表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白銀のヴァールハイト  作者: A86
4章 棺の中の獣と華麗な少女
114/173

第112話 闇の中へ(クレア視点)

 爆発が起きて、わたし達はしばらくの間ずっと伏せていた。床に大きな穴があいている。デュークと破邪の利剣は、その穴の中に吸い込まれていった。どれくらいの深さなんだろう。どうか、無事でいて……。


「皆さんの希望の光は見事途絶えましたね。破邪の利剣が折れたのは私が確認しました」


 スドウがそう言うと、扉が突然開き、黒装束の集団が現れた。全員、銃を持っている。


「撃ちなさい。抵抗するなら、足掻いてみなさい」


 スドウは黒装束の集団の奥の方へと飛び上がり、見えなくなった。それと同時に発砲し始めた。わたしとダニエル先生はソファの後ろに隠れているから、当たることはないけれど、入り口のところで発砲している上に、わたし達が出れないように人数で塞がれているため、動くことも出来なかった。

 今こそ、ツァイトの鏡を使えばこの場から抜け出せるはず。わたしが手鏡を取り出した時に、ダニエル先生手で制止された。


「焦るな。私とお前以外にも同じ状況に立たされている奴らがいるんだ。今は入り口の壁際に身を寄せているがな」


「じゃあ、どうすれば……」


 銃弾を浴びて、ボロボロになった絵の留め金が外れて、わたし達の方に倒れてきた。


「今は正面方向に発砲している。だが、方向転換してくるのも時間の問題だ。そこでだ。私が『走れ』と言ったら、迷うことなく部屋から出ろ。部屋の中心に大穴が開いているから気をつけてな。後始末は私達が片付ける」


「え……でも……」


「似たような状況になるんじゃないかとは思っていたんだ。壁際にいる奴らだって同じさ。まずは、合図がくるまで待て。城の地下に続く階段は玄関ホールにあるから、それを使え」


 地下……デュークがいる場所だ。つまり、わたしが救出に行くということになる。でも、その前にあの黒装束の集団から脱出しなければいけない。ダニエル先生が走れと言ったら部屋から出る。

 先生の言っていることは信じたい。けれど、怖い。今は頑丈にできたソファが盾になっているけれど、あの乱射している集団に飛び込んでいくなんて……。

 そこには先生の策が、あるいは別の何かがあるはず。この状況から打破する方法を。


「そうだ。部屋から出るときはこの帽子をかぶってろ」


 渡された帽子は、ガスマスクみたいなものだった。口元は隠していなくて、目元はゴーグルのような形状になっている。先生の言っていること……本当に信じていいのかな。本当に大丈夫なのかな。段々と不安に感じてきた。

 わたしは、隣にいるダニエル先生を見る。先生は、壁際にいる兵士達に何か合図を送っているようだった。さっきも言ったけれど、たまらなく怖い。先生が嘘をついてはいないと思うけれど、銃弾が当たるかもしれないという恐怖が消えなかった。

 出来る限り、落ち着いて。じゃないと、出来ることも出来なくなる。……気持ちの整理はできてきた。怖いけれど、やらないと。わたしは帽子を被って、合図がくるまで待った。

 突然、眩い光が部屋を満たした。そのすぐ後に燃えさかるような音が聞こえる。


「走れ!」


 わたしは、ソファから一気に飛び出した。すぐそばに、大穴がある。言われた通りに穴の周りを通って、部屋から出た。通路には、黒装束の人達が火だるまになっているか、銃で撃たれていた。多分、壁際にいた兵士が閃光弾を投げて、その後に焼夷手榴弾を投げて、銃で反撃したのかもしれない。事実、兵士が生き残っているのがいるのかを探していた。

 わたしは死体を出来る限り見ないようにしながらも、進んでいく。まずは、デュークを見つけないと。ダニエル先生は、地下に続く階段が玄関ホールにあると言っていた。そこを目指そう。

城の中は静かだった。突入部隊はもっと人数が多い気がしたけれど。他の兵士達はどこに行ってしまったんだろう。

 また分かれ道……。どう行けば玄関ホールにたどり着くんだろう。そう悩んでいると、声が聞こえてきた。それと他に、金属がぶつかり合う音も聞こえる。突入部隊の兵士……かな。ゆっくりと音が聞こえる方に向かい、扉を開けた。そこでは、対白魔騎士団の兵士達がさっきとは黒装束の集団と戦っていた。それと、黒くて大きいものが浮いていた。


「あれは……魔女?」


 イデアルグラースの人がそう言っていた気がする。あの姿は、対白魔騎士団で起きた奇襲で出会った。忘れるはずがない。

 魔女に向かっていく兵士が二人いた。けれど魔女は、するりと攻撃をかわしていく。それどころか、金色の鉤爪が出てくると、兵士の頭を掴み、そのまま生々しい音とともに握りつぶしてしまった。もう一人の兵士は首を掴まれ、締めつけられて息の根が止まると、投げ捨てた。あまりの光景を見たせいで、思わず吐きそうになってしまう。

 なんとか吐くのはこらえて、地下に行く階段を見つけると、階段を降りようとした――。


「こんばんは、三つ編み眼鏡さん」


「!!」


 後ろを振り向くと、塔で出会った女の子、ミロワール・マレンがわたしの間近にいた。顔との距離はわずか数センチと言ってもいい。

 彼女はわたしを突き落とした。バランスが崩れて、階段から転げ落ちていく。それでも、頭は守らなければいけないと思い、受け身をとった。数段転げ落ちていき、やっと止まる。身体中が痛い。なんとか頭は守れたけれど、体を起こすのが精一杯だ。早く反撃しなきゃと思って、拳銃を取り出そうとしたけれど、その前にミロワールがわたしの上に覆い被さってきた。足で腕を踏まれて、武器を取り出そうにも取り出せない。


「あの塔以来ね。一つあなたに聞いていいかしら」


 彼女は先が尖った杖を見せびらかしながら言う。いつでも殺すことができるという脅しなんだと思った。


「あの塔で、あなた何をしたの。どういう方法でわたしの脚を撃ったのかしら?今は治っているけれど、撃たれた原因が分からないのよ」


 ミロワールは、ツァイトの鏡の存在を知らない。わたしの右ポケットの、今あなたの真下にあるということも。思わず彼女から目を逸らした。


「知らない」


「ちゃんと、わたくしの顔を見て言いなさい」


 手で強引に彼女の顔を見ざるを得なくなった。目がものすごく怖い。でも、ツァイトの鏡の事は絶対に話さない。


「知らないって言っているでしょ!わたしだって、何が起きたのか知らないんだから」


 すると、ミロワールは杖を取り出して、尖った所をわたしに向ける。


「別にいいわ。邪魔者は一人残らず殺せって命令されているのよ。心臓を刺すけれど、痛いのは我慢しな、さい!」


 そして、彼女は杖を振り下ろしてきた。手を動かして、彼女に抵抗するけれどビクともしない。心臓を、貫かれる!


「……っ!」


 心臓を貫かれそうになった時、一本のナイフがミロワールの方に飛んできた。彼女は、間一髪でかわし、ジャンプして後ろの方に退く。上を向いていたから、誰が投げたのかは見えなかったけれども、彼女の束縛からは解放された。


「スチュアート……」


 ミロワールは吐きすてるように言った。ゆっくりと起き上がると、大きな影がわたしの横に来た。学園長だ。


「生徒をいじめるのは、やめてもらおう」


 そこから、学園長は手榴弾を取り出す。彼女は身の危険を感じたのか、わたしが玄関ホールに入ってきた扉の方へ消えていった。


「これでよし。それよりクレア・リース、何故ここにいるのだ?デューク・フライハイトは?破邪の利剣は……」


 わたしは言葉が詰まってしまった。破邪の利剣がスドウによって破壊されたことが言えなかった。けれど、これは重要なこと。秘密にしてはいけない。


「破邪の利剣は破壊されました。デュークは、地下にいます」


「……そうか。ならばわたしは地下に続く階段のところへ連れて行かせよう。来なさい」


「はい……」


 学園長は、どう思っているんだろう。頼みの綱だったのが消え去った今、対白魔騎士団の力だけでイデアルグラースを鎮圧しなければならないのだから。

 学園長は向かってくる敵をすがりついてくる虫をはたき落すように蹴散らしていく。そこは、魔女と同じで強い。それよりも、わたしを地下の階段に連れて行くことを優先している感じだった。


「ここだ」


 そして、わたし達は下に降りる階段に着いた。下は暗くて、何も見えない。


「足下には気をつけてくれ。ここは我々がなんとかする。デューク・フライハイトを頼んだぞ」


 わたしは頷き、階段を駆け下りた。闇がわたしに絡みつき、光が遠ざかっていく。それでも進め、クレア・リース。闇の奥へと突っ込んでいった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ