第100話 クレアの想い(クレア視点)
100話到達!でもまだまだ続く。最近、文章力が落ちている気がします。
リックが死んで間もない頃、わたしは数ヶ月間自室に引きこもっていた。食欲もなくて、日を追うごとに痩せていくばかり。
二人の友人がいなくなったのは、わたしにとってはかなりのショックだった。一人はわたしの手の届かないところへ、もう一人はわたしのせいで遠いところへと行ってしまった。全てわたしのせいで……。
お母さんはわたしを毎日看病してくれた。温かいコーンポタージュを喉の奥へと流し込み、ベッドに寝かせる。その繰り返しだった。その度に抱擁をしてくれて、あなたは何も悪くないと言ってくれる。でも、この時のわたしには届かなかった。どれもこれも現実逃避にしか見えなくて、とても嫌だったのだ。
外から子供の声が聞こえる。何も変わらない日々、内にある中が沈んでいく。ずっと体育座りをし続けた。床に赤いビー玉があった。深紅のビー玉を転がす。ただそれだけ。暗い部屋の中を照らしてくれるような感じでありがたい。でも、それだけじゃダメだった。照らすだけで、何の力もない。
数週間後、わたしは折り紙を折り始めた。何もしてなかったわたしが少しでも、気を紛らせるようにと家族からたくさんもらった。折ったのは、鶴、風船、様々。ああ……いっそのこと、この折り紙の中に埋もれてしまいたい。そう思った。折り紙の作品は増えていく。それでも、わたしは部屋から出ることもできなかった。
数日後、折り紙の作品に囲まれて、わたしは窓の外を見ていた。どれくらい時間がたったんだろう?数分、数十分、数時間、もしくは数秒……。時間の感覚もなくなり、いよいよおかしくなりかけていた時、わたしの机の棚が半開きになっているのを見つけた。閉めようとしてゆっくりと立ち上がり、中を覗くと、何か知らないものが入っている……。棚を開けて取り出すと、それは封筒だった。どうやら手紙みたいだ。宛先を見た瞬間、鳥肌が立った。
〜もしもの時のクレアへ〜リックより
わたしは封筒を開け、中身を取り出した。そこに書かれている文章を読む。
クレア。これを読んでいるということは、俺の身に何か起きたということだな。本当なら直接言いたかったんだが、恥ずかしかったので手紙で書く。
お前は、俺が対白魔騎士団に入るのをあれだけ反対していたのはよく分かっている。そこで、俺のわがままを少しだけ聞いてほしい。
俺が騎士団に入りたいと思っている理由はたくさんあるが、その中の一つを説明する。俺はずっと、この裕福な生活を抜け出したかった。知っているだろう。俺の家庭の事情を。何不自由ない生活を俺は送ってきた。でも、それだけじゃ駄目なんだ。
この世界はおかしい。白い霧を吐く怪物が俺達の住む場所をどんどん奪っていく。対白魔騎士団がそれを食い止めようとしているけれど、俺達ひ弱な住人は何もできない。
何もすることがない。
助けを待ち、怪物から逃げ惑う人々。なす術もなく、喰われていく人達。その光景を見るのがとても嫌だった。
分かってる。俺一人じゃ未来を変えることはできない。
けれど知りたい。この世界の真実を。ヴァイス・トイフェルはどうやって生まれたのか?それを知らなければならない。
俺は、謂れ因縁の書を手に入れた。全ての真実を封じ込まれた書物。それを解き明かそうと頑張ったけれど、どうやら俺だとまだ難しいらしい。
もしも、もしもだ。俺が死ぬことがあれば、お前かデュークにこの書物を託したい。俺ができなかったことを、成し遂げてほしい。
はは……。この手紙でも身勝手だよな。いつも身勝手。身勝手身勝手身勝手。そんな俺を、お前とデュークはいつも一緒にいてくれた。
嬉しかった。二人も友人に恵まれていて、幸せだった。それだけで……。
あともう一つ頼みたいことがある。俺が死んだ時、デュークも悲しむと思うから、あいつのそばにいてくれないか?そして、あいつが困ったことがあった時、助けてあげてくれ。お前達は強い。俺に匹敵するくらいだ。だから、共に助け合って……。
最後になる。これだけは、どうしても言うことができない。だから、ここで言うぞ。
愛している、クレア。ずっと……。
手紙はここで終わっていた。わたしはこの手紙を握りしめた。そして、自然と涙が溢れてきた。泣き続け、涙を止めることができない。気持ちも落ち着いて、わたしは窓の外を見た。
「本当に身勝手だよ。リックは」
わたしは、外へ出る決意をした。
食事をちゃんととって、両親と一緒に買い物にも出かけて、少しずつ外の世界に触れ合っていく。精神科にも通って回復を目指す。それでまた数ヶ月かかった。
お母さんはデュークのお母さんとまだやり取りを行っていた。だからすぐ、彼の住所が判明した。彼に自分が行った行為を謝るためにも。
いざ行ってみると、足が硬直して動けない。デュークの家の前で三十分も立ち尽くしていた。
「あら?あなたクレアちゃんじゃない?」
振り向くと、そこにいたのはデュークのお母さんだった。
「久しぶりねー。今日はどうしたの?」
「あっあの……。デュークは?」
「デュークなら友人の家へ遊びに行ってるわよ」
そっか。デュークは友人も作っているよね。引きこもるわたしとは違う。
「ここで立ち話しないで、家に上がったら?」
「……それじゃあ、お邪魔します」
わたしはデュークの家に上がる。お茶を用意され、一口すすった。
「……デュークは将来、何になるんでしょうか?」
「それがね……対白魔騎士団に入るって言い出したの」
え?今なんて……。
「対白魔騎士団?」
「驚いたでしょ。わたしは反対したんだけどね。リックに影響したのか分からないけれど、その道を進むことは確かね」
わたしは思わず下を向いてしまった。デュークが……そんな。リックの手紙の言葉を思い出す。
――共に助け合って……。
デュークが対白魔騎士団に入ろうと思っているんだったら、わたしは……。
「わたしも……入る」
「ん?」
「デュークが対白魔騎士団に入ろうと思っているんだったら、わたしも入ります。彼を、助けたい」
それを、デュークのお母さんが聞くとニッコリと微笑んだ。
「そっか。クレアちゃんも入るんだね。それだったら心配はいらないかな。クレアちゃんがいてくれるだけで、デュークは安心すると思うから」
「あのっこの事、デュークには――」
「分かってる。言わないでおくわ。二人だけの秘密よ」
それからわたしは、対白魔騎士団に入るために猛勉強した。デュークにもう一度会いたい。その気持ちもあった。リックの遺言に従って、わたしは対白魔騎士団に入った。そこで、彼と再会した。再び動きだす時間。何気ない日常。それが戻ってきて……。
次第に、デュークのことをよく考えるようになっていた。今どうしているんだろうとか、どうでもいいことばかりだけど心配でたまらなくなる。
わたし……デュークのことが好きになっていたんだ。
好きで、彼のことをずっと考えて、耐えられなくなる。本当に最低だと思う。二人も友人に恋するだなんて。どうしたらいいか分からない。こんなことしてる場合じゃないのに。
デュークは、今わたしの近くで眠っている。わたしのせいで怪我をした。リックが死んだ日も、こう考えていた。あともう少し早く、救助を呼んでいれば、リックを助けられたかもしれないのに。ずっとそう思っていた。後悔しても意味がない。何かが変わるわけでもないのに……。そして、今度はデュークが。わたしは守られてばかりいる。一人じゃ何もできていない。
できた覚えがない。
迷惑をかけてばかりだった。こんなわたしを……ごめんなさい。
「うっ……」
デュークの目が開いた。泣きかけているわたしを見ている。涙を手で拭いた。
「気づいた?」
「手当て、してくれたのか?」
「うん……」
デュークの顔を直視できなかった。怖かった。恥ずかしい気持ちもあった。
「ありがとう。手当てをしてくれて」
お礼を言われた。嬉しいけれど、わたしのせいだと考えると、とても悲しい。今まで、彼を助けたあっただろうか?彼に、本当に感謝をされたことが……あっただろうか?
突然、ドアが開いた。シャーランが焦った表情をしている。
「敵襲よ」
「ミロワールか?」
「いえ、違うわ」
シャーランは息を整え、こう言った。
「街の住人よ」




