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白銀のヴァールハイト  作者: A86
5章 忍び寄る影
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第142話 再開

長らく、お待たせいたしました。それではどうぞ。

 翌日、騎士団へと戻り再び訓練を始めた。訓練生達もみんな戻ってきて、元の賑わいを取り戻してきている。訓練を再開して一週間は、あまりの厳しさに今までの感覚を取り戻すのに時間がかかった。


 そして学年が三年になると、生活形式も変わってきていた。まず寮の部屋数が少なくなり、四人部屋となった。一、二年の頃は二人部屋でルームメイトも変わらなかった。ところが、三年になると今までのルームメイトと同時に、別の部屋である二人と一緒に統合することになるのだ。

 部屋の統合の仕方は様々だ。成績が同じだったり、人間関係が形成されている人と一緒にしたりなどだ。つまり、まったく話したことがない赤の他人と一緒になることはない。

 こういうことをする理由としては、ヴァイス・トイフェルと戦う時に、相手との協調性が重要となる上に、四、五人で動くことが多いのだ。だから、いざ本番になった時でもすぐに実力を発揮できるようにという意図があるのだ。


そして、俺とアークが統合することなった人は――


「よう。どうしたデューク?顔色が悪いぞ」


「眠れてないんだよ。どうも夜中に起きちまうんだ」


「眠りが浅いのか?」


「まあ、な」


リアムとヴィルギル、この二人だ。どっちも親しい関係だったし、それに俺とアークとリアムは黒の騎士団というのもある。そこは分類した人達も認めていた。


「三人共、早く講堂へ行かないと遅れるよ」


「ああ、分かった」


 アークの呼びかけによって、俺達は集会がある講堂へと向かう。親しい友人が三人もいるとなると、流石に賑やかになってくる。なんだかんだ言って、楽しい日々が続いている。ヴァイス・トイフェルの襲撃が一切ない今、世界中の人達も束の間の幸せを感じているのだろうか?

 ……ヴァイス・トイフェルが現れないのは、きっと意味があるはずだ。何かが……。


「考え事している顔だね」


 隣にいたアークが話しかけてきた。こいつは、人の表情をよく観察している。事実、俺は今考え事をしていた。時折俺の心情を言い当ててくるから、少しだけ緊張してしまう。


「君がその表情をしている時は、何か不安なこと……例えば将来の行く末を考えているよね」


「お前……将来ヴァイス・トイフェルと戦うんじゃなくて、探偵になった方がいいぜ。そっちの方がむいてそうだぞ」


「探偵になれるほど、僕はそんなに洞察力とか人を見抜く力はないよ。失礼なことを言うけれど、君は結構思ってることが顔に出やすいから分かるだけさ」


 思ってることが顔に出やすい……。まるで俺が単純な奴みたいじゃないか。


「それで?何考えてたの?」


「ずっと、ヴァイス・トイフェルの襲撃の情報がないだろ。それはすごい平和なことなんだろうけれど、嫌な予感しかないんだ。怪物を使役している組織の存在を知ってると尚更なんだよ」


「そうだよね……。たとえるなら、溜めに溜めといて一気に放出してきそうな感じかな。それとも、何か裏で暗躍していて、僕らはそれに気づいていないだけかも」


「そうなると、今まで以上に警戒することになるじゃねーか。考えた途端に頭が――」


「デューク。お前襲われたんだって!?」


 ……痛くなりそうだ。そう言おうとしたら、俺とアークの間にヴィルギルが挟みこんできた。さっきまでリアムと後ろの方にいたのに。いや、それよりも……


「その情報、どこから仕入れてきた?」


「ん、今ミリーネ達と出会ってな。そこで知った」


 ということは、クレアがばらしたということか……。あまり人に広めたくないことなんだけどな。


「で、で?どうだったんだ?武器持ってたんだろ、犯人」


 それに、こいつはあまり相手の状況を無視して介入してくるし……。まあ別にいいんだけれど。


「どうって……確かに挙銃とか持ってたし、他にも向こうの仲間が何人もいたけれど、難なく蹴散らすことができたな。素顔を見せないようにしていたし、典型的な犯行をしようとしていたというのが正直な感想だな」


「挙銃を持ってたんなら撃ってくるんじゃないのか!?よく無事だったな、お前」


「けどな、その拳銃の中に銃弾が一つしかなかったんだよ」


「え、なんで?」


「知らない。もしかしたら一発しか入ってなかったから使用を渋っていたのか、使うつもりは無かったのか……。犯人が死んでしまった以上、真相は闇の中だけどな」


 共犯者も覚えてないの一点張りのようだ。あの犯人は何故俺達を狙った?何故自害をした?イデアルグラースの刺客……なくはない。共犯者はみんな、あの組織が身に着けているローブと似ていた。

 今、この事を考えても答えは出てこない。騎士団からの情報を待つしかない。


 講堂へと着いた俺達は、集会が始まるのを待っていた。


「フ、フライハイト先輩!」


「……!ブラウン?」


 声をかけてきたのは、ブラウン・アッカーという栗色の体毛を持った犬人の少年だった。一年前の戦いの舞台となった街に住んでいて、直接兵士の戦いを見たらしい。それに魅入られた彼は、自分も騎士団に入ることを決めたらしい。現在は一年目。俺的には、死と隣り合わせになるような仕事によく就こうとしたな、と思っているが意外と騎士団に入団してくる奴らも似たような理由だ。逆に、俺みたいな奴は希少性が高い。何故なら、ヴァイス・トイフェルに襲われればその恐怖で身も心も凍りつき、抵抗しようという気力がなくなってしまうからだ。

 話を戻そう。ブラウンが入団してきて、始めて出会った先輩が俺だった。種族が同じということもあり、彼は俺によく懐いてくる。今では話し相手になるほどまでの関係になった。


 ちなみにだが、ブラウンは見た目はかなり可愛らしい。背も平均の獣人男子ではかなり低い155センチで、目も大きいため、マスコットキャラクターにも見える。その上俺は当初、彼を女の子だと思ってしまった。制服の違いがあるため、すぐに間違いに気づいたが、それでも……そう思わざるを得ないような外見をしている。仕草も時折女性っぽくなることから、俺は勝手に『中性獣人』と思っている。


「先輩、どうしたんですか?黙り込んで」


「いや、なんでもない」


「その表情は、何か如何わしいことを考えてるね」


「人の表情を見て勝手な心情を説明するのはやめてくれ、アーク」


 断じて、如何わしいことなど考えてないと言いたかったが、誤解を招きそうな気がしたため、やめた。


「それで、どうしたんだブラウン?」


「い、いえ先輩が近くにいたので挨拶をしようと思っただけです」


「そ、そうか。ありがとな」


「はい。ではまた」


 律儀だな。ああいうところも含めて。

 そう思っていた時、マイクのスイッチが入る音が聞こえた。

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