第10話 決意
夜、静けさが漂う病院、薄暗くて外のかすかな光だけが頼りだった。
――あなたが死ねばよかったのに……
この言葉が頭の中を駆け巡る。クレアも相当、動揺したんだろう。だからこそあんなことを言ってしまったんだと思う。自分が追い詰めてしまったんだから……。最悪だよな、それって。
謂れ因縁の書はどこへいってしまったんだろう?ここ最近、色々なことがあってすっかり忘れていた。……気絶した場所にあるかもしれない。でも、どちらでもよかった。あの本が見つかった時からすべてがおかしくなったんだし……。
パサッ……
何かがベットの近くに落ちた。手を伸ばし手に取ってみる。本の感触がし、背筋が凍りついた。表紙をみると予想してた絵が目に映った。
「謂れ……因縁の……書?」
そう、間違いなく本物だった。でも、どうして?いつの間にあったんだろう?
表紙をめくり目次を見る。真実、真実、真実……全ての章の題名がこれだった。南京錠がかけられててページを開けることはどうしてもできない。ただ、序章だけは読むことが出来た。長々と説明しており途中で読むのに飽きてしまう。要点をまとめるとこうだ。
この謂れ因縁の書は全ての真実を記した神聖な物であること、そして以下の約束を破ってはいけないことだ。
1、謂れ因縁の書の存在をむやみに人にみせてはならない
2、真実の内容を他人に他言してはならない
3、全ての真実を知ったのならば再び南京錠をかけ所定の位置に戻すこと
以上の3つを守るならば世界に散りばめた鍵を探し、読めと書いてある。
鍵を探すつもりはなかった。何もしたくなかった。ヴァイス・トイフェルに直接出会って、友人を目の前で喰われた上、その友人に想いをよせていた子の傷をほりおこしてしまう。不幸で最低なデューク・フライハイト。
このまま一生悪夢の世界へと閉じこもりたい気分だ。なにも考えない、なにも意識しない世界へ――。臆病だって笑えばいい、弱虫だって蔑めばいい。俺に何が出来るって言うんだ?リックの意志を引き継ぐ?冗談じゃない。悪魔と戦う世界になんて踏み出したくなかった。……怖いんだよ。外の世界でヴァイス・トイフェルと関わらない生活を送りたい。もし、俺が死んだら両親が悲しむことになる――。わざわざ命がけになる必要なんてないのだから。
――俺に何かあったら代わりに……
リックの声が頭の中で響いた。いやだ、戦いたくない。嫌なんだよ。
――知りたいんだ。決していい真実じゃないと思う。
やめろ、やめてくれ……。もう何も考えたくない!一人にさせてくれ……。
静かになった。何も聞こえない。もともとそうだったんだけど……。声も聞こえなくなった。思わず安堵する。そうだよ、何も戦いに身を投じなくてもいい。外の世界でこっそり生きていた方がましだ……。
ある朝、俺は悪夢に再びうなされた。でも、それは以前とは違っていた。
リックは冷たい目をしていた。そこは同じだ。その次が違っている。リックは突然、静かに涙を流しはじめたのだ。ただただ、涙を流し続ける。ただただ、俺に訴えかける――。深い悲しみが俺を包む。役割を果たせなかった亡霊の、遺言だ……。
リック、どうしてお前はそんなに強いんだ?何がお前を対白魔騎士団へと導いたんだ?……俺には分からない。俺には出来ない。お前の……強さに……。リックはヴァイス・トイフェルが怖くなかったんだろうか?もしかしたら俺と同じで怖かったかもしれない。それでも前を向いて歩いていたんだ。お前の強さは一体何なんだろう?リックが進むはずだった道を歩いたら分かるのかな?もし、そうだったら……
目が覚めたら俺も泣いていた。涙がこぼれ清潔な床に落ちる。体がふるえた。ゆっくりと窓をのぞき、外の世界を見つめる。
そして、俺は覚悟を決めた。




