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【EX】 THE World is Fabrication 2

ゴリ兄達の話その2


心臓の鼓動が早くなり額から汗がしたたり落ちてゆく。

まだ谷は暗いがそろそろ日が昇るころだろう今の今まで

この岸壁に作られた空間でジッとし続けていた。

長時間このうすら寒い中待っていたせいで正直手が悴みそうだ。

時々鷹なのか鷲なのかはしらないが鳥類の声がこの谷に響き

少しの休息を与えてくれるような感覚が脳に広がる。

周囲には全身薄い橙色のジャンプスーツにその上に

タクティカルベストを着こみプロテクターを要所要所につけ、

そして頭部には情報の共有と機械ならではのアシスト機能が

着いたガジェット『メディアアシスト』を装備した男たちが

まだかまだかと、俺と同様にじっとその場で静止し一点を見続けていた。

そして―――奴らが眼前に迫って来るのが見えた。


「各自攻撃準備―――」


俺は共有回線で全員にそう伝えた。



【7時間ほど前―――】


「よし最終確認を行う」


俺は谷の入り口付近に今から死地へ向かう戦士たちに号令をかけていた。


「全員メディアアシストはこの後すぐにクラウドにリンクしておけ。

 それと今回ここにいるもの大半は戦闘が初かも知れないが決して臆するなよ。

 俺達は幾度となく戦いのため―――いや、この日のため!

 訓練を重ねてきたはずだ、貴様らは勇敢たる戦士だ。俺達が負けることはない!

 いや勝つのだ!! 勝たねばいけないのだ! それを胸に刻め! 」


俺はあいさつ代わりに喝を入れる。正直毎度毎度、よくもまあこんなに長いセリフがが言えるもんだ。

そんな自分を少し称えてやりたい気分だ。こう――でっかい賞とかもらえないだろうか

”あいさつ長いで賞” とかそこらへん。


「さて朝の挨拶はこの程度でいいだろう。

 これより俺を含めたここにいるものの

 安全の保障はできない。ましてや

 貴様らの半数は実戦経験のないものが多い。

 無茶だけはしてくれるな。いいな! 」


ウシガエルの様なオーケストラがそれに応える。


「よし――今から班分けを発表する。

 各自、自分のストレージにて確認してくれ」


俺はストレージの一括送信ボタンを押し彼らに班の組み分け表を送った。


「兄貴! よろしくお願いします!」

 

すぐにこちらに駆け寄るチャライ青年が見える――ジャックだ。


「ああ。よろしくな。だがこれはお前をよく評価したわけではない。

 お前が一番心配だからだ。俺の隣で弾の補充をする係りとして任命してやる」


「わかってますってー、頑張ります」


ああ、精々見た目とその喋り方以外はまともだと信じておきたい。


「出頭しましたサー」


次に来たのはゲリーだった、こいつはミリタリー映画が大好きで、俺の事を『サー』と呼ぶ。


「そんな堅苦しい挨拶は求めてない、俺達は家族だ」


「了解ですサー、ああすみません」


ゲリーが最期に謝った。こうやって謝るところが可愛い奴だが

正直ごつい男のせいでなんていうか、こう――変な気分にさせられる。


「俺がこんなところでもいいのかよ」


最後に来たのはジョンだった。


「ああ、貴様はここに来るべきだ」


「俺はできそこないってことか?」


「ふむ、お前は何か勘違いしているな――

 別にここはできない奴を集めたわけじゃない。

 たしかに―――ジャックはあれだが、

 ゲリーに関しては、腕は確かな奴だ。

 それにお前だって凄腕だろ? 」


「―あ! あったり前だ! 」


「よし、ならいいだろう」


俺は全員を適当に周囲に並ばせると俺達のやるべきことを伝え始める。


「ゲリーお前は上で射手として俺達の援護をしてくれ、

 ジャックお前はその機関銃の弾薬の補充係だ」


「了解」


「オーケー」


「ジョンお前は俺と一緒に救出時まで待機だ」


「了解だ」


「それと俺は他の組の支持もする為共通回線に接続するが

 連絡するときは専用回線で連絡してくれ」



「「了解」」


簡単に伝え終ると解散させた。


「どうじゃそっちは? 」


後ろから他の組を指揮するゼンが話しかけてきた。


「まあ上々だ。そっちは? 」


「従順でいい子たちじゃよ」


「大人を“子”って言うのは止めてくれ紛らわしい」


「いいじゃないか、ははは」


そういってまた元の方に戻っていった。


「兄貴! 俺が班長ってマジですか! 」


別の組を任せていたウェインが駆け寄ってくる。


「ああ、問題ない。お前は優秀だからな」


「が、頑張ります! 」

ウェインは俺に一礼し、その場を立ち去って行った。

ちなみに今日はウェインとメイスは別々に班長をやってもらっている。

その後も何人かの男が俺に指示を仰ぎに来たので簡単に返して持ち場についてもらった。


「よし持ち場につくぞ! 」

自分の班に戻り持ち場えと移動し始める。


「サー!ジャックと上に登ればいいのですか?」


「ああ」適当に返事をする。


「了解ですサー、行くぞジャック!」

威勢よくゲリーがジャックとともに上の銃座へと登って行った。


「俺達も下で待機するぞ」

「了解だ」


岸壁の横穴に銃を構えて寝そべった。



   ×    ×    ×



そして現在―――

「今から相手がホログラムの膜を通過しここに入る前に

 スモークを炊く為視界が悪くなるはずだ

 メディアアシストの表示モードを各自、赤外線モードにしておくように」


共通無線で赤外線モードによる視覚の確保を促す。

隣をむくとメディアアシストに内蔵されたコンピューターが

相手のアシストを認識し右上に青文字で相手の名前が表示された。


「ジョン、スモークを炊け」


「了解です」


ジョンがスモークを発生させる缶を腰のポーチから取り出し谷に投げ入れる。

スモークといってもよくある煙ではなく、砂交じりの濃い砂埃の様な煙が缶から

勢いよく噴出し高さ3M ほどを覆い尽くした。

それから少したってから奥の方から灰色のスクリーンに横に長い光源が映りこんだ。


「敵車両確認、輸送車が入り次第中央までおびき出せ!」


無線で前方の班に連絡する。


「了解」

簡単な返答が返ってくる。

横長い光源はさらに近づいきその姿はどんどん車両の形へと変わっていった。


「敵車両侵入」


前方の班のポイントマンから連絡が入る。


「敵2両目が侵入」


数秒後2両目が入ったことが伝わる。


「―――3両目突入」


3度目の連絡の時、前方に1両目の車両が眼前に迫ってきていた。


「攻撃しますか?」

「いや、まだだ待機してろ」


ジョンが銃を撃ちたいのか体を小刻みに震わせている。

この男は戦闘経験が多く優秀だが重度の戦闘狂で、

戦闘に入ると止めろというまで銃のトリガーを引き続けるほどだ。

だがまだその本性をむき出してもらうには早すぎる。

俺はこの男を止めた。


「敵輸送車侵入」


「中央までおびき寄せろ、次の俺の指示で谷出口で待機している班は

 地雷を起動させろ」


「後方班了解」


敵の輸送車と思われる車両の一両目が俺の数十メートル前方に迫っていた。


「起爆しろ!!」


俺の号令とともに後方から小さな爆発音が2つ重なって聞こえ

その後凄まじい爆発音がした。

最初の爆発は地面に起動した地雷の爆発音で

2回目の爆発音は落とし穴に落ちた車両がその下に設置された対車両用の地雷に

よって爆発した音だろう。


「ジョン! 前進だ! 」


岸壁に掘った穴から飛出し前方で急停車した輸送車に向かって走る。

他の場所からも先ほどの爆音とともに激しい銃声が聞こえ始めた。


「アイツらを解放してやれ! 」


「了解です!! 」


ジョンが輸送車の後方の開閉部に向かい俺はすぐ手前の運転席のドアに向かった。


「ふんぬっ!!」


固く締められたドアを俺は段ボールでできた壁を引きはがすかのようにはぎ取った――


「なっ―――?! 」


その向こうにいた軍支給の全身を覆い尽くす、標準装甲服に身を包んだ

まだ成人しきっていないションベン臭い男が怯えた表情で小さく悲鳴を上げる。


「お前に恨みはないが――」


すぐさま俺は俺は手元のアサルトライフルを勢いよく持ち上げ

そのまま銃床で相手の顔面をヘルメットごと殴りつけた。


「ぐっ――ぁ」


ヘルメットのプラスチック製のバイザーが砕け散りそのまま銃床が男の顔に直撃し鼻が拉げる、

そして最後に鈍い音と衝撃が俺の手に伝わり、男の潰れた悲鳴が上がる。

手前の男がもんどりを打って倒れる中、すかさず運転席の男に銃弾を2発ほど頭部にくれてやった。


「―ッ!? 」


運転席の男はこの状況を理解する前にヘルメット内に大量の血と脳髄をまき散らしこの世から旅立っていった。


「制圧した、ジョンそっちは? 」


「大丈夫だ、それと全員無事なようだ。」


「よし解放しろ」

「了解」


後ろから捕まっていた奴らを横穴まで避難させる。


「リオン大丈夫か? 」


助け出した中からすかさずリオンを見つけ猿轡を外す。


「ゴンザレス!駄目だ!! 」


リオンの助け出した直後の一言は俺の予想を裏切るものだった。


「どういうことだ?! 」

「俺達は嵌められてるんだ!今すぐ退却しろ!!」

「どういうことっ―――?! 」


更に聞き返そうとした時の事だった、突如前方の方からすべての音を掻き消してしまわんとする爆音が

谷に響き渡り、その直後熱波がここまで伝わってきた。


「なっ?! 何事だ!! 」

「奴ら『ATT』を投入してきやがった!!」


ジョンが顔面蒼白になり叫んではいってきた。

ATT正式名称、All-Terrain Tank――――全地形対応型多脚歩行戦車だ。

4本の反応装甲で覆われた巨大な脚部が特徴的な形をしており

この戦車独特のシルエットを形成している。

更にこの足には側面の至る所からLMGが顔を覗かせており

対戦車用の武器で対抗しようにも近づくことさせできないようにさせている。

もちろん上部には戦車独特の砲塔があり其処から撃たれる弾の破壊力は強力だ。

ただこの戦車の運用は難しく破壊されたときの損失は莫大なものである。

このような兵器は基本的に大量の護衛部隊と供に行軍する。

つまり―――奇襲は見破られていて、敵はそれを見越して大軍でここを“攻めて”きている。


「全員に次ぐ、敵は我々の奇襲を見破っていた! 今すぐに防御陣形を築け!! 」


共有回線を開き叫んだ。


「「了解」」


各班長達の応答の言葉が聞こえるが、一人の言葉一つ一つに感情がこもっており、

誰もがこの状況に困惑している様子だった。


―――まさか嵌めるつもりが、嵌められていたなど…

誰もがこの時まで、気づいていなかった事が窺える。

この場合敵はどのようにここを落とすのだろうか、

予想外の出来事だったが上に敵の行動を予測ができない。


もう一度巨大な爆音と熱波が谷を吹き抜けた。


「こちらサンドリック、前列の部隊が壊滅! 敵ATTは依然多数の護衛部隊と供に進軍中! 」


谷の入り口で戦闘をしていた部隊よりも少し後方の銃座部隊を指揮している奴が共有回線で叫ぶ。

先ほどの熱波はおおよそATTの主砲によるものだろう横幅が余りないこの谷ではATTの主砲から放たれるロケット弾は

こちらにとっては相当の脅威となりうる。


「ゲリー! ATT は見えるか!! 」

個人回線で叫んだ。

「はい、サー! 敵ATT依然としてダメージが余り入ってません、

ですが上部からの銃座による激しい猛攻により足止めができています」

「わかったATT破壊に向かう援護を頼んだ!」

「了解ですサー! 」


通信を切ると俺はジョンと供に横穴を出た。


そこで見た外の様子は予想を上回る凄惨さだった。

数十分前までは銃座が崖の一面にひしめき合ってその銃口を谷の底の獲物に向けていたのにも関わらず。

既に大半はATTの怒涛の砲火の前に黒い煙を吐き出し、黒焦げたスクラップへと変貌していた。

そしてその先にはまだ残っている数少ない対重装甲車用の銃座の激しい銃撃を受けている敵のATTが見えた。


「なんてこった!」

「これは酷ぇ」


あれ程の銃座の猛攻にもかかわらず敵のATTはまだ破損した様子さえ見せない。

さすが最新鋭の次世代戦車、戦場で投入した方が勝ちとまで言われるその兵器の実力を

現在進行形で俺達は見ている。


「とりあえず物陰で待機して見計らって前進するぞ」

「いや兄貴! もう待ってられねえ! さっさとあのデカ物倒さねえと気が済まねぇええ!!」


ジョンが物陰を飛び出したその時だった。

突如激しい風切音が聞こえ航跡雲が見えたかと思うと、目の前の岸壁が激しい赤い閃光に包まれた。

メディアアシストの偏光板が起動し閃光から俺の目を保護する。


「ぐあっ!!」


大分離れていたがその激しい爆風はこちらまで来ていて俺の体を吹き飛ばし近くにあった大岩に

背中を強く打ちつけた。


「う…ぐぅ」


目の前に重さを感じる。薄れてゆく意識の中で俺は目を開けると其処にあったのはジョンの腕だった。

ジョンの腕は本体から千切れており切断面からトクトクと黒い血と赤い血が俺のベストを赤黒く澄めあげている。

俺のメディアリンクは周囲の状況を内蔵されたコンピューターではじき出しそれを淡々と画面に映しだしていた。

それによると20m前方にある何かの瓦礫に突き刺さった黒焦げた布の様な物体をジョンとさしている。

恐らく物陰の隙間にいた俺とは違い、全身であの激しい熱波を受けてしまった挙句瓦礫に突き刺さったのだろう。

人の生と死というものは何時も単純な事で決まる。今回は敵を倒したいがために俺より先に物陰から出たジョンが、

敵の攻撃に巻き込まれ死んだ。敵をいくら殺したかろうが自分が死んでは元も子もない…


「ゲリー…状況を教えてくれ」


やっとのことでその場から起き上がると俺はゲリーに個人回線で連絡する。


「敵ATTの先の攻撃により前衛部隊がほぼ壊滅です」

「そうか、そっちは無事か? 」

「ええ、まだ何とか、そっちは?」

「ジョンがやられた、あのATTをなんとかしないと本当に全滅するぞ」

「なにか考えが?」

「一つだけなら…」


そう――あの無敵の鉄の怪物をスクラップにする策を即興で俺は思いついたのだった。

策とはこうだ。

まず何とかしてあのATT付近まで近づくそして後方に在るであろうエンジンの排気口付近にありったけの爆弾を

くれてやる方法だ。

だが現状味方の援護は余り期待できない上に、あの後ろには多くの護衛部隊が付いている為

ほぼ不可能といっても過言ではない。


「いや、なんでもない…」

「いえ! やりましょう! 」


こんな無茶苦茶な考えをやめようと思った時、ゲリーがかぶせ気味に発言した。


「だが無茶な作戦だ…いや作戦ともいえん、これ以上犠牲者を増やしたくはない

 なんでもないということにしてくれ」

「いえ! やるべきです! 既に我々には後がありませんこの際、奴に少しでもダメージが入るなら本望!

 やりましょう! 内容を教えてください」


簡単に内容を説明した。


「なるほど――確かに厳しいですね」


「じゃが黙って死ぬ行くよりはよかろう」


突如共有回線からゼンの声がした。


「ゼンそれは一体誰に」


「お前じゃよゴンザレス」


「今の会話はすべてゲリーが共有回線に流していたんじゃ、

 あれを潰すにはそれしかあるまいて」


「なるほど―――ですが人数が」


「我々も手伝います」


メイスの声がした。

そしてその後から


「俺達も」


「我々も」


と続くように各班から参加するという声が聞こえて生きた。

…やるしかないんだ、今俺たちに残された道はそれしかないのだと。

改めて実感した。


「わかった、だがやみくもに突っ込むだけじゃむりだ」

「そこはわしが考えよう」


ゼンの声がそう告げる。


「奴の正面装甲と上部装甲は強力なもので表からの破壊は間違いなく不可能じゃろう、

じゃからここは責めずにわなを仕掛けて嵌めるというのはどうじゃ」


「たしかに―――無理やり突っ込むよりは、よさそうだな…

 よしそうしよう」


「俺の近くにいるやつらは罠の設置を手伝ってくれ。銃座にいるやつらは

 引き続き奴の注意を引いてくれ。」


「「了解」」


通信を切ると横穴に戻った。


「どうだった?」


中に入るとリオン達が険しそうな顔で話しかけてきた。


「かなりまずい状況だ…だが、策はできた

 その為にここを移動せねばならん。

 アジトまで逃げてくれ」


「了解だゴンザレス」


リオンがそういうと中にいた全員が移動を始める。

列の最後が出ていくのを確認し、早速罠の準備を始めた。

昨日の夜仕掛けた地雷とプラスチック爆弾と同等の物を取り出す。

これを奴がここを通るであろう所に仕掛け

来たら“バーン”とやってやるという算段だ。

早速足早に外に出る。


相変わらず銃撃が激しく物陰から出るのは厳しい。

銃撃の合間を縫って物陰から物陰へと移動をしてゆく。

その間に爆発物をたんまり設置しておいた。

正面でATT周辺の歩兵に向かって物陰から銃を撃つ奴らが見えた。

3回の発砲に対し相手は数百という数の応射を集中的にしてくる中で攻撃を続けていた為に、

腕に食らったようで腕を負傷している。


「大丈夫か? 負傷したのなら今すぐ撤退しておけ、避難するくらいの時間は作れる」

「でも――」

「安心しろ、もう大半の仕掛けは設置した」

「本当ですか?!」

「ああ、だから安心して後ろに下がれ」

「…了解! ご武運を」


そういうと負傷した男が後ろに下がっていった。

次の物陰に移動し最後の爆発物を設置した。

上の方から爆発音が聞こえた、けれどそれを気にしていられる余裕は今の俺にはない。


「そっちはどうだ?」

班専用回線で叫ぶ。


「だいぶ設置終わりやした!」


ジャックの声がした。彼は谷のATTに狙われない高さにぷらチック爆弾を設置している。

ここが爆発すれば大量の落石により随伴歩兵を一掃できるうえに、谷を塞ぎ逃げる時間が稼げる。


「了解だ、もう少し設置したら降りて来い」


「へい!」


通信が切れた。


敵のATTは既に50m手前まで迫ってきていた。

次第に大地を揺るがす巨大な重鉄騎の唸るような音が聞こえてくる。

そして全高数十メートルもあるそれは谷を塞ぐようにゆっくりと迫っている。

ここまでくるともう歩く要塞にしか見えないな…


「ゲリーそろそろ降りて来い、退却だ」

「………」


返事がない。


「ゲリー退却だ!! 」

「………」


やはり返事が返ってこない、上の銃座を見た。

ゲリーのいた銃座がは既そこになく黒い煙を吐き出す鉄屑が代わりに見えた。


「くそっ! ジャック!帰ってこい!」

「了解っす」


ジャックはまだ生きていたようだ、まさかジャックがあの3人の中で唯一生き残ったのは

正直驚いているがそんな事よりも今すぐここを退却せねばならない。

上を見上げるとジャックがワイヤーロープを素早く滑り降りて来るのが見える。

そこに大量の銃弾が撃ち放たれているが奇跡的に当たらず降りてきた。


「他の2人はやられた! もうここにいるのは俺達だけだ行くぞ!」

「へっ、へい!」


敵の方向を見ながらゆっくりと物陰を進んで退却する。

その間にも敵が進軍し続けているのが見えた。

その頃には銃声はたまに鳴る程度になり聞こえるのは、鉄製の巨大な怪物が地面を陥没させて進んでくる音だけだった。

そしてその1分後、奴らが罠の場所に到着するころになった。


「よし」

爆弾の起動ボタンを押す―――爆発音がしない。


「ん?」

もう一度押すがやはり反応がない、ここにきて最悪の事態となった。


「何だってんだっ! 」

俺はボタンを地面に投げつけ叫んだ。


地面に落ちたプラスチック製の本体は地面に当たると

当たったところから一気に砕け散り内部の部品が飛出、

最後にボタンがおかしな方向に飛んで行った。


「兄貴…」

「くそっ!! 今度こそ終わりだ!! 俺達は全滅するんだよ!! 」


「いや、させねーっす!」


ジャックが腰のポーチをまさぐり野球ボール大の何かを取り出す。


「はっ!お前何をする気だ! やめろ―――」

「こいつを持ってあん中に飛び込んでやるっス!…う!うぉぉぉぉぉおおおおおおおおお」

「ジャック―――――」


ジャックが手に手榴弾を抱え込み敵の砲火をかいくぐり走り谷の奥へと消え去った。



そして数十秒後、谷の中心部から黄緑色の閃光が一瞬見え瞬時にメディアアシストの偏光板が作動する。

そしてその次の瞬間には巨大な轟音が空気を震わせ、地面が大きく揺れる。


「ぬあっ!」

その揺れは余りにも大きな振動であったため俺はバランスを崩し地面に倒れた。

次に立った時には敵のATTの音はせず敵も正面の谷から消え失せていた。

代わりに巨大な鉄の怪物の骸から火炎を吹き出しと其処から出る煙がふきだしていた。

そしてつぶす大量の岩石が谷を塞いだ。

作戦は成功した―――尊い犠牲の末に俺達はあの要塞のようなATTを排除したのだ。


「ジャック―――っ!」


俺はそう呟き共有回線を開き皆に多くの仲間の犠牲の上の勝利だと思いつつ伝えた。

「敵ATT 排除成功」 と。


「ゴンザレス…そうか、やったか」


ゼンの声が聞こえるが妙に擦れている。


「どうかしたのか? 」

「ATTは囮だったのじゃ! 後ろから別の部隊が攻めてきて不意うちを仕掛けられた。ほとんど壊滅状態になっている」

「なっ――――」


ゼンから告げられた衝撃の告白に俺は一瞬頭が真っ白になった。


「リオン達は!?」

「リオンと数名はその少し前にお前を心配してそっちに言った様じゃが来てないのか?」

「ああ、きてない」

「そうか…」

「それより爺さんたちはどうするんだ!」

「最後まで抵抗するがこれ以上持ちそうもない、あとはt――――」


通信がゼンがすべてを言い切る前に途切れた。

俺達はしてやられたのだ。

相手は俺達を殺すために本気を出して来ていた、それこそATTすら囮として使うほどに。

そんな相手に俺達はここまでやってきていたのだ、大したものじゃないか―――

俺は戦意を喪失するほどこの状況に絶望をしはじめた。

数々の死線をくぐってきたがここまで絶望的になるのは初めてだった。

そして今俺はこの状況を分かち合って死ぬ仲間もいない。

それこそ真に絶望と言えるものも早々ないだろう―――そう思っていたその時だった。


「ゴンザレス!」


リオンの声がする。


「リ、リオンか?」


俺はゆっくりと声のする方に顔を向けた。

そこにはリオンが唯一人がこちらに向かってくるのが見える。

リオンは昔からの旧友で何をするときもペアを組んでやっていた。

俺の中で一番の親友であり信頼できる男だ。

その男の声を聞き俺はすぐにそちらの声の方に向けた。


「リオン! 生きていたか!」

「ああ…だがもう残っているのは俺達だけだろう」

「他の奴らは―――やられたか」

「走ってくる最中俺を庇ってな糞野郎どもが…」


リオンがほとんど吐くことのない悪態をついている。

それが現状が如何に珍しくそして絶望的かを物語っている。


「ここからどうする、こっちに道はないぞ仮にあったとしても敵の集団と出会っちまう」

「ここで俺達の最後の抵抗をしよう、最後位派手にやってやろうじゃないか」

「だがお前が死んだら…」

「止めてくれ! 俺はあいつらが許せないんだ! 俺の大事な仲間を奪っていた奴つらに一矢報いたいんだ!

 止めないでくれ!! 」

「…わかった。お前がそこまで熱くなるならしかたねぇ―――やってやろうじゃねえか!」


俺は銃座から谷底に落下していた壊れていないガトリング砲を拾い上げ構える。

なぜだろうか、頭がいつもにもなく澄み渡り気分が高揚した。

多勢に少数で挑むこれは、まるで戦隊ヒーローの様だ。


「人生最後がこんなにも早く来るとは思わなかったよ」


俺は若干空を見上げ呟く。


「そうだな、でも死ぬなら派手にやってやろうぜ」


リオンもいつにもなく砕けた口調になっている。

そうやって死に向かう自分たちを勇ませあっているうちに

死へのカウントダウンと言わんばかりの鉄製ブーツの足音が

横一列に広がってこちらに迫ってくる音が聞こえた。


「行くぜ相棒! 」

「ああ!! 」


しばらく静かだった谷がまた大きな銃声に包まれていく。





それから何分ったったかわからないが、相手の方からロケット弾が俺とリオンの間に飛んできた。

俺は盛大に横に吹っ飛びリオンも同じく吹き飛ばされ今朝一番にできた落とし穴に落ちて行った。


「くっ…」


倒れた俺の胸に1発の銃弾が当たり背中を抜けて行った、次に足、手、肩…

俺はなすすべもなく体勢を崩し地面に強く体を打ち付けた。

そして頭に強烈な衝撃が走った。

鈍い痛みがゆっくりと伝わるのが解る。

そして俺の方に飛んでくる銃弾が空中で止まっているように見える。

人が死ぬとき周りがゆっくりに見えるという都市伝説のようなものがあったが、それは本当のようだ。

まるで“人生最後にこの人生はどうでしたか?”とまとめる時間が与えられているような長さに感じる。

だが俺は思い出すほどの思い出と呼べるものはあまりなく、まとめるような内容はほとんどなかった。

だから俺はひたすら景色が黒く薄れてゆくのをただただ、死ぬその瞬間まで眺めることにした。


次回から4話の続きとなります。

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