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白銀のヴァールハイト  作者: A86
4章 棺の中の獣と華麗な少女
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第120話 死闘

 刀がぶつかり合って、弾き合う。足元を狙われ、俺は相手の刀を飛び越えて避けた。すると、刀を持っていない手からピストルを取り出し、俺に一発発砲した。破邪の利剣で弾丸を受け止めたため、弾丸は真っ二つに割れて当たることはなかった。

 俺は一旦、後ろに退く。


「どうした?怖気づいたか?」


 銀狼は余裕のある表情で俺を揺さぶってきた。向こうは刀の他にも銃器を持ち合わせている。それに比べ、俺は破邪の利剣と予備である刀しか持っていない。今の銃弾は刀で防げたとしても、再び接近戦になった時にも同じように防げるという保障はない。

 事の始まりは十五分前くらいに戻る。スドウの爆弾によって破邪の利剣が破壊されて、床は崩壊し、巻き込まれた俺は城の地下へと落ちていった。けれども、アークがワイヤー銃を渡してくれたお陰で、地面に叩きつけられることはなかった。その地下で俺は、城を支えている柱の中から本物の破邪の利剣を見つけた。何でここにあるのか?そもそもいつ、どこで取り替えられたのか?疑問が生まれてきたけれど、そこにヴェインと名乗る、イデアルグラースの五芒星第二位の銀狼が俺を殺しに来た。こっちはしばらくの間訓練していない上に、傷が完治していないという不利な条件(後に、ヴェインが銃器を持っていたのも判明した)が揃っている状態で戦うことになった俺は、浮かび上がった謎を奥に押し込め、本物の破邪の利剣を手に持って迎え入れることになった。

 ヴェインと対峙して五分くらいが経つ……。距離を置き、相手の様子を見る。ヴェインは、いつ俺が向かってきてもおかしくないように身構えていた。刀にピストル……他にも何か持っているんじゃないか?近接戦の武器しかない俺にとっては、銃とかはかなり厄介だ。


“そうとは限らないぞ。私がついているならな”


 破邪の利剣が語りかけてきた。確かに、俺は三種の神器の一つを武器として持っている。それでも、威圧感がすごい。最悪な場合、負けるんじゃないかと思ってしまう程だ。


“まだ負けたとは決まってないだろう。気持ちで負けていてどうする?”


 ……そうだな。戦いの間でネガティブな考えはよそう。相手の隙を見つけよう。見つかりそうになかったら、俺が作るしかない。

 ヴェインはしびれを切らしたのか、俺の方に向かってきた。背を低くし、刀を横に傾けている。あの状態から見て、薙ぎ払いをしてくる可能性があるだろう。俺は敢えて動かず、向こうが迫ってくるのを待った。ヴェインの刀が俺の間近まで来る。そこからゆっくりと、刃先が孤を描くように動き出す。予想通りだ。俺は素早く破邪の利剣を動かし、相手が感づいてしまう前に刀を捕らえ、外側に弾き出した。


“いいぞ。そのまま無防備となった体幹を狙え”


(言われなくてもやるさ)


 俺が刀で突こうとした時、ヴェインは腰につけている黒い物体を手に取ると、スイッチを押してそれを地面に落とし、一気にその場から離れた。俺は地面に落とした物体を見る。


“閃光弾だ!目を瞑れ!”


 破邪の利剣の指示で俺は目を瞑る。けれど、物体から溢れ出てくる眩い光を少しだけ見てしまった。目蓋の色が赤くなり、元の暗闇に戻る。目を開けると、背景がぼんやりとしていた。ただでさえ地下で暗いのに、これだとよく分からない。奴は今、どこにいるんだ?


“下だ!後ろに下がれ!”


 俺は後ろに下がった。すると、目の前で白く細い何かが下から上へと物凄い速さで上がった。その直後に、白い影が現れた。おそらく、あの閃光弾で俺が目くらましになっている時に、こっちへ近づいてきたんだろう。俺の真下くらいに来ると、刀で斬り上げた。それがさっきの白くて細い影だった。破邪の利剣の声が無かったら、首をかき切られていたかもしれない……。


“考察はあとだ。次の攻撃が来るぞ。さっきと同じように下がり続けるんだ”


 目がまだ眩んでいる中、腹部に激痛が走った。俺は反射的に後ろに下がる。そこから刀の言葉に従って、後ろに下がり続けた。相手が何をやっているのかよく分からない。腹部の痛みは収まるどころか、あちこちでチクチクと痛くなった。まさか、突きをしているのか?それも一回じゃなく何回も……。

 だとしたら下がり続けるんだ!しかし、向こうが突くのをやめてくる可能性もある。だとしたらどうする?またピストルを取り出してきたら……。目がよく見えていない今の俺は防げるのか?


“安心しろ。私がいる。攻撃を変えてきたら伝える”


 また、破邪の利剣から声が聞こえた。結局、何から何まで全て破邪の利剣に助けられている。俺は……こいつに依存している……。破邪の利剣を持っていると、妙な安心感が生まれてくるんだ。最強の武器でもあるからというのが一番の理由だろう。ここまでのを振り返って、破邪の利剣がなければ死んでいたかもしれない事が何度もあった。いつも助けられている。だが、ずっとこのままでいいという訳じゃない。そう思っていた……。いつかは破邪の利剣に頼らなくても強くなれるという根拠のない考えを持っていた。それがどうだ?いざ、破邪の利剣が自分の手からいなくなってイデアルグラースの刺客と対峙した時、何の役にも立たなかった。


 俺は、何も変わっていない………。


 つまらない事で悩むな。お前はまだ、未熟な部分があるだけだ――破邪の利剣がささやいてきた。

 刀から止まれという声がした。すかさず立ち止まり、ヴェインを見る。視界が少しずつだが良くなってきた。彼の表情が読み取れるところまで回復してきてる。


「閃光弾で視界が奪われた隙を狙ったが……ほとんどが避けられた……。さすが、三種の神器の一つに選ばれた者は違う」


「ハッ……、それはどうも」


 思わず、皮肉をこめて言い返してしまった。攻撃を避けれたのは、俺の実力じゃないからだ……。


「雪山で、子供がヴァイス・トイフェルに食い殺された滑稽さは求められそうにもないな」


「今……なんて言った?」


「……俺がヴァイス・トイフェルを使役していた時、偶然見つけた子供を食わせたんだよ。クリーム色の髪を持った少年だったな……」


 クリーム色の髪を持った少年、雪山、ヴァイス・トイフェル、食い殺された……。未だに忘れられない、一つの光景を思い出す。あの日、俺達の他にもう一人いた……。シルエットしか見えなかったが、あの姿は俺と同じ狼獣人……。

 バッと俺は、ヴェインを見た。記憶が……細部まではっきりしてくる。こいつの言っていることが正しければ……一つの結論にたどり着く。



 リックは、この男によって殺された……。

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