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白銀のヴァールハイト  作者: A86
4章 棺の中の獣と華麗な少女
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第104話 朝日

昨日から更新を再開しました。今後もこのような一時更新停止することがあると思いますので、何卒よろしくお願いします。

 四日がたった。傷はゆっくりとながらも治ってきている。でも、完治するまでには至らないだろう。傷痕も残ると思うし。出来る限り、無理をしない範囲にと言われていた。刀を取る戻す時点で、無理をしない範囲を超えていると思うけれど……。


「もう包帯はいらなそうね。相変わらず獣人は治りが早いわ」


 ここは救護室。ここで四日間も眠っていると、時間の感覚がなくなりそうだ。けれど、明日の住民の救出作戦に参加するためには我慢しなければならない。今のところ、街に異常はないという。まるで、俺の怪我が治るのを待っているような気がしてならない。はたまた、偶然向こうから動きがないだけなのか。

 住民の命が危険にさらされているかもしれないのに、俺の怪我を治すだけのために五日間も見送ったことも分からない。あの時は、家族のこともあって考えがまとまらなかったけれど、急いで行動に移したほうが早いと思うのに……。

 まさかとは思うが、いやありえそうにもないけれど、向こうの情報を知っているかのようだ。リアムの捜索隊って、どんな人達なんだろう。


 夜、俺はなぜか眠ることができなかった。悪夢を見るのが怖いのか、明日作戦が実行されることで緊張しているのかは分からない。とにかく、目が冴えているのだ。首を横に傾けると、手のひらサイズの時計が時を刻んでいる。今は二時。微妙な時間帯だ。

 何度か寝返りしたりした。その度に、純白のベッドのシワが寄る。


「……外に出ようか……」


 俺は体を起こして、足を清潔な床につけた。裸足だから、床の冷たい感触が伝わり、全身に広がっていく。靴を履いて、寒くならないように厚着を羽織る。暗い、静かな救護室を抜け出して、外へと出れる道を辿っていった。夜の対白魔騎士団は不気味だ。中庭にある銅像は今にも動き出しそうで、騎士団内の古びた感じがさらに恐怖を倍増させている。ゴーストツアーでも開催したら、かなり有名になるんじゃないのかと思った。


 騎士団の人しか知らない隠し扉を通って、俺は外に出た。地面は霜が発生していて、一歩一歩踏み出す度にジャリと音がした。もう冬だ。この地帯は比較的に温暖なところである。雪は滅多に降らないし、降るとしても一年に一回くらいだ。つまり、ヴァイス・トイフェルの近くに住んでいる人は今、尋常じゃないくらい大変なことが起きているんだろう。彼らは、どのような思いでその土地に住んでいるんだろう。俺達、対白魔騎士団の人はこんな恵まれたような土地にいて……。

 ヴァイス・トイフェルを、イデアルグラースを倒したら、彼らは少しでも解放されるのだろうか。


 夜風に吹かれて、俺の毛皮に当たる。息を吐くと、その息が白くなった。

 俺は、街を見下ろせる丘でしばらくの間、静寂な街を眺めていた。何時間……たったんだろうか。空がゆっくりと明るくなっていく。そろそろ戻った方がいいだろう。冷えてきたし……。


「デューク……?」


 突然、後ろから俺の名前を呼ばれた。振り返るとクレアがいた。マフラーにダッフルコートを着ている。


「クレア……どうしたんだ?」


「朝日が綺麗だから、いつも早めに起きているの。……デュークこそ怪我は、大丈夫なの?」


「ああ、大体治ってきているよ。これなら、今日実行される救出作戦には参加できそうだ」


 クレアはゆっくりと微笑み、俺の横にやって来た。街の方を見つめ、日が昇るのを待っている。しばらくの間、俺達二人は何も喋らなかった。何を喋ればいいのか分からなかったのだ。俺も、多分……彼女も。それでも空は明るくなっていき、日が昇るであろうと思われる場所は赤く染まっていた。


 クレアは、俺が救護室にいた五日間に一度も姿を現さなかった。アークやミリーネ、シャーランまで来たのに、彼女だけ来なかったのだ。ミリーネから聞くと、課題を終わらせなきゃならないという。仕方のないことなんだろうけれど、幼馴染でもあるのか、彼女を見なかったことで、あまり落ち着かなかった。


「ねぇ……デューク」


「ん?」


 俺は、クレアの方を見る。彼女は、俺の方を見ないで、こう言った。


「本当は、もうちょっと早くに聞きたかったんだけど、余裕がある状況じゃなかったし、今言わないと、絶対聞けない気がするの。でも、聞くのが怖くて……」


「なんだ?言ってみろよ」


 クレアは下を向き、そしてもう一回街を見据えた。


「デュークは、わたしのこと……どう思ってる?」


「どうって?」


「なんだっていいの。デュークから見て、わたしをどう思っているのか。そう、思ったこと……」


 クレアをどう思っているか?どうって言われてもな……。言葉に表すと案外難しいものだ。でも、一つ分かることは――


「俺の、幼馴染だよ」


 そう、俺にとってクレアは幼馴染で友達だ。それに変わりはない。これからもずっとだ。


「そう。分かった。変なこと聞いてごめんね」


 クレアは、何かに安心したようにこっちに顔を向けた。でも、目を俺を直視しようとしない。まるで、迷いがある感じだ。


「見ろ……日の出だ……」


「あっ……本当だ」


 日が昇り、光が街を、俺達を、照らす。確かに綺麗だ。まぶしいくらいに……。俺は白く、大きな息を吐き出し、彼女を見た。


「戻ろう。今日は忙しくなる」


「うん。そうだね……」


 俺とクレアは太陽に背を向けて、騎士団へと戻っていく。眠気が出てきた。少しばかりだが、救護室のベッドで寝よう。

 ……さっき、俺はクレアに友達だと答えた。それに偽りはない。絶対に。それなのに、なんで……


 なんでこんなに、心は晴々としないんだろう……。

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