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白銀のヴァールハイト  作者: A86
5章 忍び寄る影
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第154話 忘却の少年

 開けた場所に躍り出ると、黒髪を一つに束ねた少女、もといシャーランが中心の辺りにいた。近くには、恐らく彼女の母と思われる墓がある。夕日が直接顔に当たっているので、彼女も墓も黒い影にしか見えないのだが。

 彼女は俺達の姿を確認したあと、少しだけ顔をこちらから背けた。


「ごめんね、みんなを呼びに行ってたんだ」


 彼女の顔には、罪悪感のようなものが含まれている。それと気まずさもあるのだろう。


「別に。この場所はいつか話す予定だったから……」


 すると、クレアが前に出てきてシャーランに近づき、深々と頭を下げる。突然のことに、シャーランも俺達も理解ができずに固まる。俺とアークも彼女の姿勢に若干の戸惑いを見せた。


「あなたの能力のことをシーナから聞いた。あなたが苦しんでいるのを知らずにひどいことや無責任なことを言ったりした。ごめんなさい」

 

 風が吹き、クレアの髪が少しだけ揺れる。見渡す限りの木、木、木。時を忘れ、どこにいるのかも朧になりそうな場所で彼女のシャーランに対する謝罪は、まるで炎天下の熱気で先の景色が揺れる直線の道のようだった。シャーランは僅かながらに顎を動かし、目に俺やアークの姿を映すと再びクレアに視線を向けた。彼女の手が太ももの辺りで動き――おそらく手汗でも拭いているのか――抽象な世界を具現化して言葉にしようと努力していた。

 間を置いて、彼女の口元がようやく動き始める。


「大丈夫よ。わたしの態度にも充分問題があった。あなただけのせいじゃない。わたしにも非があるから……ごめんなさい」


 彼女も手を前にそろえて頭を下げる。俺はつと、アークの方を見た。彼は口角を上げて二人の様子を見ていた。

 二人同時に頭を上げ、双方の目がやっと互いを見た。


「シーナが探してるよ。戻ろうシャーラン」


「……ええ、そうね。……そうだったわね」


 辺りはもはや、人間なら先も見えないほどの暗さとなっていた。ようやく他の人の輪郭を認識できるほどで、あと数十分もすれば何もわからなくなるだろう。針葉樹が目印だとしても、日が暮れればそれは役に立たなくなる。空にはまだ茜色の足跡が残されているが、もう少しすれば消えてなくなるだろう。時間の猶予はあまりない。


「ほら、これを使って」


 アークは友人に借りていたものを返すかのような雰囲気で、シャーランに木の棒を差し出した。彼女はすぐに棒を手に取るわけではなく、恐る恐るといった感じでアークが掴んでいる端の反対側を掴んだ。


「夜になればデューク以外の僕達は何も見えなくなるからね。お互いに手をつないでいたほうがいいよ。シャーランは僕に任して。デュークは道案内をお願い」


 俺がクレアと手を繋ぎ、彼女がアークと手を繋いで、彼は棒を使ってシャーランと繋がることとなった。

 無音。足が地面につく度に落ち葉や雪を踏む音以外、何も聞こえない。さっきまで吹いていた風はどこかへと行き、もしくは吹いているのかもしれないが草木を揺らすまでの強さではないのかもしれない。世界の時間が止まり、俺達だけが動いているかのようだ。針葉樹の幹を探して、見つけるとそれを目で追い、通り過ぎれば次の針葉樹の幹を探す。

 左手からは彼女の手の温もりが伝わり、全身に伝わって近くには仲間がいる、一人じゃないと何度も反芻しながら自分自身に戒める。

 街に行った四人はもう騎士団に戻っているだろうか。夜も更けている。引き上げて自分達の部屋に戻っているだろう。あるいはシーナだけはシャーランがいた病室に残って、彼女の帰りを待っているのかもしれない。自分の親しい、家族同然の子がいきなり行方不明となってじっとしてなどいられないのかもしれない。どちらにせよ。シャーランの無事を早く彼女に伝えたいものだ。

 森を抜けた頃には、星々が姿を現し始めていた。昨日と違い、雲はあまり見当たらない。三日月が傾き、俺達を笑っていた。

 一度振り返り、全員いるのかを確かめてからクレアと手を離した。最後尾にはシャーラン、ちゃんといる。四人共、何事もないようだ。


「全員、いるよな?」


「……うん、全員いるよ。とにかく病院へ戻ろう。もしかしたら、みんなそこにいるのかもしれない」




 病内は、優しさはあるがぶっきらぼうな照明に照らされて、外とは対照的に明るく暖かかった。入ってすぐ、俺達は鹿の女の子が手を後ろで組み、苛立つ足取りでずっと同じところを周り続けている姿を見つけた。自動ドアが開くわずかな音にすら過剰に反応し、そこにシャーランがいるのを確認すると強力な磁石に引き寄せられる金属のようにこちらへと向かい、彼女の腕を鷲掴みにした。


「シーナ、わたし――」


「理由はあとで聞くから。担当の医師も、怒ってるからね」


「はい……」


 抑揚のないシーナの言葉と気迫はすぐにシャーランを黙らせた。そのままなす術も無く引きずられていく彼女を、俺は苦笑しながら黙って見ていた。


「まったく、外出許可もなしに外へ出ないでよ。たとえ本調子に戻っているとしても、そこは何もしないで安静にするの。今回のことは流石に許さないからね。一日中見張ってるから――」


 シーナの小言を小耳に挟みながら、騎士団へと戻ろうとしたときだった。不意にシーナの動きは止まり、言い忘れていたかのように俺達を呼び止める。


「三人共、リアムとミリーネが探してたよ。ありがとね、シャーランを見つけてくれて」


 そう言うと彼女は、シャーランを連れて病院の角を曲がって見えなくなった。リアムとミリーネが俺達を探している。おおよそ、寮にでも戻っているのだろう。


「探してるって何だろうね」


「さあ……何か街で見つけたとか」


 リアムの問いに俺は曖昧な回答を示す。ミリーネがいるかもしれないということで、クレアが先に自分の部屋へと戻っていった。俺とアークはあとに続き、冷たい氷のような世界へと再び足を踏み入れていく。背後で自動ドアが閉まる音が聞こえた。




 俺やアークの部屋、金属のドアノブを回して部屋の中へと入る。そこには、どこかぐったりとした様子で椅子に座っているリアムがいた。俺達を見るや否や、スイッチが入ったロボットのように動き出してこちらへ駆け寄ってきた。


「デューク、アーク。帰って来たか。お前達が騎士団で捜索していたとき、こっちは街でちょっとした事件が起きてたんだ。お前達ならもしかしたら、なんとかなるかもしれない。とにかく、こっちに来てくれないか?」


「待ってリアム。何があったの?一緒に街に行ったヴィルギルはどこ?」


「その、ヴィルギルに問題が発生したんだ」


 落ち着きを払いながら、リアムは街で起こった出来事を俺達に説明し始めた。



 今から数時間前の騎士団の近くにあるヘルシャフトの街へと振り返る。シャーランがいなくなったという報せを受けて、リアムとミリーネ、ヴィルギル、シーナの四人で街への捜索へと出かけた。シーナの言葉頼りに彼女とよく行っていた場所、行きそうな場所へとすべて足を運んでいった。当然、彼女はどこにもいない。途方に暮れた一行は遺憾な気持ちで騎士団へと戻ろうと思った。だが、シーナだけはまだあきらめきれておらず、街中を駆け回り続けていた。残された者は、街に来たついでということで虐殺事件が起きた現場へと訪れることとなった。

 現場は未だ規制線が張られていた。幾重にもある黄色いテープが人をその先へと通さないように守っていたのだ。中では騎士団と思われる人達が残された物品の確認などを行っていた。事件が起きた場所は、車が通らない幅がとてつもなく広い通りだった。迷いのない真っ直ぐな一本道でそのまま辿っていけば騎士団へと行く汽車が待っている。特に事件が起きた場所は店などもたくさん並び、普段ならこの街で一番の賑わいを見せるところなのだ。それが今では閑散として店の窓ガラスも割れており、季節が冬ということもあって寂しい雰囲気が倍増していた。


「静かだな」


「静かだねぇ。賑わいを見せてた場所とは思えないよ」


 リアムの呟きにミリーネが賛同しながら、現場の光景を見つめている。ふと、ヴィルギルが何かを思い当たったかのようにもたれていた壁から離れ、


「俺、近くの路地裏とかに彼女がいるかもしれないからちょっと見てくる。二人共、ちゃんとここにいろよ」と言って二人から離れて路地の方へと向かっていった。

 いきなりどうしたのだろう、訝しい眼差しで彼を見つめるリアムをよそに、ミリーネはあくびとため息を混じらせたように大きく口を開けた。


「それにしても、シャーランどこに行っちゃったんだろう。連れ去られちゃったのかな」


「物騒なこと言うな。騎士団のほうにいるのを祈るしかないだろ。街中をこれだけ歩き回ってもいないなら、この街にはいないんだろうな」


「そうだねぇ。事件が起きた場所も、窓ガラスとかが散乱してる。犯人、みんな自殺したんでしょ?」


「ああ」


「止められなかったのかな、と思うんだけどね。みんな死んじゃったのはすごく悔しいな。やるだけやって、事情も教えずに逃げていったみたいに」


 彼女の意見にはリアムも同感だった。犠牲者を生み出した挙句に自ら命を絶たれては、遺族はさぞ無念が残っただろう。

 ミリーネはいつもながら、突然話題を変えてきた。


「この後さ、ヴィルギルと一緒に勉強会を開こうよ。あたし、分からないところとかあるし」


「お前と俺が習ってるところは違うけど、いいのか?」


「違うけど、ほぼ一緒でしょ。一人で唸ってるより、参考書とかを使いながらみんなでやった方が理解しやすいと思うから」


 去年と比べると、彼女の言語から滲み出る幼さーー無邪気な子供っぽい口調が少なってきているように見える。歳を重ねるごとに大人っぽくなっているという証拠なのだろうが、彼女の特徴が消えつつあることに一種の寂しさが彼の中にあった。表面上に浮かべはしないものの、自分の周りの世界が少しずつ変化し始めていると感じているのだ。

 その時、ヴィルギルが向かっていった路地の方向から叫び声が轟いた。


「アギャギャギャギャアアアアアアアアアアア!!!」


 甲高い男声が灰色の世界を切り裂いた。奇声としか思えない声に、リアムとミリーネだけでなく事件現場にいた騎士団全員が驚いて声が聞こえた方を見る。

 リアムは、その声の主が誰なのかがすぐに分かった。


「ヴィルギル?」


 湧き上がる不安を堪えながら、彼は路地の方へと向かった。ミリーネも後ろから小走りでついてくる。一段と暗い曲がりくねった路地の脇道であるところを右へ曲がると、建物と建物が挟まれた決して陽が当たることのないゴミの吹き溜まりのような道があった。長さは両側の建物の外壁程度しかないので非常に短いものなのだが、黒い石畳みの道が暗なイメージを膨らませ、壁には苔やシダで埋め尽くされかけており、所々にあるゴミ箱がこの道の臭気を狂わせ、他とは違うものへと仕立て上げている。ゴミ箱の一つが倒れ、中身が散乱しているのを見るからに、カラスがイタズラでもしたのだろう。

 しかしリアムが見ていたものは右側の壁にある、苔に覆われていない扉だった。半開きとなっており、声は上の方から聞こえてきた。扉の中を覗くと、階段が上へと続いている。外観からだと建物は八階まであり、上下運動をするかのように階段が重なり合っていた。


「ここ……昇るの?」


 ミリーネの声は明らかに嫌がっていた。五階以上もある階段を昇ることになれば、別の方法はないのかと思うだろう。しかし階段以外何もなく、もしくはエレベーターなどの機能が付いているかもしれないがそこには見当たらず、探しているのは時間が勿体無いとリアムは感じていた。


「ヴィルギルがここを通ったかもしれないからな」


 リアムはコンクリートを踏みしめる度に出る、響かない音を出しながら上へと昇っていく。ミリーネも後ろから来ているのだが、体力が違うし、嫌々ながらなのですぐに彼との差が一階分くらいまで広がってしまった。

 途中、踏み間違えてコケそうになることはあったが、リアムは最上階まで昇りきった。階段が途絶えた先は鉄製の両開きの扉が待ち構えている。建物の屋上へと出るのだろう。彼は右側のドアノブだけを回し、右足から扉の先へと踏み込んでいった。

 茜色の空、風が彼を包み込み、彼の細長い縞模様の尻尾は左右に揺れ動いていた。だが彼が最初に見て感じたのは空でもなければ風でもない。彼の近くに三人の人物がコンクリート上で倒れていたのだ。一人はヴィルギルで、残りの二人は全身を包むような藍色のローブを纏い、フードを被って顔も分からなくなっている。


「ヴィルギル……!」


 リアムは三人の元に駆け寄る。ローブの人物に彼は心当たりがあった。忘れもしない一年前のあの事件。自分の人生や運命を狂わせた、思い出す度に嫌悪感を抱く組織……イデアルグラースの下っ端の服装だ。

 ここで、リアムには疑問と違和感が生じた。彼の推測では、ヴィルギルがこのローブの二人を追ってこの屋上まで追い詰めていったのだろうというものだ。だが、そこから先が分からない。何故この三人がここでのびているのか、理由が全く分からない。リアムはローブの二人が被っているフードを外し、首元に手を当てて脈があるのかを確かめた。一人は若い女性で、もう一人は三十代後半ぐらい男性だ。二人の顔はひどい有様だった。女性の顔は爪のようなもので掻き毟られ、血が滲み出ている。男性の方は口から泡を吹きだしており、目は白目となって見開いていた。双方の顔色は泥で汚れた白シャツが漂白剤で洗われたかのように真っ白だった。

 二人は既に死んでいた。リアムは二人の頭を置き、ヴィルギルの方も確かめた。死なないでくれ、死なないでくれ、逸る気持ちが先走ってさっきから心臓が高鳴っていた。

 息がある。彼は生きていた。

 安堵して肩の力が抜けていく。生きているということは、ここで何があったのかを後で彼から聞くこともできるということでもあった。取り敢えずローブの二人を騎士団の方へと運び、その後は専門家に任せよう。彼はヴィルギルを揺すりながら、目を覚まそうとする。


「おい大丈夫か……ヴィルギル」


 彼の目蓋がピクリと動いた。そして、ゆっくりと目を開けてリアムの顔をじっと見る。


「うん、大丈夫だ。ところで一つ聞きたいんだが――」


 彼の言葉に耳を傾けるリアム。しかし、彼から紡ぎ出される言葉はあまりにも意外なものだった。




「あんた誰?」



「ミリーネも来て、シーナと合流をして遺体を運んでいったんだ。ヴィルギルのことも話して、さっきまで検査をしてもらってきたところだ。けれど脳に異常はない。彼から話を聞いても、俺達のことはおろか、何故ここにいるのかすら覚えていなかった。けれど、自分が生まれ育った街や両親のことは覚えていた。ヴィルギルから騎士団の記憶……約三年間の記憶が無くなっていたんだ」


「今そいつは、どこに?」


「そこにいる」


 リアムが指差す方向は、彼の寝室だった。彼の部屋を覗くと、金髪で青色の目を同い年の少年が俺達を捉えた。


「あっどうも。もしかして、ここのルームメイトの人?俺はヴィルギル・カイザー、よろしくな」


 そう言って、彼は進んで俺達に握手を求めてきた。調子の軽さは普段と変わらない。いつもの彼だ。俺は差し出された薄い肌色の手を握りながら訊ねた。


「突然だが、俺のことは覚えているか?隣にいる、このトカゲ獣人は?」


 彼は名探偵のように顎に手を当てて顔をしかめる。しばらく考えを素振りを見せた後、少し困った様子を見せて手を顎から離す。


「悪い。それ、あのリアムっていう虎獣人からも似た質問をされたが、お前らのことはよく覚えてないんだ。ここが自分の部屋だったのもついさっき知ったし」


「じゃあ、何で建物の屋上で倒れてたのか覚えて――」


 俺がさらに質問をしようとしたとき、彼の様子がおかしいことに気づいて質問を喉の奥へと押しやった。彼の目が生気を失った――光を失って立ち尽くしているのだ。じっと黙り込み、手をだらしなくぶら下げている。黙って様子を見ていたアークが試しに、彼の目の前で手を振った。

 反応なし

 アークは困り果てたように両手を挙げ、彼を置いたまま居間へと戻った。リアムが困っていた理由が、少しだけ分かってきた気がする。


「ヴィルギルの様子、見たか?こっちが記憶についてあれこれ質問すると、人形のように突然動かなくなるんだ。あの状態に入ると十数分はあのままだ」


「……ヴィルギルの容態は理解できた。同時に見つけたイデアルグラースの手下は、何が原因で死んでたんだ?」


「脳死だ。しかもただの脳死じゃない。脳が穴だらけで虫食い状態だったようだ。気持ち悪くて流石に見ることはなかったがな」


 脳死の二人。その近くで倒れていたヴィルギル。その上、最近の記憶もなくしている。リアムが三人を見つける前に奇声が聞こえた。

 全然分からない。今日はブラウンが死んだことや、シャーランを捜したことで手一杯で脳があまり働かない。明日、ダニエル先生ところへ行って他の事件について進展があったか聞いたほうが良さそうだ。


「とにかく、俺は明日ヴィルギルを連れて騎士団の中を案内したりして、少しでも思い出せるようにしてみるよ。二人は、どうする?」


「俺は他の事件がどうなってるのか聞いてくる。ブラウンについての情報も知りたいしな」


「僕は、デュークと同じで。一人にすると危なっかしいことをしそうだからね」


「おい」


 相変わらずサラッと俺に毒を吐くアーク。三人のそれぞれの思案を浮かべながら、全員が床についた。そういえば、彼らは街への外出許可は取ってたのだろうか。最悪、黙って外に出ることも可能なのだが……。ふとした疑問も、数秒たてばすぐにぼんやりとして分からなくなった。目を閉じて、やがて来る睡魔を待ち続ける。


 最近、ヴァイス・トイフェルの襲撃がない。


ーーーー


 場所は森の奥深く、騎士団からそう離れていない場所で白髪の少女の話し声が聞こえる。


「ええ、まだこちらの動きに気づいてませんわ。そろそろバレ時でしょうけれど」


 相手が何かボソボソと話す。彼女は少し頷きながらこう話す。


「今日、手下の二人が見つかりそうでしたけれど、ちゃんと始末されたようです。情報は一切漏れてません。……わたくしは指示通りに遂行しますわ。私情など挟みません。………嘘?ふふ、そうですわね。こんなチャンス、滅多にありませんから」


 やがて彼女の話し声は止まり、話していた機械であろう、小型の携帯をしまう。彼女は木陰から騎士団の建物を見上げた。


「こうして見ると、まるで城のようね。ハンティングのしがいがあるわ。このチャンス、逃してはならない。……D計画は始まったばかりなのですから」


 彼女が木陰からいなくなる。どこにいるのか、なにを狙っているのか。それを知っている騎士団の者は誰もいない。

 空に浮かぶ三日月が笑っていた。

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