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白銀のヴァールハイト  作者: A86
5章 忍び寄る影
146/173

第143話 そして少女は思い煩う(デューク→シャーラン視点)

 赤い垂れ幕、照射したライトに照らされる舞台

 各席に座り、緊迫した空気が流れる講堂。全員の目の先にある舞台の上には、この騎士団の学長として務めている、スチュアート・サールウェル先生が立っている。先生の顔がマイクに近づき、その口から出てくる音波を俺達は耳で感じ取る。


「今、何故ここに集められたのか?その理由を知らない人が多いだろう。休業が終わって再び訓練生活になったことに嫌になっているのもいるだろう。だが私は、そんな話をしに来たのではない。皆は知っているかもしれないが、この騎士団の設立者……マイルズ・ビューマンのことを聞いて欲しい」


「設立者?」


 後ろにいたアークが呟く声が聞こえた。この騎士団を設立した人、か。確かその人、自殺したんだよな。


「マイルズは若い時に騎士団を設置、そしてそれまでの警察や自衛隊などのヴァイス・トイフェルに対抗する組織をすべて合併させて現在がある――」


「……そうなのか、アーク?」


「うん。騎士団ができる前からヴァイス・トイフェルはいたからね。それまでは軍隊とかがすごい頑張ってたらしいよ。ここが対白魔騎士団の本拠地だけど、警備が主体となっている所、自衛隊が主体となっている所、みたいに世界各地に拠点があるんだって」


 よくそんなことできたな、そのマイルズ・ビューマンという人。広い人脈と資金がないと無理な気がするぞ。


「――さらに、私とマイルズは幼馴染で友人だ」


 ……今すごい情報が入ってきたような………。周りも少しざわめいている。


「驚くことも無理はない。なにせこの事は直隠ししてたからな」


 何故?隠していたんなら、何で今言うんだ?


「マイルズが設立者で、私はその補佐だった。共にヴァイス・トイフェルを倒すことを目標にしていた。しかし彼は、私の元から去った」


 淡々と、彼は喋り続ける。


「自殺だった。当時43歳。原因は毒薬の服用。何故そのようなことしたのか、それは今でも分かっていない。遺書すらも見つかっていないのだ」


(遺書)(見つかってない)(疑問)(何故?)(どこに?)

 ?

 疑問、疑問、疑問、疑問、疑問。


 単一な言葉が、俺の体の中を駆け巡るように、流れてくる。 


「しかし彼は、自殺をする前日に私に言い残した言葉がある。『私が騎士団を設立したのには、二つの理由があるのだよ。その二つがこの世界から消滅した時、騎士団も自然と終わるだろう』と」


 ……まるで、小説とかでよくあるような謎の遺言を残して世を去るみたい、な感じじゃないか。そんな意味深なことを言って死んだのかよ……。モヤモヤとさせた状態で?理由を教えてもいい気がするがな。友人にも理由を教えないとなると、余程深刻なものかもしれないが。


「彼が生きていれば、私と同じ54歳になっているだろう。とにかく、彼はこの騎士団を遺して逝った。私にはそれを継ぎ、新たな兵士を生み出す義務がある。彼のことも頭の片隅に置いておきながら、訓練に励んで欲しい。話はこれで以上とする」



ーー放課後

 俺とアークとリアムとヴィルギルは、寮への帰路についていた。


「あぁ……頭痛ぇ」


「頭痛か?」


「ヴァイス・トイフェルの吐息を直接頭に被ったからな」


 隣でヴィルギルとリアムのやり取りが聞こえる。木の葉はもう落ちきるような季節に直面している今、日も完全に沈んでしまったことと気温がマイナス一℃のこともあって、白くて暖かい“ぶれす”が常に口から出てくる。


「いくら実戦でも実力を出し切れるようにって言っても、本物と戦わせることはないだろ!おかげで二度も死にかけたんだぞ」


「それくらいの気で臨めってことなんだろ。命の保障をしてくれてるだけで十分じゃないか。実戦ではその保障はないしな」


「っ……。まぁ……そうだよな」


 二人が話しているのは訓練の一つである実戦練習だ。使うのは――生きているヴァイス・トイフェル、本物だ。この騎士団には、生かされているヴァイス・トイフェルが十数体もいる。襲撃したヴァイス・トイフェルの一部を捕らえて、半分は解剖・研究のために『灯』に送り、もう半分は練習用としてこの騎士団で保管されるのだ。


「でも本物は違うよな。寒気とかすげぇするし、見ただけで怖いし」


「今まで偽物で練習してきた分、本物とのギャップの差があるよな」


「リアム、ヴィルギル」


「ん?」


「なんだ?」


 二人の会話に俺が入り込む。


「俺とアークは部屋に戻るが、二人はどうするんだ?リアムは今日、カウンセリングがあるんだろ?」


「ああ。部屋に荷物を置いたら、行くつもりだ」


「俺は部屋に残る。付き添いなら今日、ミリーネがするしな」


「……。何度も言うが、別に付き添わなくても大丈夫だ。そこまで子供じゃあるまいし――」


「俺はよくても、ミリーネは断じて聞かないだろうぜ。彼氏の悩みに真摯に向き合いたいとも言ってたしな」


「誰が彼氏だ。今すぐその言葉を撤回しろ」


「え……?違うの?」


 無慈悲にも、アークの発した言葉に皆の目線が彼に集中する。彼はすぐ、自分の言ったことに恥じらいを持った。


「ご、ごめん」


「いや、別にいいんだ。……正直な話、俺はあいつと付き合いたいとは思ってる」


「はっきり言ったぞ、こいつ!」


 彼の突然の発言に、ヴィルギルが反応を示す。そんな恥ずかしいことをよく堂々と言えたな。


「けれど、まだ俺は精神的に全快してないし、彼女の恩も返せてない。不完全な状態で告白はしたくないんだ。彼女に想いを告げるのは、すべてが整い、終結した時にしたい」


「それ……何気にフラグを立ててないか?」


「フラグ?この戦争終わったら結婚するんだ、みたいな?」


「それは死亡フラグだ。ま、それも無くはないがな。けれどお前が今した発言は、恋が成就しない伏線みたいなものだぞ。例えば、どっちかが死ぬとかな」


「ないだろそれは。漫画や小説じゃないのだから」


「ヴァイス・トイフェルと戦う職業の時点で、もうアウトだけどな」


 死亡フラグ、か。リックが死ぬ直前にも、そういう発言をしていたような気が……。


「……………ふーん。とにかく、二人がこの後どうするのかは分かったよ。それじゃあ、早く戻ろうか」


 アークが意味有り気な表情を浮かべながら、その話は打ち切りとなった。


――――


 運命というのは、この世界にあるのだろうか?あらかじめ決められた設定とシナリオ。それをわたし達は知らない間に演じている。

 平和な国に生まれた人

 紛争当事国に生まれた人

 優しい両親に生まれた人

 粗暴な親に生まれた人

 健康に生まれた人

 障害を持って生まれた人

 その人、誰もが持つ“特徴”を決められているとしたら。人生をあらかじめ設計されているとしたら。それを作った神様は、実に無慈悲で残酷だ。

 人生を自由なく、それでも多様に生きているわたし達は何なのだろう?何のために生かされているのだろう?


 わたしは――



「どうしたの今日は?シャーランから誘ってくるなんて珍しいじゃん」


 騎士団の中にある喫茶店。わたしの向かいに座っている子、シーナは頼んだシナモンドーナツを口に頬張る。


「別に用という訳じゃないの。……聞いて欲しいことがあって」


「美味しい!このドーナツ最高!」


「そう。よかった」


 彼女はドーナツを入れた口の中にコーヒーを飲んで、ひと息つく。口の中が空になると、こっちの方を見た。


「それで。聞いて欲しいことってなに?」


「……わたしの中で、どうしても解決できないことがあるの。一年前の襲撃事件、わたしはデューク・フライハイト達を手助けするために、戦いに参戦した。それは、昔のわたしだったら考えられない行動なの。今まで、自分に得することか、あたえられた義務しかこなして来なかった。でもあの行動は、どちらにも含まれていない」


 手元にあるコーヒーカップの蓋に手をかけ、蓋をあける。密閉された牛乳を注ぎ込み、漆黒の世界が光によって照らされるように、色が変わっていく。


「わたしと彼らは、あくまで同志を持っているだけでそれほど親密でもないのに、何故助けるような行動をとったのかが分からないの。答えを一年くらい探したけれど、見つからなかった」


「……なんだ、そんな事で悩んでたの?」


 そう言って、シーナは再びドーナツを頬張る。


「単にシャーランが、みんなを守りたい!一緒に戦いたい!そう思っただけ。それは、他人を思いやる気持ち。あたしは良い事だと思うけどね。たとえ、それが無意識だとしても」


 他人を思いやる……。なんとなくだけれど、予想はついていた。それでも認められなかった。だって、それは――


「感情に身を任せて……行動したようなものじゃない」


「……」


 馬鹿ね、わたし。こんな気持ち、疾うの昔に捨ててきたはずなのに。


「シャーラン」


 シーナがわたしを呼ぶ声がして、わたしは彼女の方へ向く。真剣で、でもどこか心配している目。


「やっぱり、まだ悩んでるの?」


「!!」


「もう彼此10年だもんね。今朝の話で――」


「シーナ……!」


 彼女の口に、人差し指を近づける。彼女に触れないように、そっと。


「公共の場所でその話は無しと約束したでしょ。表向きでは、わたしとあなたはただのルームメイトで、それ以外接点がない赤の他人なんだから」


 わたしは彼女の口から人差し指を離して、周りを見た。他の生徒との距離は離れている。聞かれた様子はない。


「……そうだよね。それでも――」


「分かってる。分かってるの。でも、悔しいの」


 外の景色を見た。雪がしんしんと降って、辺り一面銀世界になっている。


「静かね……」


 世界は静かで、冷たい。


 運命というのは、この世界にあるのだろうか?あらかじめ決められた設定とシナリオ。それをわたし達は知らない間に演じている。

 平和な国に生まれた人

 紛争当事国に生まれた人

 優しい両親に生まれた人

 粗暴な親に生まれた人

 健康に生まれた人

 障害を持って生まれた人

 その人、誰もが持つ“特徴”を決められているとしたら。人生をあらかじめ設計されているとしたら。それを作った神様は、実に無慈悲で残酷だ。

 人生を自由なく、それでも多様に生きているわたし達は何なのだろう?何のために生かされているのだろう?


 わたしは――わたしの人生は、いつからこうなったのだろう。いつから、壊れたレールの上を歩き始めたのだろう。

 その答えは、わたしの“特徴”、わたしの“個性”、わたしの……“能力”

 

 この“特徴”を決めた神様は……本当に無慈悲だ。


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