第105話 始めは作戦会議
電車の中で、俺達は目的地の街での不安を募らせていた。救出作戦を聞かれても、だ。俺が行うのはただ一つ。刀を取り戻すこと。だけど、それは簡単ではない。胃の調子が悪い。こんなんで大丈夫だろうか?
今から、数時間前へと遡る。対白魔騎士団で、主な作戦を聞いたときだ。
俺は皆と一緒に会議室へと向かった。そこには、スチュアート先生やカレン先生、ダニエル先生にクラーク先生などのたくさんの人達がいた。
「全員揃ったようだな。ではこれより、今回の作戦の説明する。目的地となる場所はすでにイデアルグラースが支配しているだろう。そこで、以下の事を実施する」
それから、ダニエル先生は街の地図を広げた。俺が三年間、住んでいた街だ。真ん中には大広場があって、北側には巨大な城がある。所々にバツ印があって、特に周りの方に記されている。
「この地図に描かれているバツ印が、我らの待機場所だ。まず、救助隊に選ばれた者は中心の大広場にいる住民から避難をさせる。そこから、輪のように広がっていくのだ」
「一つ質問をしていいですか?もし、住民の避難をさせている時に、向こうがわたし達の存在に気付いたらどうするのです?」
兵士の声が聞こえた。向こうはたくさんのヴァイス・トイフェルを使役させているだろう。怪物が一気に解き放たれたりでもしたら、ひとたまりも無い。
「その可能性は我々も考えている。そこで、ヴァイス・トイフェルやイデアルグラースの伏兵に対抗するために、遊撃隊を配置させる。人数の割合としては、遊撃隊を七割程度にしようと思っている。黒の騎士団は全員こちらに入ってもらおう」
全員ということは、俺達は遊撃隊に入るのか。ヴァイス・トイフェルと戦った経験はあるものの、今回も勝てるとは限らない。身を引き締めなければ……。
「そして、我々が街で救出を行っている間は、デューク・フライハイトとクレア・リース、ダニエル・マッカンの三人は城の中に潜入してもらう」
……え。俺は声に出しはしないけれど、心の中で驚いてしまった。
「調査隊から報告があってな、イデアルグラースは城の中に拠点を築いているようなのだ。あそこは観光地でもあるが、中を詳しく見ることができるのは一部の人に限られている。発見されていない場所もあるから、奴らがそこに巣窟をつくりやすい環境にもなっているのだ」
イデアルグラースが、観光地である城のどこかにいる……。それはなんか、嫌だな。
「今、名前を呼ばれた三人は城の中に潜入し、奴らの拠点を見つける。見つけた場合、ダニエルが我々に合図を送る。合図を受け取ったら、突入部隊は正面から城に入り、敵を見つけ次第倒していく。以上で作戦の大まかな説明を終了する。質問はあるか?」
誰も、声を発する人はいなかった。スチュアート先生は周りを見渡してから、前を見据えた。
「それでは、詳しい説明はそれぞれの隊長に任命された人から説明を聞くように」
部屋にいた兵士達は次々と部屋を出て行く。俺はどこへ行けば……。
「デューク、クレア。私についてきてくれ」
ダニエル先生が俺達を連れて、隣の部屋に入る。そして彼は、街の地図とは違う地図を広げた。クレアは、さっきスチュアート先生に名前を呼ばれたことにさほど驚いていないようだ。もしかして、俺だけ知らなかったのだろうか。
「学園長がさっき言った通り、私達は住民の避難をさせている間に北側にある城へと浸入する。目的は奴らの拠点を見つけることもあるのだが、本来の目的は別だ」
「別?」
「お前が持っていた武器、破邪の利剣を取り返すことだ」
そう言って、ダニエル先生は街角の一つを指差す。そこは、点線が描かれていて、その点線が街全体に広がっていた。
「まず、私達はここから地下トンネルを使い、城の中に入る。中に潜入できたら刀を探すのだが……。デューク、お前は破邪の利剣の波動みたいなのを辿ったりできるのか?」
波動を辿る?いきなりそんなこと言われても、出来るかどうかは……。
「分からないです……」
「そうか……。学園長の友人も以前、破邪の利剣を持ったことがあってな、いろんな実験をしてみた結果、今言ったように刀の波動を感じれることが分かったらしいんだ」
そうだった。スチュアート先生は、破邪の利剣を見たことがあるんだよな。前の持ち主であった先生の友人って誰なんだろう……。いつか会えるのだろうか。
そんなことより、刀の波動を辿ってみる……か。やったことがないだけで、もしかしたら出来るかもしれない。
「出来るかどうかは分かりませんが、やってみます」
「……分かった。もし、可能だったらかなり効率よくいけるのだがな」
確かに無駄な時間を省くことはできるが、向こうから刺客を放ってくるかもしれない。その時、三人だけで太刀打ちできるか……。
「敵と遭遇した時はどうするのですか?」
「私達の目的はあくまで刀を見つけ、奪い、そして突入部隊に合図を送る、それだけだ。無駄な争いごとは避けたほうがいいだろう。そして、その時に活躍するのが、クレア・リースが持つツァイトの鏡だ」
そういえばクレアは今、三種の神器の一つであるツァイトの鏡を持っているんだった。どこで手に入れたのかはまだ聞いていなかったな。
「ツァイトの鏡で時を止める方法は我々の検査によって把握できている。だからそこに関しては心配はいらない。刀を取り戻したときも、その鏡を使って脱出するから大丈夫だ」
「でも、聞いたところによると時間を止めると自分以外の人は皆動かなくなるようですが――」
「そこは心配いらないよ」
クレアはツァイトの鏡を手に持ち、微笑みながら言った。
「時間を止めた人に触れていれば、その人も動けるから」
「そこは既に検証済みだ」
俺が治療に専念している間に検査したのか。この五日間はアーク達からしか情報を知ることができなかった。若干、疎い所があるのも仕方ない。
「話が少しそれてしまったな。一通り説明をしたが、気になる点はあるか?……ないようなら、荷物を持って行くぞ」
ダニエル先生は地図を畳んで部屋の外へと出て行った。これが、さっきまで行っていた作戦会議の内容だ。そして今は電車にユラユラと揺れて、移動の間の僅かな時間帯でくつろいでいる。
「それで、なんでお前達がここにいるんだ?」
俺の向かいには、ヴィルギルとシーナが座っていた。因みに隣には、クレアとアークがいる。向かいの二人はキョトンとした表情をしていた。
「なんでって、兵士が少し人員不足に陥っているみたいだから、比較的優秀な俺らが選ばれただけだよ。言っとくと、俺らは救出隊だ」
「ふーん」
この二人は騎士団にいる時にしか会っていなかったから、こうして外でも行動を共にするのも新鮮かもしれない。窓の外を見ると、山だけしかなかった景色が突然変わった。街が、広がっているのだ。俺達が行くべき場所に、着いたのだ。
「到着したな。戦地に……」
兵士の誰かがそう言った。




