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白銀のヴァールハイト  作者: A86
4章 棺の中の獣と華麗な少女
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第116話 裏切り者の真実(シャーラン視点)

 コンラッドはチェーンソーを振り回してきた。動きが鈍い。隙だらけだけど、武器が少し厄介ね。一回当たれば即死……。油断は出来ない。


「シーナ!わたしから離れて!」


 取り敢えず、シーナをわたしから引き離した。コンラッドの狙いはこのわたし。無駄な犠牲は作りたくない。

 狙い通りに、奴はわたしに向かってきた。双剣を持って、如何なる時でも態勢を乱さない。隙を作らず、相手を倒す。それが……わたしのやり方。


「アアアアっ!!」


 奇声を上げて、チェーンソーを振りかざした。右の方から横払いをしようとしている……。わたしは右手に持っている剣で弾き返した。剣にチェーンソーをぶつけ続けていると、刃こぼれを起こす可能性がある。そしたら、こっちが少し不利になる。それに、この双剣をあまり傷つけたくない。

 今度は頭上からチェーンソーを振り下ろしてきた。双剣を交差させて防ぎ、再び弾き返す。


「防いでばっかじゃ、俺に勝てないぞ!」


 次はどんな攻撃をしてくるの?用心しながら見ていると、彼はチェーンソーの先をわたしに向けて、いきなり突いてきた。

 でも、これは想定内。後ろに飛んで距離を置く。それでも彼の攻撃は止まらない。わたしの首元を狙って次々と突いてきた。右に来たら左に避けて、左に来たら右に避けて、前に来たら後ろに下がる。チェーンソーと言ってもかなりの重さはある。突いてからの横払いは難しいはず。でも、一応来た場合に備えて首元とチェーンソーの間に剣を挟んでおいた。

 相手は目に見えない速さでわたしを攻撃しているつもりだろうけれど、わたしには全然速くない。むしろ……遅い。これだったら、幼少期の頃の方がもっと凄かった。……こういう危ない武器を持って、襲ってきた時のための訓練だったのかもしれない。

 けれど今、過去のことを思い出している暇じゃない。一刻も早く、目の前にいる敵を倒さないと……。

 突然、攻撃をやめた。彼は不気味な笑みを浮かべ、こう言った。


「知ってるぞ、お前のこと。俺だけじゃない。イデアルグラースにいる奴ら全員お前のことを知っている。過去のことや、お前の仲間に隠していることをな!」


 男の人が、成人していない他人の女性のバックグラウンドを知っているだなんて、場合によっては逮捕物にもなり得そうね。

 ……わたしの過去を知らないなんて、同い年の子達だけだと思うけれど。


「憧れの人の背中を追いながらも、周りから卑下され、その憧れの人物で唯一の味方だった人は死に至る。もう、お前の味方なんて何処にもいない。対白魔騎士団にもだ!」


 わたしを錯乱させようとしているのは見え見えだった。残念だけれど、わたしは過去にやられるほどヤワじゃない。


「……勝手に言ってなさい。あなたこそ……騎士団の人を騙して、信用をガタ落ちさせてるじゃない。あまり人のことも言えないんじゃないかしら」


 コンラッドの笑みは崩れなかった。過去のことを思い出して、笑っているようにも捉えられる。


「あれのことか。あれはすべて、スドウ様の計画だったんだよ。一年前、我々イデアルグラースには二つの目的があった。その内の一つがお前達、対白魔騎士団に俺の偽の信頼を築き上げることだった。弱々しい雰囲気を醸し出して、正義感を持つ人だとお前らに思い込ませた。ヴァイス・トイフェルによって怪我したのも、庇うためなんかじゃない。目の前で良い人のふりをするためだけにやったんだよ」


 信頼を築くために体を張るまでやったのね。ヴァイス・トイフェルにわざわざ襲われるなんて、度胸があるわ。


「しかし、チャールズは俺の正体を僅かながらも知っていた。だから後々にバラされるのを危惧して、スドウ様からの命令であいつを殺したわけだ。もちろん、警察に出頭したというのも嘘だ。書き置きを残してこっそりとイデアルグラースに戻ったんだよ」


 コンラッドは自慢げに言い続ける。


「それから一年後、お前らの信頼を利用して、様々な情報を引き出した。各地、どこに拠点を置いているのか、あのデューク・フライハイトが三種の神器の一つである破邪の利剣を持っていることとかをな。因みにその剣は、あらかじめ用意しておいた偽物とすり替えた。大体の情報が集まると、カルロスが騎士団で育てたヴァイス・トイフェルを使って、お前達……特に脅威となる破邪の利剣の持ち主を消すために襲って、実験を行っていたリアム・テルフォードを回収し、俺は本性をお前達に見せたというわけだ」


 彼はチェーンソーを再び起動させる。舌舐めずりをした。


「俺達は、計画通りに進めてきた。スドウ様はたくさんの計画をお持ちだ。一つの作戦に失敗しても、そこで次の作戦の下準備をするのがあの方のやり方なのだ。今頃、破邪の利剣は破壊され、持ち主は死んでいるだろうな!」


 彼は突進してきた。突いて、一回転して薙ぎ払い、上から振り下ろす。どの攻撃も剣で弾き返した。


「……あなたの言っていることをまとめると、スドウがイデアルグラースの核のような存在なのね。逆に言えば、スドウがいなければあなた達は何も出来ないということ……」


「なんだと……!」


 怒りに身を任せ、チェーンソーを振り回すのが速くなった。戦いの中で一番やってはいけないこと。それは……怒り。戦いで情というものをそもそも持ってはいけない。持ってはいけない情の中で代表とも言えるのが、怒りだ。


「事実、あなたはスドウの計画に沿って動いていただけじゃない。結局あなたは人に利用されているだけよ。そして、もう一つ分かるのは、あなたは人を騙し、それを嘲笑うクズということね」


「ハッ……クズという言葉は、俺にとっては最高の響きだ!」


 チェーンソーを振り上げる。少し、調子付かせた気がする。そろそろ決着をつけよう。彼はチェーンソーを振り下ろす。わたしは力を込めて剣を下から振り上げ、チェーンソーを軽々と弾き飛ばした。


「なっ……」


 すかさずわたしは、コンラッドの腕を掴んだ。彼の顔が真っ青になる。


「言ってたわね。わたしのことをすべて知っているって。ということは、わたしがあなたに触れれば何が起きるか……知っているんでしょう?」


「やめろ……それだけは……」


 わたしは不敵なつくり笑いをする。笑いを作るのは、とても難しい。でも、相手に恐怖を与えるには、これくらいの演技が必要になる。


「結局……あなたは弱いのよ。他人の力に依存をして、自分は何も出来ない。そういう人は、最終的に切り捨てられて死んでいくのよ」


 彼が反論してくる前に、脚で彼の顎を思いっきり蹴り上げた。どちらにしても人を騙したんだから、これくらいの粛清を受けても仕方ない気がする。

 わたしは剣で、彼の腹部を斬り裂いた。深すぎず、浅すぎずに。倒れる直前に、矢を彼の脚と腕に向かって二本放った。見事的中。彼は倒れて、痙攣をしながらも動かなくなった。

 わたしはシーナの方を見た。こっちにばっか気を取られていたけれど、無事なのかが心配になった。わたしが見たとき、丁度カルロスがタガーで腕から血を流しているシーナの首元をかき切ろうとしていた。

 …………やめて!

 考えるより先に体が動いた。わたしはカルロスの心臓部分に向かって矢を放つ。それと同時に、弓を分解して双剣に変え、矢が刺さった時に彼に近づいて剣を首元に当てた。


「そこまでよ……。動けばあなたの首元をかき切るわ」


 観念したのか、力尽きたように地面に座りこんだ。もう、戦う気力は残ってないはず。わたしは、シーナの薙刀に手を置いた。


「立てる?シーナ」


「うん……」


 彼女を薙刀で引っ張り上げた。腕から血を流している。ここに救急道具があれば、応急処置ができるのに……。

 今度は金髪の男に向かう。彼だって一生懸命戦った。手を貸すくらいならいいはず……。


「あなたも……立てる?」


「すまない……ありがとう」


 わたしは、彼の持っている武器で引っ張り上げた。二人共、怪我こそはしているけれど、命に別状はないみたい。よかった……。

 その時だった。わたし達が来た方向から一人のトカゲ獣人がやって来た。この人……わたしと同じ黒の騎士団の人だ。


「アーク!?どうしたんだ?」


「それがね……ミリーネを追っていて……。彼女ここに来なかった?」


「ああ、それなら向こうに行ったぞ。俺達も追いかけようとしていたんだ」


「そうなんだ。じゃあ一緒に行こう」


 どうやら、ミリーネというさっき通ってきた金髪の娘を追うことを決めたらしい。わたしとシーナは何もしないというのも不自然な気がするから、彼らと一緒に行くことにした。


“結局……あなたは弱いのよ。他人の力に依存して、自分は何も出来ない。そういう人は、最終的に切り捨てられて死んでいくのよ”


 なんて格好つけたことを言ったんだろう?自分が果たせなかったというのに……。

 でも、だからこそ言えるのかもしれない。経験したからこそ、あの言葉を口から言えたんだと思う。


 だからわたしは……もう、誰にも頼らない。

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