第14話 出会い
振り向くと、そこには俺と同い年の獣人の青年が立っていた。緑の鱗を持ったトカゲ獣人ですでに制服に着替えていた。
「座っていい?他に空いてなくて」
「ああ、別にいいよ」
トカゲの青年は俺の向かいに座った。
「僕の名前は、アーク。君は?」
「俺はデューク、デューク・フライハイトだ」
「ふーん、デュークって言うんだ。もしかして、今年から対白魔騎士団に入るの?」
「あぁ、そうだ。お前は違うのか?」
「ううん、君と同じだよ。そっか、それじゃあ僕達同級生になるね」
アークはとても気さくな奴だった。俺の話をすると静かに聞いてくれるし、興味を持ってくれる。話過ぎず、かといって話さすぎず、そんな感じが俺にはとても好みだった。
いろんな事を話した。家族のことや、自分の故郷のこと、中学校での友人のことも話した。でも、やっぱりここで聞かれるのは――
「デュークはどうして対白魔騎士団に入ろうと思ったの?」
この質問だ。正直に答えるべきか俺は迷った。いや、初対面の人には遠慮しておこう。
「……もともと人の役に立つ職業をしたいって思っていたんだ。それで選んだ感じかな」
「やっぱりちゃんとした理由があるよね。僕は両親を見返すために入ろうと決めたんだよ。少し格好悪いでしょ」
「別にそんなことないさ。いたって普通だと思うよ、俺は」
そう、いたって普通だ……俺に比べれば。こんな気分になったのは初めてだった。いつの日か、味わったことがある気分。リックは……今の俺をどう見ているんだろう?もし生きていたら、俺をどうおもったんだろう?ふと思い浮かんだ。喜ぶだろうか、いや喜ぶだろう。あいつはいつもそうだ。いつも……そうだった。
窓の外はすでに夕暮れで日が沈もうとしている。空は赤と藍色の境目がぼやけ、淡い色を生みだしていた。雪はまだ積もっていて、真っ白な地平線が続いている。赤、白、青……ベタな組み合わせだ。
「デューク、どうしたの?」
「昔の友人を思い出したんだ。俺の進路を選ばせてくれた友人を」
「……分かるよ。そういうのって時折あるよね」
俺はリックに微笑んだ。外では雪が降り始める。その光景が幻想的だと少し思った。
しばらくの間、二人は無言だった。アークが口を開く。
「ところで、その刀は一体どうしたんだ?」
突然のことにビクッとなる。アークは単になぜ刀を持っているのかを聞きたいだけだ。何も驚くことはないだろう。でも、これも正直に答えることが出来ない。送り主も分からない誰かがいきなり送ってきた、なんていくらなんでも可笑しいだろう。
「俺の父さんが昔、古い友人に渡されたんだって。俺が持ってたほうがいいって譲り受けたんだ」
これなら別に怪しまれないだろう。俺でも刀が一体何なのかまだ分からないのだから。
すると、アナウンスが鳴り響いた。
『まもなく対白魔騎士団に到着します。制服に着替えてない生徒は至急いそいでください』
今の俺の姿は黒に近いグレーのパーカーにジーンズの状態だった。そっか、もう着くのか、早いな。
慣れないネクタイに苦労しながらも俺は制服に着替えた。それと同時に電車が止まる。ついに到着したんだ。途端に緊張が走った。
「行こうかデューク」
「お、おう」
俺達は通路に出て入り口を目指した。
◇◇◇
電車を降りると霧が少し発生していた。霧は霧でも、ヴァイス・トイフェルが生み出したのとは程遠い。自然にできたものだろう。それにしても寒い。俺は毛皮を持っているからまだマシだと思うが、人間はさすがに耐えられないじゃないんだろうか。……案の定、くしゃみをしている人間がいる。アークも寒そうに身をさすっていた。
そんな時、向こうから一人の男性がやってきた。おとぎ話に出てくる王子のような格好をしていて、ブラウンの髪、腰にはレイピアを身に付けている。
「よくぞ来た生徒諸君。私の名前はダニエル・マッカンだ。今年から入る生徒は私について来るように」
ダニエルという男性の言うことに従って、ついていくことになった。意外と俺達が乗っていた電車には俺達と同じ新入生の生徒がたくさんいた。ダニエルさんは普通に歩き続ける。
もう数十分は歩いたんじゃないだろうか。たくさんの木々を抜け、人工でできたような広場に着いた。そこには俺達と同じような生徒がたくさんいた。そして、その向こうには――
「対白魔騎士団の学校?」
「あれが……」
学校というより大きな城だった。巨大にそびえ立ち、俺達を圧倒させる。写真でしか見たことがないから実物を見るのは初めてだ。
「あれが、お前達が通うことになる所だ。そして、それと同時に私達、対白魔騎士団の本拠地でもある。……どうやら私達が最後のグループのようだ。城の中へ入ろう」
ダニエルさんの導きで城の方へ進んでいく。期待感が徐々に高まっていった。
この時、これから何が起きるのか、俺達は予測することなんて出来なかった……。




