第11話 さようなら
それから1週間はすぎた。医者と看護師に助けてもらいながら俺は少しずつ回復していった。母は毎日俺に会うたびに元気になっていく姿をみて、とても喜んだ。つらいことはあった。泣いたときだってあった。それでもゆっくりと、暗闇から抜け出し、悲しみを乗り越えていく――。
そして、ある日に最後の治療の仕上げをした。心理療法や話し合いを何度も重ねあい、様々なテストを受ける。俺はもう、回復したと言ってもふさわしい状態だった。
退院の日、両親がやってきて世話をしてくれた医者や看護師にあいさつをした。病院をあとにして俺と家族は今、帰路についているところだ。
あとから聞いた話なのだが、あのヴァイス・トイフェルが、リックが死んだ日に、町でも大量のヴァイス・トイフェルの襲撃をうけていたのだという。対白魔騎士団によって鎮圧されたが、死者もでたらしい。両親が生きていたのは不幸中の幸いだった。それでも今回の事例は意外なものだった。なぜなら今回はヴァイス・トイフェルの居住地域からかなり離れていたからである。そのため救助が少し遅れてしまったのは致し方ないことだった。
両親は今、別の所に住んでいる。俺は今からそこへ行くのだ。
「準備は出来た、デューク?」
「待って、その前にリックをお別れを言わせてあげたいんだ」
「分かったわ。でも、汽車が来ちゃうから急いでね」
「うん……母さん」
俺は故郷で亡くなった人々のお墓へとたどり着いた。その中に彼も含まれている。灰色の石が敷き詰めるこの場所でリックの墓を探す。………見つけた。
リック、君に言われる通り俺は謂れ因縁の書の謎を解いてみるよ。でも、対白魔騎士団に入るかどうかはまだ検討させてくれないか?入る前提で考えているけれど、まだ心の準備が出来ていないから……。正直言って、怖い気持ちはある。それはもう脚が震えるほど……怖い。
君は何で対白魔騎士団に入ろうと思ったんだ?人類のためとかじゃなくて。それは、俺でも分かる理由なのか?なぁ……リック。それで、お前の気持ちを理解できるのかな……。
クレアとはあの一件以来会っていない。お別れを言えないのは若干の後悔があるが、仕方ないのかもしれない。今、会うのは気まずくなるだけだ。いつか、再び出会えるのを信じよう。その時に直接謝るのだ。
謂れ因縁の書を取り出した。俺を引き裂き、そして導いた書物。この先、何が起こるのかは分からない。でも、少しずつ前に向かって歩き続ける。
そうだよね、リック。
俺はリックの墓に背を向けて走り出した。もうすぐ、汽車がやってくる。俺は今、スタートに立ち、歩き始める。
……空は今日も、青い。




