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白銀のヴァールハイト  作者: A86
4章 棺の中の獣と華麗な少女
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第113話 現れる謎、迫り来る敵

「うわぁぁぁ!」


 暗闇の中で、俺は落下していた。下がよく見えないから、今自分がどの辺にいるのかがさっぱり見当をつくことができない。あと数メートルで地面という可能性も捨て切れなかった。下がよく見えないと、地球の中心へと落ちていく気分だ。

 それより、急いで対策をとらないと危険だ。何かないのか……。落下している最中でも、必死に案を考えていると、突然真っ暗闇だった世界がうっすらと明るくなる。そのおかげか、地面がどのくらいの距離なのかがはっきり分かった。約二十メートル……。考えろ、考えろ!

 手が冷たい何かに触れる。俺は思わず、その冷たい何かを取り出した。拳銃だ。しかも普通の拳銃じゃなくて、ワイヤーが出る……。

 俺はとっさに上を見た。あの爆発で落石も起きたのか、上の方に大岩がいくつかあった。迷うことなく、その大岩に向けてワイヤーを飛ばした。ワイヤーの先が岩に突き刺し、体が持っていかれる。

 その間に俺は、何処かにワイヤーを飛ばせる所があるかを探した。すると、城を支えていると思われる柱が近くにあった。引き金から手を離して、ワイヤーの針を岩から外すと、近くの柱へ飛ばした。真正面には撃たず、柱に刺さるか刺さらないかぐらいのところに突き刺す。引き金は引かず、重心力で運ばれていった。柱が近くに寄ってくると、柱の上を走って、飛び出す。銃が手から離れないようにしっかりと持った。今、この銃は俺の命綱でもあるのだから。

 振り子のように戻ってきて、また柱の上を走り、止まった。その直後、ガンゴンという音をして岩が地面に叩きつけられた。カラーンと、金属が落ちる音も聞こえた。

 ワイヤーを伸ばせるところまで伸ばし、地面があと二メートルという高さで限界がきた。引き金を引いてワイヤーが巻き取られていき、俺は地面に降り立った。


「ここは……」


 薄暗い部屋に、支柱がたくさん並んでいる。多分、城の地下なんだろう。数十メートルも下なのか、かなり冷えている。毛皮があるけれど、寒がりなせいなのもあって、身震いをする。外の気温も0度だったから、ここは氷点下の領域なのかもしれない。

 地上へ出る道を探す前に、俺は落石があった場所へ向かった。そこには、粉々になった城の床の他に光っている物があった。……破邪の利剣だ。けれど、スドウによって破壊されてしまった。

 俺は、刀の一片を拾った。自分の顔が破片に映った。これからどうすればいいんだ?破邪の利剣を取り戻そうとしていたのに、目の前で破壊されて……あまりのことで頭の中はこんがらがっていた。深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。


「はぁ……はぁ」


 ゆっくりと、現実を受け止める。破邪の利剣は破壊された。事実なんだ、それは。結果は残念に終わったけれど、それでこっちが負けと決まった訳じゃない。勝負はまだこれからだ。

 ……それにしても、刀を取り戻した時に、変な感覚があった。変な感覚は何なのかと聞かれても、言葉で表しづらい。言うならば……これじゃない。そうあの時、刀の声を頼りに進んである部屋にたどり着き、その部屋に置いてある破邪の利剣を手に取った。そこで、破邪の利剣を手にした時に、変な感覚に陥ったのだ。まるで、あの部屋にあった破邪の利剣が偽物みたいに。もう一つの破邪の利剣が本物で、その本物がこの城のどこかにあって、俺を呼んでいるかのように。

 そう考えていると、再び頭の中で声が聞こえてきた。


“私はここにいる……。私はここにいる……”


「っ……!え……」


 その声は後ろから聞こえてきた。振り向くと、巨大な支柱がそびえ立っている。……いや、違う。声はこの支柱の中から聞こえてきたのだ。まさか……まさか!あり得ない。だってここに……。じゃあ何で……?

 俺は急いで、支柱に駆け寄った。声の主はどこだ?

 そこで俺は、支柱に線が四角く切り込まれているのを発見した。その切り込まれた所に触れる。押したら何か起きるかな、と思いながら冗談半分で押してみた。ガコッという音がして、切り込まれた所が沈んだ。そして、切り込まれた所が開き、中から……破邪の利剣が出てきた。

 突然、強い波動が伝わってくる。柱の中から刀を取り出した。間違いない、これは本物だ。しかし、何故ここに隠されていたんだ?あのスドウがやったのだろうか。いや、あいつは偽の破邪の利剣を本物だと思っているような雰囲気だった。ここに隠していたんだったら、偽の破邪の利剣を破壊しようとしないだろう。あれは絶対に、俺達が見ている中で刀を破壊させて絶望させようとしていたとしか見受けられないし……。

じゃあ誰が?第一いつ、どこですり替えられたんだ?


「そこにいるのか。破邪の利剣に選ばれた狼獣人」


 声が突然響いた。色々と気になることはあるが、それは一度置いておこう。まずは、目の前の問題からだ。

 俺は相手の方に向き直り、その姿を見た。そいつは俺と同じ、狼獣人だ。銀色の体毛に金色の目……対白魔騎士団での奇襲で出会ったあいつだ。

 向こうは、俺が破邪の利剣を持っているのを見つけると、わざとらしいくらいに目を見開いた。


「破邪の利剣……。何故だ?何故無傷のまま残っている。スドウ様が破壊したはずだぞ」


 やっぱり、スドウはあれを本物だと思い込んでいた。だとすると、支柱に本物を隠したのはスドウではない。


「さあな。俺だって理由が知りたいくらいなんだ」


「まぁいい。どの道、お前に止めを刺してこいと命令されたのだからな」


 そう言って、彼は鞘から刀を取り出して構えた。俺も、破邪の利剣を相手に向ける。これまで、イデアルグラースで色んな奴らを見てきたが、こいつを改めて見ると雰囲気でも感じる。

 強さの格が、明らかに違う。

 それは、最強の武器で形ばかりの強さの俺なんかとは全然違った。本物の実力だ。これだけは断言できる。


「数十メートルから落ちている中でも、策を練って無傷で降り立ったことは認めよう。だが、その助かった命をいただく」


 破邪の利剣でどこまでいけるかによるな。こっちは五日間も訓練を受けていない。おまけに背中の傷も完治してないんだ。これだけ不利な条件が揃っている。勝てるかも分からない。いや、勝たなきゃ殺されるんだ!やるしかない。


「っ……!!」


「俺は、イデアルグラース五芒星第二位の……ヴェイン」


その言葉を言い終わったことを合図に、俺達は互いに向かって走り始めた。

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