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白銀のヴァールハイト  作者: A86
1章 別れ
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第1話 朝

 見知らぬ場所、見知らぬ匂い、見知らぬ地面、俺はそんな場所に立っていた。何故ここにいるのか……思い出すことが出来なかった。芝生の地面に濃い霧が俺を包んでいる。俺は、一歩一歩確かめるように進んでいた。この先に何があるのかは分からない。でも、とにかく先へ進まなければならない、そんな気がした。

 その中で、耳障りで奇怪な音がする。

 しばらくの間、歩き続けているとその音が聞こえてきた。まるで、金属がぶつかりあう音。やがて、それが二人の人間が戦っているのではと思った。いや、人間だとはまだ断定出来ない。自分自身が人間でないのだから……。一体誰が戦っているのかはとても気になるのだがなぜか先へ進むことが出来なかった。脚が鉛のように突然重くなる。すると、誰かが俺の耳にささやいた。


(先へ進むな。その先に待ってるのは……)



































・・・・・・・・死・・・・・・








「はっ……!」


俺は夢から覚めた。グレーの布で封印された箱から漏れ出る光を見て、今がどのくらいの時間帯なのかを把握する。

あぁ、まただ。

また同じ夢を見た。

俺は最近、今のような夢を毎晩見るようになっている。最初こそはなんとも思っていなかったのだが、ここまで何回も見てしまうと不思議に思って仕方がない。


「デューク起きてる?」


下から母の声が聞こえる。とりあえず考えるのは後にしよう。


「今行くよ」


俺は制服に着替えて下に降りていく。黒灰の毛並みを持つ狼獣人デューク・フライハイト、それが俺だ。

リビングでは母が朝食の準備をしていた。父は新聞を読んでいる。


「また土地が氷漬けにされたようだ」


「そう、最近多いわね」


俺は母さんが作ってくれたスクランブルエッグを食べながら二人の会話を聞いていた。

この世界はおかしい。世界の4割が氷と雪だけの土地に変わり続けている。その原因を作っている生き物がいる。

ヴァイス・トイフェル、それがこの世界を氷漬けにした奴らだ。真っ白な蛇の姿なのだが大きさは巨大でつららのような鋭い歯をびっしりと持っている。そして、絶え間なく白い霧を吐き続けるのだ。その霧が土地を凍らせている。でも、俺の夢に出てくる霧は一切寒くなかった。まぁ、夢だからという理由もあるんだけれど。


「急がないと遅刻するわよ」


「……ごちそうさま、あと行ってきます」


俺は急いで学校へ行く準備をして家を出た。もう五月だというのに外はまだ冬のように寒い。俺が住んでいる所は郊外で少々北にある田舎だからという理由もあるけれど、それにしても寒い。気温は10度もない気がした。学校へは十五分くらいで着く。遠いのか近いのかよく分からない。俺はしばらくの間、無言で歩いていた。


「おはようデューク」


 後ろを振り向くとクリーム色の髪を持った俺の友人、リック・アルマンドが立っていた。リックは俺の友人で、かつ両親が世界でも有名な会社に勤めているため少し裕福な家庭で育った人間だ。


「うん、おはようリック」


 俺たちは他愛もない話をしながら学校へたどり着いた。どういう話だって?それは言えないな。空は青く、そこに白い絵の具で塗られたように雲が点々とあった。その空は、見慣れてこそはいるもののどこか清清しい、そんな気持ちにさせてくれる。


「ほら、遅刻するぞ」


 この空の下で、俺のいつもと変わらぬ一日が始まる……。

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