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白銀のヴァールハイト  作者: A86
4章 棺の中の獣と華麗な少女
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第132話 決着

 魔女の動きはランダムだ。鉤爪が目の前に迫ってきたり、飛んだりと他にも様々である。近接戦は圧倒的に不利だ。武器を掴まれたら折られてしまうのは、リアムの短剣で証明されており、その手で体の一部でも掴まれたら、骨ごと握りつぶされそうだ。だからと言って、遠距離から攻撃すればいいかと聞かれると、首を傾けてしまう。空を飛んで避けられるかもしれないし、吹雪による視界の悪さのせいで、奴が少しでも俺達から離れてしまうと見えなくなってしまうのだ。


 結局は、俺とミリーネが魔女と戦って、空を飛んだ瞬間にシャーランが矢を放つという戦法になった。武器が相手に触れてはいけない以上、掴まれないように不意を突くか、脅しながら後退させていくような感じだった。


「ホラホラホラ!どうよ!」


 隣でミリーネは声を張り上げながら槍を振り回して、魔女を追い詰めていく。俺は鋼鉄でできた腕を何度も刀で叩いていた。叩く度にカキンと跳ね返ってくるだけで、特に効果はない。腹部や肩辺りのところも狙っているのだが、そこはいつも腕で防いでいた。そして刀を掴まれてしまう前に引き下がる。それがずっと繰り返されていた。


 今のミリーネは仕返しのような因縁があるため、勢いがある。俺はその波に乗っているようにも思えた。彼女が作った隙を突いて、逃している気がしてままならない。彼女の槍による攻撃も不規則で、向こうで判断して回避するというのは難しいだろう。だから今魔女は、空を飛ぼうにも飛べないのだ。……飛ばせる隙を作らせてくれないからだ。


「降参するなら今だよ?と言っても、アンタを許すつもりはないけどね!!」


「……」


 魔女は無言のままだった。


 槍が顔に向かって突かれようとする。それを魔女が左に向けるものの、彼女は一回右に回って薙ぎ払いをし、左側から槍の穂先が魔女の首に当たりそうになる。魔女の顔は下がり、腕が彼女の槍を掴もうとした。それを俺が刀で腕を貫こうとする。けれど、ミリーネが足で魔女の腕を蹴り上げたため、俺の攻撃は外れ、腕は槍を掴めずに引っ込まれた。


「……」


「畳み掛けるよ!!」


 魔女は無言のまま腕を見つめる。ミリーネが槍と共に迫っているというのに……。突然、背中に悪寒が走った。


「ミリーネ、下がれ!」


 俺は思わず、彼女にそう叫ぶ。彼女は少し驚いた表情でこっちを向いた。魔女は、開いた手をミリーネに向けた。そして、バチッという小さな音がすると、彼女は……倒れた。一瞬の出来事だ。


「っ……!ミリーネ……?」


 何をした?魔女は何をやったんだ?だが、俺に考えさせてくれる余裕は与えてくれない。赤い眼が俺に迫ってくる。手が俺を捕まえようとしてくる。今度は俺が後ろに下がっていく。


 目の前の景色が霞んだ。頭を振って意識を保たせる。少しだけ、腹部の方を見た。見ると、服が血でベットリと付いていて、そこから一滴ずつ滴り落ちていた。ずっと出血していたのか、俺は……。確かスドウの触手に絡みつかれてだった気がする。


 傷のことを考えると、腹部だけでなく背中も痛み始めた。まさか、背中の傷も開いてしまったのか?さすがに……これはキツイ。


 一本の矢が魔女と俺の間に突き刺さった。後ろから、こちらへ走ってくる音が聞こえる。二本の黒い剣が魔女の行く手を塞いだ。その剣を持った少女はこちらを見る。


「吹雪でよく見えなかったけど、あなた怪我してるじゃない。あとはわたしが対処するからあなたは下がってて」


 彼女は言葉は、ほぼ極限の状態だった俺にとっては助かったが、どこかに自分の情けなさがあった。敗北した気分がある。別に負けたわけじゃない。ここまで強敵と戦い抜いてきたために限界が来ただけなのだろうが、そうすると自分はまだ弱いと思い込むようになるのだ。倒すべき相手の強さにたどり着いていないように思い込んでしまう……。

 破邪の利剣が、余計なことは考えるなと言ってきた。一旦魔女から身を引こう。


 そう思って魔女から離れ、シャーラン一人で相手になろうとしていた時だった。魔女は俺を見据えて、シャーランの脇を潜り抜けるようにして追いかけてきたのだ。重症を負っている俺を先に始末した方が早いと判断したみたいだった。俺は刀で身を守るようにして後ろへと下がっていく。ここはヴァイス・トイフェルの上だ。足を踏み外したら真っ逆さまに落ちていくのがオチだろう。だから、後ろにも気を配らないといけない。鉤爪が俺の顔を何度も掴もうとしてくる。卵のように握りつぶされる様子が頭の中を一瞬だけ過ぎった。掴まれたら……死、同然だ。


「こっちよ!」


 シャーランの魔女の横に来て、矢を一本放って彼女の方を向くようにしている。しかし、魔女は気にかける素振りも見せなかった。むしろ攻撃の速度が上がっていき、俺は避けるのがだんだんと精一杯になってきた。

 そう思った瞬間、魔女の爪が俺の頬に直撃した。鋭い先端が頬を食い込みながら突き進んでいき、食い込まれたあとから血が出てきた。意識が少しずつ、朦朧としていく……。


 シャーランが双剣で魔女の胸部分を斬り裂こうとしていた。すると魔女は、ミリーネと同じように見開いた手を彼女に向ける。そしてまた、バチッという音がすると、彼女は崩れ落ちるように倒れる。

 彼女の名前を叫ぼうとする。けれど、口から声が出ない。頭痛に見舞われ始めてきた。魔女の表情のない姿がスーッと近づいてくる。力を振り絞って刀で近づけないように振り回す。けれど魔女には効かない。手で払われてしまい、刀を持っている腕に力が入らなくなった。魔女の手が俺の首元に当てられようとしている。抵抗もできず、力が抜けたように座り込む。首を絞められる前から息が……できない。



 爆発音が聞こえ、ヴァイス・トイフェルの動きが止まる。これは……ああそうか。クレアとリアムがやってくれたんだ。でも、魔女を止めるまでにはいかない……。

 その次に聞こえたのは銃声だった。すぐ後に、赤い雫が落ちた。何だあの雫は?魔女の影がずっと見えていたのだが、突然影が見えなくなった。

 今度こそ一体何が起きたんだ?あの銃声は誰のなんだ?俺は……助かったのか。腹と背中からの出血が絶えず、頭痛がひどくなっていく。そして俺は、何も分からないまま……意識を失った。


 最後に見えたのは、見覚えのある幼馴染の……一人の少女が俺に駆け寄ってくる姿だった……。

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