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白銀のヴァールハイト  作者: A86
4章 棺の中の獣と華麗な少女
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第128話 猛吹雪

 風と雪が吹きつけてくる。それでも前に進み、巨大なヴァイス・トイフェルに近づいていく。ワイヤーを屋根に突き刺し、体を持って行かれるような気分に陥ったかと思うと、その感覚に浸りきるまでにワイヤーを外して、別のところへ突き刺し、また体を持って行かれる……。それを繰り返しながらも、怪物との距離が縮まっていった。


 傷はまだ痛み続けている。屋根に飛び移って、降り立つ時に、ズキズキと痛んでいた。どうか……この戦いの間は我慢してほしい。痛い、苦しい。さっきの触手で首を絞められていたせいか、まだ呼吸が安定していなかった。こんな状況下で、ヴァイス・トイフェルにダメージを与えることができるのだろうか?遠くからずっと見ているけれども、対白魔騎士団の遊撃隊らしき人達が、ヴァイス・トイフェルの付近で黒装束と戦っている様子が見える。人数は黒装束の方がダントツで多い。そのせいで、ヴァイス・トイフェルに一撃も攻撃を与えられていない感じだった。彼らは地面で戦っている。一方俺達は、ワイヤー銃のおかげもあって、空中で移動している……。わざわざあの戦況の中に紛れ込まなくても、頭上を通ってヴァイス・トイフェルの体にたどり着けるんじゃないか?あくまで予想ではあるが……。できるか、俺に?


 俺の近くには、クレアとリアムがいた。俺じゃない。俺達だ。一人で戦っているわけじゃない。皆……皆いろんなところで戦っている。俺達も、負ける訳にはいかない。


 雪が激しく降ってきた。視界が少しずつ悪くなっていく。唯一、巨大なヴァイス・トイフェルの影だけが見えた。元を辿れば、雪を降らせたのはあの怪物でもあるのだから、近づいていくごとに激しくなっていくのは当たり前なのかもしれない。銃が冷たくなっていく中でも、手を離さなかった。


 五分後、やっと怪物の近辺まで来ることができた。街を飛び出し、木々を伝って進んでいき、俺達三人は一本の木の枝で止まった。視界は……最悪だ。何が何だかよく分からない。気候は猛吹雪だった。ヴァイス・トイフェルは木々を薙ぎ倒しながら進んでいる。


「……寒い……」


 クレアはコートで身を包ませ、体温を保っていた。俺とリアムでさえ、この猛吹雪に寒さを感じていた。

木の下では、さっきも言った通り兵士と黒装束の戦いが繰り広げられていた。視界の悪さで、戦況はよく分からないが、黒い姿をしている人がとても多かった。つまり、騎士団は押され気味ということになる。それでも、ヴァイス・トイフェルの影はゆっくりと動き続けていた。そこまで速くもないが、決して遅いという訳でもない。一体奴がどこへ向かおうとしているのかも分からない。大方、イデアルグラースが餌の匂いを予め地面に染み付けておいて、通ってほしいルートを形作っているから、今進んでいるのだろう。じゃなければ、住民が避難した街の入り口へ向かうだろう。そこには、奴にとっての餌があるのだから……。


「それで……ここからどうすればいい、デューク?」


 リアムが尋ねてくる。雪は降っているとは思っていたが、まさかここまで悪天候だったのは予想外だ。けれど、対象である怪物は見えるから支障はあまりない。


「まず、あのヴァイス・トイフェルの上に乗るんだ。三人全員が乗ったら、ワイヤーで体を縛り付けてお互いに繋ぎあっておく。時間が止められていても、クレアに間接的に触れていても動くことができるだろうし、万が一落ちた場合、すぐに引き上げることができるからな。クレア、ツァイトの鏡を実験したと言っていたよな。確認なんだが、間接的に触れておけば大丈夫なのか?」


「そこも検証したけれど、大丈夫だったよ。とにかく、時間を止めた人に触っていればいいみたい」


 それはよかった。心の中でそう思った。銃からワイヤーを出来る限り引き伸ばして、限界まで伸ばして、刀で切ればそれでいい。他の二人のワイヤーも繋げれば、かなりの長さになる。


「ワイヤーを体に括りつけたら、クレアが時間を止める。そこから三分間、爆弾を起動させて、他にもやれる攻撃を全部行う。とにかく、あれを止めることさえ出来ればそれでいいんだ」


「……分かった。猟銃を使ってもいいんだな?」


「何でもいい。あいつを倒せるならな」


 だが、ここで俺は一つ重大なことに気がついた。クレアとワイヤーで繋がっていれば動けるということは、足をつけるヴァイス・トイフェルも動いてしまうということに。やっぱり、触れずに近づいて攻撃するしかないのかもしれない。


「……やっぱり待ってくれ。ヴァイス・トイフェルの上に乗るのは駄目だ。木々を伝って攻撃しよう」


「そうなのか……。それより一つ聞きたいんだが、どうやって時間を止めるんだ?」


 ………そっか。リアムは、クレアが三種の神器の一つであるツァイトの鏡を持っていたことを知らないんだ。と言っても、言葉で説明すると長くなる。実際に見てもらった方が分かるだろう。


「それは、実際に見た方が早いな」


 そこから、俺達はヴァイス・トイフェルの頭部が見えるところまで移動するために、ワイヤー銃で木の上を移動していった。視界が最悪な中、前をちゃんと見据えていなければ、着地に失敗して木の枝にぶつかる可能性がある。風も吹き荒れているから慎重に、そしてバランスをとりながら進まなければいけない。


 下は地獄のようだった。もしあの人で埋め尽くされて、血と肉が飛び散っているところへ落ちていけば、まず助かる見込みはないだろう。


 ヴァイス・トイフェルの頭上が見えるところへ来た。俺は持っているワイヤー銃からワイヤーの部分だけを引き出した。城の地下で落下していた時も感じていたが、この銃に仕込まれているワイヤーはとても長い。十メートルは入っているだろう。


 ワイヤーを引っ張っていると限界が来たのか、抵抗を見せた。俺は、刀で銃口の辺りで切った。そこから、ワイヤーを腰の部分に巻きつけた。クレアとリアムは既に縛り付けている。銃一つだけでも特に不自由な長さではない。念のために、二つ取っておこう。


「頼むぞ、クレア」


 彼女は頷き、手鏡を取り出した。鏡の上に手をかざし、何か言葉を発している。すると、突然カチッという音がして、周りの景色が動かなくなる。


 時間が……止まったのだ。

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