体の中に取り込む動作が止まり、反動でペットボトルを口から外してむせてしまう。耳を澄まし、今聞こえた音がもう一度聴こえるかを確かめる。自分が発する音と自販機の鈍い音以外に、別の音があるかを確かめるために。

 …………………スル………

 的中。危険。奴がいる。

 彼女の感覚が全身で叫び、自分の無防備さを自覚させる。

(ヴァイス・トイフェル?何故ここに)

 理由ならあとでも考えられる。思考が理由を考えるのを止め、神経を尖らせて目の前の危険に警戒する。彼女がやってきた場所とは反対側、薄暗い廊下を右に曲がったところから音が聞こえてきた。十五歩くらい歩けば曲がれそうな距離である。気づけば白い冷気は彼女の膝もとまで上がり、濃度も上がって足元が見えなくなっていた。その冷気が彼女の見つめる先とは反対側へと進んでいく。右に曲がった場所から冷気が溢れているようで、同じ方向で微風も吹き、彼女の一つに縛った黒髪の先端が揺れた。

 今、弓があればと思ってももう遅い。ここは退いたほうがいいと彼女の心が叫ぶ。それと同時に、この病院まで侵入してくるヴァイス・トイフェルは一体どのようなものかという疑問が入り混じっていた。けれど、今ここで大事なのは自分の命である。すぐに病院に務めている人に伝えて事の異変を伝えなければならない。一体誰に?まず、一階まで降りる必要がある。受付その階にあるから、誰かしらいるだろう。しかし、ここで問題点が浮上する。一階へ降りる方法はエレベーターと階段の二種類である。ここが二階なら階段を使うが、残念ながらここの階は二階より上である。第一、公共で使える階段はここからだと少しだけ遠い。ならばエレベーターを使うことになるが、そこが先ほど言った問題なのだ。

 何故ならそのエレベーターがある場所が今、冷気が溢れている右の角を曲がった先にあるからである。

 この冷気はヴァイス・トイフェルが発生させたものなのか?一度だけその疑惑が浮上したが、ここまで多くの霧を出す要因を考えるのに、一番妥当な答えは他に思い浮かばなかった。

 ここに突っ立っていても仕方がない。耳を澄ませてようやく長い胴体を引きずっている音が一度だけ聞こえたのだから、怪物はエレベーターの辺りにはいないのかもしれない。だとしたら、この冷気の発生量はもう少し収まるはずでは、と彼女は考える。

 彼女が長時間その場で動かないせいで足元は濡れて、ズボンの裾も水分を含んで幾分か重くなっていた。真ん中に細長い型板ガラスが張られた病室の白い扉が延々と続くように、霧の量も一切変わらない。どのくらいの濃度かと聞かれれば、よく歌手などがコンサートを行ったときに演出として使われるミストぐらいの濃さはある。この量なら右へ曲がれば鉢合わせしてしまうほどの距離感である。なのに胴体を引きずる音が聞こえてこない。これは一体どういうことなのか?

 意を決した彼女は、足を前へと動かした。一歩、二歩、さらにもう一歩。彼女自身は平気だと思っていても心臓は正直だ。鼓動のテンポが速くなっている。右を曲がれば白い怪物と目が合った、となればどうする?自分は無防備だ、自ら食べられに行っているようなものではないのか?一体何をしているの、わたしは。

 それでも歩みは止まらない。薄暗い廊下。頼れるのは非常口の緑の光と背後にある自販機の白い光だけ。無抵抗の霧が迫る。それを彼女が押しのける。進み進んで、角が近づいてくる。曲がれるのにあと五歩、四歩、三歩……あと一歩かもしれない。彼女のメラニン色素のない腕に水滴が浮かぶ。額にも現れる。彼女の目は瞬きをするのを止め、前を凝視し続ける。角を曲がる前に立ち止まる。圧迫されそうな心臓。上手く息を吐き出せない。彼女はペットボトルを脇に挟んで、首元に手を当て、片方の手を角に当てる。そしてゆっくりと、右に曲がる通路の先を……見た。

 何もいない

 その事実が分かり、シャーランの緊張状態が少しだけ解された。二つの灰色で寡黙なエレベーターが設置してあり、その内の一つから冷気が溢れていた。

 エレベーターから冷気が溢れている?

 彼女の先ほどまでの慎重ぶりはどこへやら、俊敏な速さでそのエレベーターに近づいた。ヴァイス・トイフェルが中にいる。エレベーターがどの階にいるのかを確かめた。

 地下二階

 病院の最下階である。そして何を思ったのか、彼女の指がエレベーターの呼び出しボタンを押していた。呼ばれたエレベーターは上へ上がる。シャーランは一歩、二歩後ろに下がる。まさか、中にいるわけないよね……そう思いながら彼女は用心をして身構える。手にはペットボトルしかないのだが。

 エレベーターが彼女がいる階にたどり着き、静かに両開きのドアが開いた。自販機に比べれば落ち着いた白い光。霧は僅かな隙間から出ている……下から。

 ヴァイス・トイフェルは下にいる。なのにいつの間にかエレベーターが追い越していた。

 不審に思った彼女は、開いたまま留まり続けるエレベーターの中に片方の足を入れる。周りを見渡し、続けてもう片方も中に入った。

 直後、扉が閉まった。

 体が浮き上がり、胃が微かに悲鳴を上げている。すぐにエレベーターが下降していることが分かった。辺りを見回してみると、本来エレベーターが持っているはずの機能、役割を持ち合わせていないことに彼女は気がついた。

 さらに言えば、このエレベーターは病院のものではなかった。

 まず、階数を押すボタンがない。開閉ボタンもない。よって、扉がまた開くのかどうか分からないのだ。エレベーターの気のままに任せるか、もしかしたらこれを操っている人の思うがままになるしかない。閉じ込められた、シャーランは不安に陥った。ヴァイス・トイフェルの気配がし、職員に知らせようとエレベータを使おうとして向かっていくと扉から霧が漏れており、霧が出ているエレベーターに乗ると閉じ込められ、しかもそれは病院が設置したものではなかった……。

 どこまで降りるの……。どうして乗ってしまったんだろう。

 彼女の中で不安と後悔が綴られる。手に持っていた水を置き、壁に背中を預けて目を閉じた。

 平静を保ち続けた方がいい。混乱したままではいけない。

 明かりが消えた。置いていたペットボトルが倒れる音が聞こえる。蓋がちゃんとしまっていなかったのか、床が濡れているような感触があった。その音を最後に、エレベーターは静寂と闇に包まれた。大丈夫、きっと大丈夫なはず。根拠がなくても、自分を催眠状態にするかのように何度も彼女は唱え続けた。

 寒い。

 患者用の服しか着ていない彼女には堪える寒さとなってきた。暗いため、白い息も見えない。シャーランは座り込み、隅に縮こまりながらエレベーターの行く先を見つめた。


 そこから数十秒後だったろうか。なんの前触れもなく、いきなり扉が開いた。

 床を見てみると、ペットボトルからこぼれた水が広がり、薄い氷の膜が張っている。

 今までの出来事がどこか普通でないように、目の前に広がった光景も病院の中だとはとても思えなかった。細長い通路。突き当たりには、ステンドグラスがはめられた黒い扉が見える。通路の真ん中には石橋もあった。二歩で渡りきれてしまうような長さである。橋を渡る前の壁は白一色だ。艶やかに磨かれた白いタイルが隙間を作らずに並べられている。一方、石橋を渡った後の壁は漆黒だ。向こうの方もタイル張りになっているようである。光に照らされているわけでもないのに通路は明るく、先程言った――奥に扉があるのが分かってしまうほどだった。もしかしたら、一つ一つのタイルがぼんやりと光っているのかもしれない。高くない天井にもタイルがあるので、それが電気代わりにもなっていそうだ。

 シャーランはエレベーターの中にいたままだった。誰かに誘導されているのでは、という考えが浮かび始めていたからだ。けれど、彼女がエレベーターから降りる選択肢以外、何も残されていない。まさか、本来持っているはずの機能を捨てたエレベーターなど動かせるなどと、彼女は微塵にも思っていなかった。

 渋々と、自分が嵌められたような悔しさを滲ませながらエレベーターから降りる。薄い氷が張った水を踏み、小さくパリッという音がした。通路に出た瞬間、エレベーターの扉が閉まった。一応、エレベーターの呼び出しボタンがあるかどうかを確認する為に後ろを振り返ったが、見えたのはいかにも不親切そうな灰色の両開きの扉と、それを取り囲む白いタイルだけだった。

 溜息を吐き、肩をすぼめてシャーランは先へと進んだ。一方通行なのだから、前へ進むしかない。彼女から、諦めが垣間見えた。石橋を渡る前に一度立ち止まる。

 小川が流れていた。

 とても澄んだ水で、川が流れるように壁に横長の穴が空き、流されてしまわないに鉄格子が施されている。底は浅いようで、緑、クリスタルなどの輝かしい石が埋め込まれていた。

 思っていた通り、たった二歩で石橋は渡れてしまった。渡った後は、黒いタイルに出迎えられた。黒いタイルは鏡のように容姿を映すはずなのに、どのタイルにもシャーランの姿はなかった。それどころか、『鏡』という要素すら持ち合わせていないようだった。光を放つのに精一杯で、それ以外の特徴を犠牲にしてしまったかのようだ。

 ステンドグラスの扉に近付く。暖色系のガラスが取り扱われ、剣を持った天使が描かれていた。シャーランの影がステンドグラスと重なり、剣先が彼女の心臓部を突き刺しているような絵面が出来上がった。

 彼女自身はそれに気付くこともなく、ドアノブを回す。扉が前の方へと開いた。躊躇いがちながらも、彼女は中へと入っていく……。


 吹き抜けとなった広い空間。中央に巨大な支柱と穴がある。穴は深くて底が見えず、支柱も奥へと続いていた。落下防止の為に、シャーランの肩までの高さがある柵が取り囲まれ、一箇所だけ支柱に行く為の細い通路が用意されている。そして何より、首を直角に曲げても頂上が粒のように小さくなるくらいに高く、そして陽の光が当たっていた。と言っても、地上で浴びる陽の光とは違う。彼女は今、陽光の一筋の光に照らされているのだが、いつまでそこにいても自身が暖かくはならない。太陽だけでなく、人工的に作られる光でもある程度の熱は発しているのに、彼女が当たっている光、天高くまで続くこの広々とした空間を照らす光には、熱が存在しないのだ。

(塔みたいな作り……。形骸な様が否めないけれど)

 彼女の言う通り、塔とも呼べるこの空間は、目の前の大きな支柱以外に見つめるものは何もなかった。

 しかもその支柱に、何やらたくさんの本が詰め込まれているのが見えた。遠くからではよく分からないが、支柱には同じ大きさで、色彩豊かな本が柱を取り囲んでいるのだ。それは上にも下にも続いている。

 彼女は支柱へと行く唯一の手段であろう、細長い通路を使って支柱へと向かった。渡っている途中、底を見てみた。何も見えない。照らされる光も通さない黒、黒、黒。落ちてしまえばただでは済まないだろう。

 通路を渡り切ると、彼女が柵越しに見た巨大な支柱を埋め尽くすものは本ではないことが分かった。言ってみるならば、何かが入っている箱のようなものだ。背の部分に各自のタイトルが載っているのは変わらないが、一つだけ手に取ってみると重く、中を開けると巨大な鉄の円盤が入っていた。不思議に思いながら、彼女は手に取った箱を元の状態にして、唯一空いた隙間を埋めた。


「いらっしゃいませ。ようこそ、永遠の世界へ」


 シャーランは、声が聞こえた左の方向を反射的に振り向く。

 そこには、青年が立っていた。

 緑の髪で肩まで当たらない程の長さ、金色の目で童顔で、口元は常に微笑を浮かべている。白い長袖のポロシャツとスーツの黒いズボンの服装で、その上に藍色のエプロンを着ていた。シャーランは右足を通路の方に向け、いつでも逃げれるような態勢をとる。


「警戒しなくて結構ですよ。ここは知識の映画館。ありあらゆるものが詰め込まれ、すべてのものがこれらの映画フィルムに秘められている。永遠を持った者だけしか、入ることを許されない。そしてここに来る者は皆……何かを求めて迷い込んでくるのです」


「永遠?」


「はい。お客様は何かを探しにここへとやって来た。そしてその探し物を手伝うのが、僕の役目です。さて、お客様は何をお求めでしょうか?」


 シャーランは少しばかり困惑していた。自分は何も探していない。ヴァイス・トイフェルがいると思っていたのに、ここにいるのは映画フィルムと青年だけ。年齢は、自分より年上なのは間違いない。けれど、身長は彼女とほぼ同じだった。


「あの……わたしは病院にいたのですが……。ここから戻る方法を、何か知っていますか?」


 すると青年は目を閉じて、何かを考えている素振りを見せる。目を開けた後も、彼の微笑は変わらなかった。


「かしこまりました。では、それをお探ししましょう。こちらへどうぞ」


 彼は下に続く階段を降りていく。シャーランは彼に続いていくかどうか迷ったが、ここの場所は彼の方が詳しそうに見えるし、自分一人で動いていても病院へ戻ることは出来ないという結論に至った。今は、彼に頼るしかない。彼女は、青年の跡に続いて階段を降りていった。

 下へ降りたことで光が少しだけ遠ざかり、周りが暗くなった。降りた場所も変わらず映画フィルムがぎっしりと詰まっており、青年は悩みながらも、そこから一本のフィルムを取り出した。


「あなたがお探しのものは、これでしょうか?」


 青年が持っているフィルムのタイトルには『選ばれた子』と書いてあった。何が何だか分からない彼女と青年の間に、映画フィルムの棚から長机が出てきた。机の上には映写機が置いてあり、青年はフィルムの中から円盤を取り出して、手慣れた様に映写機にセットする。

 それと同時に、光が消え、暗闇となった。

 映写機から光が出始め、映画フィルムの棚とは反対側にあるスクリーンに映し出される。青年の金色の目が、淡く光っていた。


「昔、とある女の子がいました。裕福な家庭、優しい両親。女の子は笑顔で溢れ、それこそ太陽のように輝かしいものでした。彼女は、選ばれた子だったのです」


 青年のモノローグを背景にするかのように、スクリーンに映し出される一人の女の子。その子に、シャーランは見覚えがあった。驚愕し、目が次第に大きくなり、画面に釘付けとなる。何故なら、その子は――


「昔の……わたし?」


 十二年前のシャーラン・イヴェール、本人だからである。

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