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白銀のヴァールハイト  作者: A86
2章 対白魔騎士団
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第12話 家族との別れ

もっと丁寧に書けたらいいのに、といつも思いながら執筆しています。

「もう3年かぁ。早いねぇ」


 俺と両親は今、タクシーに乗って駅へと向かっていた。書物の謎を解くと決めてから約3年が経とうとしていた。自分でも驚いている、時が経つのはやはり早いものなのだ。


「それにしてもデュークがもう15歳だなんて、少し信じられないわ」


「ははは、これぞまさしく『光陰矢の如し』だな」


 父さんと母さんは呑気に話している。一方の俺はあまりうかうか出来ない気分だった。

 駅に着き、電車で数時間乗っていれば対白魔騎士団に到着する。……正直言ってここまでたどり着くのはとても大変だった。今でも覚えている、2人に対白魔騎士団に入ることを認めさせることを……。


 俺が決意を固めたのは、丁度1年前だ。さんざん悩み続けていたことも思い出す。対白魔騎士団に入り、ヴァイス・トイフェルと戦う身となるべきか、と。書物の南京錠をはずす鍵を見つけるだけで十分かもしれない。ただ、それだけではリックの気持ちを理解することなんて出来ないだろう。それに、俺が騎士団に入ろうと思っている理由はそれだけじゃなかった。


「デューク忘れ物はないわよね?」


「……うん、バッチリだよ。というか母さん、この質問4回目だよ」


「だって、デュークとはしばらくの間お別れになるんですもの。時折手紙を送ってね」


「分かってるよ」


 母さんの言葉で意識が現実に戻ってきた。窓の外ではまだ雪が積もっていて、雪景色からまだ移り変わっていない様子だった。俺達家族が移り住んだ街は都会で、高層ビルも立ち並んでいる所だ。最初こそは慣れない都会暮らしに戸惑うことはたくさんあったけど、学校でも少しずつ友人ができていったり、そんな自分の変化や、周りの変化に楽しさを覚えていった。

 友人とも離れ離れになるのはつらいけれども、騎士団で新たな親友を再び作ればいいと思うと寂しい気持ちではない。


 話が少しそれてしまった。対白魔騎士団に入ろう、そう決めたのは去年の二月だった。両親に打ち明けるのにはまだためらっていたから三月頃になってしまったけれども……。両親の反応、聞いたときの賛否が脳裏に焼きついている。

 あの会話がふと思い出した。次々と、止まることなく……。












◇◇◇


「二人共、聞いてほしいことがあるんだ。テーブルに座って」


「えっ、一体何なの?」


「いいから。これからの進路のことだよ」


 進路、この言葉を聞くと二人はすぐに座ってくれた。俺の家では自分の事は自分で決めるとなっているから、俺の進路の事もほぼ自由に決めていい制度だった。


「ずっと考えていたんだ。二人に打ち明けるか、どうか」


「……言ってごらんデューク。何でも」


「あのさ……俺が、対白魔騎士団に入りたいって言ったらどうする?」


「「え……」」


 二人の驚きが重なる。静けさが漂い、風が吹く音や、それで木の枝が窓をたたく音しか聞こえない。


「ちょっとそれ、本気なの?」


「本気だよ。さんざん考えて決めたことなんだ」


「だからってそんな危ない所――」


「まあ待て母さん。デュークの話も聞こうじゃないか。デューク、どうして対白魔騎士団に入ろうと決めたんだ?それは、やはり……友人への影響か?」


 父さんの真剣な眼差しがこちらを向いてる。父さんは昔から人を見極めるのが得意だった。今回は、俺の志がどれ程本気なものなのかを見ているようだった。


「うん、それもあるよ……。リックの意思を継いで入る、その気持ちもある。でも、もう一つ理由があるんだ。俺は一度、ヴァイス・トイフェルに襲われた……。そこで大切な親友と築き上げられた平和を失った。立ち直るのにすごく時間がかかったよ。でも、世界には俺以上につらい思いしている人がいるんじゃないか?って次第に思い始めたんだ。俺と同じ、ヴァイス・トイフェルによって……。そんな人達を助けたいんだ。誰かに助けられる俺じゃなくて、誰かを助けられる俺に。命がけだよ。もしかしたら死ぬかもしれない。それでも、人一人の命を救いたい。人々を守りたいんだ」


 自分の気持ちを一言一句二人に伝える。これって綺麗事かもしれないな。……たとえそうだとしても構わない。これが俺の思ったこと、対白魔騎士団に対する意欲なのだから。

 父さんはまだじっと俺のことを見つめていた。そんな沈黙を破ったのは母さんだった。


「だとしても、わざわざ対白魔騎士団に入らなくても、もっと別の職業があるでしょ。それでも駄目なの?」


 俺は首を縦に振った。すると父さんがようやく口を開いた。


「デューク、お前の気持ちはよく伝わった。だが、それでお前はいいんだな?後悔なんてしないんだな?」


「しないよ。絶対……!」


「……それじゃあ今から準備していかないとな」


「でも、あなた!」


「ロザリー、デュークの決めたことは決して生半可なことじゃない。こうしたいという理由がはっきりとある。それを尊重するのが家の制度じゃなかったか?」


 母さんは俺を見て、そして父さんを見る。そして、小さなため息をついた。


「わかったわ。あなたの夢を応援する。でも……決して無茶しないでね」


「うん、ありがとう。父さん、母さん」









◇◇◇


 父さんの決断があったからこそ、今があるんだよな。やっぱり、父さんにはかなわないな。

 駅が見えてきた。俺達はタクシーを降りる。


「気をつけて。交通事故には注意するのよ」


「大丈夫だって。……行ってきます」


「「行ってらっしゃい」」


 俺は二人にあいさつをして、荷物を持ち、駅のプラットホームを抜け、電車に乗り込んだ。ドアが閉まり、外の景色がゆっくりと動きだす。

 太陽が出始め、まるで旅立ちを祝っているかのように照らしていた。




 





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