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白銀のヴァールハイト  作者: A86
5章 忍び寄る影
147/173

第144話 葛藤と身の危険(リアム視点)

今回、尋常じゃないくらい長いです。気をつけて(?)ください。

 怖イ

 怖イ

 怖イ

 人ガ……怖イ


――――


「電車とか、人がたくさんいる所は大丈夫?」


「はい。以前よりだいぶマシになりました」


「人の目線を、あまり気にしなくなってきたかな?」


「……そうですね。完全にとは言えませんが」


 目の前にいる、俺の担当の医師の質問に順次答えていく。医師はデスクトップに向かって作業を行い、俺の診察券に次に訪れる日程を書き込んだ。


「それじゃ、また来週」


「ありがとうございます」


 先生に一礼して、俺は待合室に戻る。待合室にいる人達は皆、一般の人達。ここはメンタルクリニックでもあるから、訓練生だけでもなく誰でも通うことができる。

 三列に並べられた椅子の一つに座る。受付から聞こえる声。流れ込む音楽。俺の周りには人は、数人しかいない。みんな、何かに没頭している。雑誌を読む人。人工知能とゲームをする人。誰もが何か夢中になって、誰も俺を見ていない。

 ナノニ

 どうしてこんなに、怯えているるんだろう?


「リアム・テルフォードさん」


 受付から聞こえる声を辿って、引き寄せられていく。診察料を払い、処方箋を受け取る。受付の人にも一礼して、俺は外に出た。

 騎士団の内部にある診療所。外と言っても、目の前に広がるのは高い天井にある照明に照らされた、幅が広い通路。ここは病院の一角だ。医師や患者が行き来しており、俺はその流れに紛れ込む。

(誰カガ俺ヲ見テイル)

(好奇ナ目デ)

(蔑マレル)

 不安がたまらなく溢れ出てきて、息が荒くなっていく。呼吸が止まり、圧迫され、苦しくなる。落ち着きを取り戻すため、鞄から薬を取り出し、持ち合わせていた水とともに飲み込んだ。

 救世主が、体の中へと溶け込んでいく……。

 途端に平静に戻った。効力はまだ出ていないけれど、薬を飲んだという安心感が俺を落ち着かせるようだった。


「リアムー」


 向こうから、俺を呼ぶ声が聞こえる。無邪気で優しい声。ミリーネが、俺の傍へとやって来た。


「どうだった今日は?」


「……」


 これも、気持ちのせいでもあるのだろう。彼女の笑顔を見た瞬間、硬直していた筋肉がほぐされていくよな気がした。


「……どしたの?」


「……なんでもないよ。いつも通りだった」


「そっか。よかった」


 いつもと変わらない、ミリーネの笑顔。

 彼女を先導に、俺達は寮へと戻っていく。俺は何度も、病院までついてこなくてもいいと言っているのに……。そこまで子供じゃないから、平気だからって。

 けれども、結局は彼女がいて安心している自分がいる。

(ソシテ俺ハ彼女ニ依存シテイク)


「……」


 時折頭から響いてくる声。これは、俺の本能みたいなものだろう。機械音。そう、俺の本能は機械だ。自分の心というのを持たず、人の思うがままに利用されるような。まるで玩具のように扱われたあの時。

 今なら分かる。

 あの街にいた頃の俺は、自分の意見が持てず、心が麻痺した状態だった。街中から蔑まれて、実験動物にされて……それでも精神が崩壊しなかったのは、きっとすべての感覚が……『痛み』というのがなくなっていたんだろうと、今では思えてくる。知らない間に傷が増えていって、体も心も本来なら悲鳴を上げているはずなのに……。『痛み』を感じないせいでそれに気づかず、痛点がない鯉がいつの間にか死んでしまうように、気づいた時には、俺は故障して暴走を起こしていた。

 最初に始めた治療は、その麻痺した心を再生させることだった。本当の痛み。人が持つ感情。誰もが持つパーツを作り、それをはめ込んでいく。時間がかかっても、焦らず、それでも必ず回復を目指していく。ミリーネやヴィルギルがいてくれたおかげで、俺は順調に回復していった。俺を心配してくれる友人がいるというだけで、こんなにも安心できるんだと、こんなにも心強いんだと、実感することができた。

 

 けれど俺に待っていたのは、第二の関門だった。

 今まで傷つけられた痛みを感じた瞬間、体や心に負われた傷が……今まで気づかなかった痛みが止め処無くやってきた。当たり前だったことが、突然出来なくなった……。

 それは、自分に余裕が出来た故なのだろうか?人がいる場所に立つことが、出来なくなったのだ。訓練の時や授業の時に、こんなにも大勢の人に囲まれたところでやっていたと思うと、自分のあまりの鈍さにぞっとする。

(怖イ)

(助ケテ)

(嫌ダ)

(逃ゲナイト)

 気分が悪くなり、みんなの前で嘔吐した。体の震えがいつまでも止まらなかった。立ち上がることが出来ないほど、顔を上げることができないほど、俺は人に恐怖を抱いていた。

 医師はその事は予想済みだったらしい。俺は入院することになり、騎士団の訓練から遠ざかり、治療に専念することになった。

 訓練をしていないのだから、当然俺は『黒の騎士団』の称号を外される。でも別によかった。俺は実験目的で入った。目的を失った今、学費は奨学金で賄えていたとはいえ、対白魔騎士団というのは自分にとってはどうでもよくなっていた。称号を外されようが、退団されようが、自分にとってはどうでもいい。自由になって、そのことにまだ戸惑いがあったようで、俺は先の見えない未来に途方に暮れていた。

 けれど、俺の傍にはミリーネがいる。ヴィルギルがいる。俺を受け入れてくれる……一人の人物として受け入れてくれるみんながいる。そう思って、俺はこの騎士団に残りたいと強く願った。この先、ヴァイス・トイフェルによって引き裂かれることになったとしても、またつらく苦しいことになったとしても、自分で選んだ道だと思えば、それは自己責任。これから起きる悲劇も、自分で決めたことだ。受け入れる覚悟はできている。自分で決めた運命を。

 みんなと一緒にいたいという運命を受け入れることができる。

 だから、今の一瞬を精一杯楽しみたい。昔の俺なら無理だった、自由な日々を噛み締めて生きていきたい。その為に、自分の欠陥を埋めていくのだ。気づかなかった傷を、少しずつ治していく。


 そう思った自分がいた。しかし、分かったのはあまりにも深すぎて、後遺症が残るほどの傷だった……。


 縛り付けられた日々に残した傷跡は、あまりにも多すぎた。人を見るだけで竦みあがり、あの地獄のような日々を夢に見て、何度も吐いてしまった。思い出すと泣き叫んで、止めることができない衝動にも駆られて、暴れて、その度に医師は駆けつけて俺の容態を確かめる。

 少なくとも、人前に出れるようになるには数ヶ月もかかった。入院している間は、デュークや他のみんなが見舞いによく来てくれた。彼らを見ても恐怖を感じない。それは、彼らが俺を脅かす存在ではないというのを、本能で分かっているからだろう。見舞いに来てくれた中でも、断トツでよく来てくれたのはミリーネだ。勉強を教えに来てくれたり、騎士団の生活のことを話してくれたり、俺が読みたかった本を探してきてくれたりした。素直に嬉しいと思った。俺の身近に、こんなにも素晴らしい友人がいたことを改めて認識した。

 俺の傷は深い。もしその傷が――

 浅くても

 深くても

 数日で治るのでも

 数ヶ月で治るものでも

 傷が塞がっても傷跡が残る。その傷跡は執拗に残り続け、見るたびに過去のつらいことがflash back(フラッシュバック)する。

 逃げたくなるかもしれないけれど、それを少しずつ解きほぐし、解消していく。

 彼女の存在がいるだけで、俺の体の震えや嘔吐が収まっていく。感謝しかなくて、感謝しかなくて、お礼を絶対にしたいと思って、けれど自分に見合ったお礼ができない無力さを知って、感謝してもしきれないくらい救ってくれて、彼女の笑顔を見る度に……


 嬉しくて、哀しくなった


 人前に出ても平気になったのは、三週間前。人の目線は未だに気にする。冬ではあり得ない汗がふきだしたような……。

 人の視線が目に入るだけで、誰かに監視されているような思いに捕われる。狙われているかもしれないと考えてしまう。

 俺の目線の先にいるのは、二人の人物。一人は男性医師で、電話で誰かと話している。もう一人は女性の患者で、病内のコンビニエンスストアの前にあるベンチに座って、手元に持っているペットボトルを揺らしながら宙を見上げている。

 二人共自分の事情があって、それに専念していて、俺の存在など全く気にしてもいないだろう。ましてや、俺はこの二人と話すことは一生無いだろうし、俺が彼らの近くを通ったことすら気にしていないだろう。

 俺と二人は、無関係なのだから。

 無関係なのに、赤の他人のはずなのに……。人の視線を集めているような気分に陥り、不安でたまらなくなる。

 この人は俺をどう思っているんだろう?

 どう俺を認識しているんだろう?

 被害妄想が広がっていき、それが現実なのでは、と考え始めていく……。

 俺の手に、誰かの手が触れられた。相手はミリーネだ。彼女は無言で、笑顔を浮かべながら俺を見ている。


「大丈夫だよ。あたしがついているから」


 そう言ったのか。言ってないのか。でも俺は、彼女の声が聞こえた。

(助ケテ)

(助ケテ)

(助ケテ)

(うるせぇぞ、獣)

 少しだけドスの効いた声で言うと、頭の中で声は聞こえなくなった。

 ミリーネがいなければ、俺はここまで早く回復出来なかった。今の俺には、彼女が必要だ。

 依存

 前に助けられた時に、この言葉に恐れて身を引いた。けれど今は逃げない。依存を言い訳に逃げるようなことはしない。自分が独り立ちできるまで、一人で生きていけるほど回復できるまで。それまでは、彼女の傍にいよう。けれどやっぱり、彼女に寄生しているかもしれないと思う。


 今の彼女は、俺をどのように認識しているんだろう?

 どういう存在なんだろう?


 一度は聞きたいと思っているが、怖くなって途中で聞くのをやめてしまう。

 やっぱり、俺は甘えているんだろうな。今のこの幸せな時を壊したくないと、変わってほしくないと、傷ついた心の奥底はそう思っている。それが、無意識だとしても……。


「そうだ!ねぇリアム」


「なんだ?」


「今日すごかったんだよ!クレアがね、床にあったバナナの皮で滑っちゃって!それでねーー」


 話している彼女はいつも楽しげだ。子供っぽくても、明朗活発でも、それは彼女の個性。

 俺を受け入れてくれた一人。

 今は依存でも構わない。

 何年もかかるかもしれない。

 でも

 普通にできるほどまで回復して

 一人でも平気になったら。

 今度は俺が、彼女を守る存在になりたい。

 この想いを

 言える日が来るのだろうか?

 言いたくて

 言いたくて

 言いたくて

 言いたくて

 言えなくて

 何も出来なくて

 俺は、空虚な気持ちで紙飛行機を飛ばす


「聞いてる?……リアム?」


 本人には言えない

 この気持ち

 ミリーネ……

 俺は――お前のことが好きだ

 大好きだ……!


「……悪い。ちょっと考え事してた」


「えー。まぁいいや。リアムは何か読みたい本はある?」


「そうだな……」


 目の前の彼女は、まだ俺の想いをはっきりとは熟知していないだろう。けれどそれで構わない。今は。いつかこの想いを告げる日が来るまで……俺は、負けない。


 病院から騎士団本部への道は妙に険しくて、人間なら凍えてしまうような寒さだ。体温を奪われないように、暖かさを失わないように、俺と彼女は手をつなぎながら、暗いアスファルトの道にある街灯に照らされながら、寮へ戻った。


――――


 部屋に戻ると、三人はそれぞれのことに夢中になっていた。デュークは寝る前なのにコーヒーを飲み、アークは明日の予習をしていて、ヴィルギルはもう寝ている。


「おかえり、リアム」


 デュークが先に俺の存在に気づいて、声をかけてくれた。


「ただいま。コーヒーを飲んでて大丈夫なのか?」


「寝る前にいつも飲んでても平気だし、多分大丈夫だろ」


「カフェインが入ってるから、眠りは浅くなってると思うけどね」


 机に向かっていたアークが口を挟み、体を俺達の方へ向ける。ノートや参考書をまとめているのを察するに、予習は終わったのだろう。


「リアムも戻ってきたし、そろそろ僕達も寝ようか」


「そだな。消灯時間もあと少しだし」


 時計を見ると、あと三分で九時になろうとしていた。騎士団の消灯時間は九時で、起床時間は五時だ。睡眠時間としては、充分とも言える長さだ。


 自分のベッドに向かい、体を預けようとしたその時――

 殺気


「……」


(怖イ)(怖イ)(殺サレル)

 感覚が鋭くなっている俺にとって、これは危険信号だった。何か身の危険が迫っている。命を脅かす何かがいる。俺の本能はそう叫んでいるように思えた。


「リアム?どうしたの?」


 アーク……。この際、手伝ってもらうしかない。


「アーク。何か変に思わないか?」


「変?」


「ああ。胸騒ぎがして……。この近くに」


「そう言われても、特には……」


 アークも一緒に探し始める。心臓の鼓動が激しさを増す。俺の体全身が逃げろと叫んでいるようだ。


「やっぱり、気のせいだ……」


「そう?なにかあったら教えてね。おやすみ」


「おやすみ」


 きっと、疲れてるんだ。訓練を再開して一ヶ月。まだ体の調子が戻りきれていないのかもしれない。

 そう思ってベッドに腰掛けようとすると――

(殺サレル!!)


「……っ!」


 頭が……割れそうなくらい痛い……。頭痛を止める薬はあったか……?近くの台に手を伸ばし、置きっ放しだったコップがぶつかって、床へと落ちる。

 途端に、頭痛は収まった。


「はあ……はあ……」


 息が荒い。心臓はバクバクと勢いを止めようとしない。二つの異変はなんだ?共通点は?

 答えは一つ

 ベッドの中に入ろうとした時だ。

 まさかとは思っているけれども、確かめずにはいられない。この、一見清楚で汚れを知らなそうな寝台に何かあるのか?

 俺は、武器の一つである短剣を手に取る。いざ危険が迫ってきた時に対処するためだ。

 違和感はあるか?俺はそっと、掛布団に手をかける。自分の手が小刻みに揺れている。俺の命を脅かす存在がいるとしたら、それは――

 俺は思いきり、掛布団をベッドから引き離した。

……

 特にない。ここじゃないのか?じゃあどこに……。そして俺の視界に映ったのは、純白の枕。危険を隠せるとしたら……。

 俺はゆっくりと、枕に近づく。短剣の切っ先を枕に食い込ませる。プス、という音もない音が聞こえた気がした。そこから、一気に枕を取り除く。


 すると……いた!黄緑色で、手のひらサイズのサソリが。サソリは障害物が消えて、俺の方へ向かってくる。素早い。

 途端に、恐怖が倍増した。


「うわぁぁぁぁ!!」


 半ば半狂乱となり、俺は必死に枕を投げてサソリの行く手を阻ませる。サソリの上に枕が落ちたのを確認すると、俺は後先考えずに短剣を枕を通しながら突き刺し続けた。

 何度も何度も……。枕から羽毛が飛び出し、短剣にはサソリらしき体液がベットリと付いていたことに気づいてから動きを止めた。

 目の焦点が定まらない。顔の筋肉がこわばり、息はさらに荒くなっていた。


「どうした、リアム!?」


 振り返ると、デュークとアーク、そして眠そうに目蓋をこすっているヴィルギルの姿があった。説明するよりも、見てもらった方が早いと判断した俺は、ゆっくりと枕を持ち上げる。

 そこには、足が何本か切断され何度も串刺しにされたことで生き絶えたサソリと、そのサソリの身体中から出てくる体液で変色したシーツだった。


「あっ……これ……!」


 デュークとアークは唖然としている。ヴィルギルも、そのサソリの死骸を見たことで目が冴えた様子だった。


「すぐに室長に連絡しないと!デューク、呼んできてくれる?」


「分かった!」


 デュークは即部屋から出て行った。誰が?どうして?未だ混乱した思考の中でそう問いかける。黄緑色のサソリ。見ただけで危険だと分かる。

 もし、何も気づかずに頭を枕の上に乗せていたら……

 想像すると、寒気がした。そしてそれは、一つの結論にたどり着く。


 誰かが……俺を殺そうとした。俺は……狙われていた。


――――


「これはサソリの中でも危険種です。それに攻撃的な性格だ。彼が頭を置いていたら命を落としていてもおかしくなかったでしょうね」


 告げられた言葉は、俺の予感を的中させることになった。デュークは室長と毒専門の講師を連れてきた。


「一体誰が……?」


「それはこれから調査する。おそらくだが、犯人は昼間に侵入したのだろう」


「このサソリは、素人が扱えるものじゃない。でなければ犯人の方が死んでいる。奴は、サソリか毒を専門としているはずだ。すぐに特定できるだろう」


「それにしても、よく気がついたよね。ついさっき僕に違和感を感じるって。その時から分かってたの?」


 アークが俺に訊いてくる。多分、昔の俺なら分からなかった。危険だと察知できたのは、俺の中の恐怖という感情が正常に動いている証拠。あの街で知らない間に育った鋭い感覚を、扱えるようになったということだ。


「まだその時は分からなかった。嫌な予感がするだけでな。気づいたのはその後だ」


「何にせよ、犠牲者が出なくて本当によかった。あと一歩で、事件に繋がっていたからな」


 この事は内密にという約束で、室長と講師は部屋を出て行った。代わりに、新しい枕とシーツを渡された。すぐに体液がこびり付いたのは外して、新しいのに変える。ベッドはまた、新品のような姿へ戻った。


「リアム、具合は?」


「何とも言えないな」


「だろうな。ミリーネにも、この事は言わない方がいいぞ」


「……分かってる」


 ヴィルギルに念押しをされる。彼女には余計な心配をかけてしまうだろうし、俺にとってもそれは避けたかった。

 今度こそベッドに身を預け、何もない天井を見上げた。騒動が起きた事で、空気はまだ張り詰めていたけれども、電気は消され、全員が眠りにつくことになる。あくまで平常に、何も起きていないというのを周りに悟らせる。

 眠れそうにない。犯人は誰だ?何故俺を狙った?恨み?いや違う。少なくとも、俺の中で恨まれそうな奴はいない。

《疑問符》

 俺は起き上がると、医師からもらった薬を取り出し、水とともに流し込む。この薬は精神や身体の緊張をほぐしたり、不安をやわらげてくれる。そして眠くなることから、夜だけ飲むようにと言われていた。

 頭を枕にのせる。今は何も考えたくない。恐い気持ちもあるけれど、きっとそれは薬が解消してくれるはず。

 ああ……

 微睡んできた。薬の効果かもしれない。深い深い世界へ、入り込んでいく。

 今は何も考えたくない。驚きも、辛いことも、全部。さあ、夢の世界へ――


 おやすみなさい

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