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彼女の兄――ゴリラとの遭遇

 

  ノアが勢いよく外に飛び出すと、そこには、

  四角くエラが張った顔の、身長がだいたい2m強を

  超えているであろう大男がいた。

  正直『兄さん』よりも『兄貴』または

  『おじさん』と形容した方がしっくりくる見た目だ。

 

  「ゴリ兄―――!! 」

  とノアが叫びながら大男に飛びついて行くのが見える。


  「心配をかけたな」


  大男がその巨大な胸板で、飛びつくノアを

  抱きとめる。


  『美女と野獣』そんな言葉がこれほどマッチする光景も

  なかなかお目にはかかれないだろう。


  だがな―――ゴリ兄って...確かにあの身体つきは

無駄に筋肉質で胸板が服の上からでも分かるくらいの物で

  ドラミングするにはもってこいにも見えるけどさ――


流石にあだ名ひどすぎねぇですか?


  そんな俺の心の中のツッコミはさておき

  ゴリ兄の方はあまり気にしていない感じだ。

  やっぱり、あのみんな家族って話は本当だったのか…

  そうでなきゃノアは今頃、空のお星さまにでもなっていてもおかしくない頃だ。

  

  「―――あいつは誰だ? 」


  大男が殴り掛かってきそうな

  鋭い目つきで俺を睨んできている。


  怖ぇ…やばい――ちょっとちびりそうになったわ。


  例えるならライオンの親子をテレビの画面や

  動物園で見るのは、別にいいけど。

  実際のサバンナで丸腰の状態で、それに出くわした時に

  親のライオンから睨まれているような感じだ。

  俺を守る画面も動物園のような柵もない…

つまりあの大男が襲ってきたら

碌な抵抗もできず俺は、あれの餌食となるわけだ。

それだけはまずい、なんとかしてあの野獣から逃れなくては―――


「ゴリ兄! あの人はいい人だよ」

    

  ノアが俺を庇うようにフォローする。  


「いい奴かどうかが問題なんかじゃない

俺達の正体を知ってしまった奴が

いるのが問題だ」


大男が俺を睨みつけ汽笛のような、その野太い声で言う。

  やはりテロリストと呼ばれるだけに自分たちの情報をできる限り

  残したくはないのだろう。

  大男がこちらに向かって歩いてきている。

 

  「待ってくれ! 何をする気だ」 

 

  もしかしたら、もう少し冷静な言葉も言えただろう。

  しかし―――いざこういう場面に出くわすと、人は自分の意志とは

  反する言葉が出てしまうものなのだろうか、

  俺は反射的に、何とも情けない言葉で命乞いをしてしまった。

  そして俺の、その言葉を軽く聞き流した大男が

  手を鳴らしながらさらに接近する。


「とりあえず口止めを――――ウゴッ!! 」


  大男が大きく左右によろめいた。


俺を口止め、もとい締め上げようとしてきた大男の急所に

ノアの強烈な蹴り上げが決まっていたのだ。

  おぅ…痛そっ。

  俺は自分の股間あたりを反射的に抑えた。


  「だからっ!! この人は、あたし達のことなんか言わないって! 」

 

  とノアが、悶絶する大男に怒鳴る。

  あれっ、ノアってこんなに威勢よく喋れるのか。

というか、野獣の様な大男でもやはり急所は急所なんだな。

俺も次から大男に襲われたらそうしようかな…

ここで既に前提が襲われる事になってるとこについては

深く言及しないことにしてくれると助かる。

  

  「だがな…俺たちの情報はできる限り消しておかねばならん。

   仮にこいつが、いい奴だったとしてもだ、

   ユニオンの奴らがいい奴とは限らないんだ。

   こいつが事実を吐くまで拷問するかもしれんぞ。その時こいつが

   事実を言わないとは限らない、だから

   俺たちはコイツにそれ以上の痛みっ――――ウグッァァアァアアア!! 」


  またもやノアの蹴りが大男の急所にクリーンヒットする。

  あの人のゴールデンうんたらは大丈夫だろうか。

  身の危険を少々感じながらも俺は、彼のイチモツを心配する。

 

  「だったらちょっとの間、ついて来てもらえばいいんだ! 」 

  「ちょっと待ってくれ!! なんでそういうことになるんだよっ! 」

  「だって、そしたらアルトは殴られなくてすむから」

  「それ以外はないのかよ!! 」

   

  そうだこれ以上彼らに深く関わればそれこそ、そこで悶絶している男が

  言ったように俺は拷問を受けるかもしれないそして、

  この街を去らなければいけないかもしれない。

  それは避けたかったが、


  「お願い!一緒にちょっとの間でいいから来て! 」

   

  そんな潤んだ目で見つめないでくれ、決心が揺らいできただろ――

  …だがしかし、今は大人しくついていくのも、ありなのかも知れない。


  「―――わかった、お前らが言う少しの間だけついてく」

 

  世間一般のイメージで言うテロリストならこんな会話もなく

  今頃、俺は無理やり外に連れ出されていただろう。

  だがこいつらはそんなことはしなかった。

  だから―――俺は、少しだけこいつらの事について、

  考えを改め直してみることにして、ノアの誘いを受けることにした。


  

        ×   ×   ×


  

  街の地下に張り巡らされた下水道を通るのは初めての経験だ。

  というかそもそも人が来るところではない。

  その証拠に俺は大男に渡された、ガスマスクを被っている。

  下水道を通るのも人生初だが、ガスマスクを着けるのも

  人生初だった。

  幸いガスマスクをしているおかげで臭いはあまり感じない。

  それでも丸く作られた壁にこびり付いているカビなのか

  サビなのか、はたまたそれ以外の、その正体を知ることとすら

  避けるべき汚物なのかが、視界に入る度に

  俺は鼻の奥がひん曲がるかのような悪感に襲われた。


  「テレポートはしないのかよ? 」

  「そんなもの設定したら

   ストレージを落としただけで

   俺たちは全滅しかねない、

   それくらい赤子でもわかるだろ」


  その言葉は確信を衝いていた。

  何せ、落とした奴が今、俺の後ろにいるのだから。


  「あ…あたしは落としたけど今は持ってるからね! 」

 

  ノアがわざわざ落としたことを暴露する。


  「…クソッタレ」

 

  大男が小声で、そう言ったのが聞こえた。


  「いいか、ノア!そうボケッとしてるなら今度こそ

   お前を”ここから“追い出してやるからな! 」

 

  「ごっ…ごめん」

  

  「まあいい、お前のストレージには

   俺たちの連絡先以外は、特に重要なものは

   入れてないからな」


  彼女―――ノアは相当、信用されてないんだな…

  いやまぁ…抜けてるとかいう次元じゃない残念さが、

  今日一日一緒にいた俺ですら、分かるレベルではあったけどさ。

  

  その後も少々の会話を挟みつつ俺達は暗い下水道の中を進んだ。


「ゴリ兄…ゴリ兄以外に、捕まっていない人はどれくらい残ってるの? 」


  「そうだな…少し前に何人かには連絡が付いたが大半は

   やはり繋がらなかった」


  「そっかぁ…」


  「ああ…それでも救出作戦を今練っているところだ」


  「じゃあ!兄さん達は助かる? 」


  「ああ、きっと助ける。そして全員を助け出して

   今回は失敗したが、今度は『みんな』で成功させよう」

 

  大男の、その余りにもフラグじみた言葉に、俺は一抹の不安を覚えた。

  その言葉とは別に――俺はどうなるのかと、ふと疑問が浮かんだ。


  「俺は何かやらされるのか? 」

  「いや、お前は俺たちが帰るまでアジトで待っていればいい」

  

  「なんだ――てっきり戦いに巻き込まれるかと思ったぜ」


  「お前のような温室育ちの小僧じゃ糞の役にも立たん」

  「そんな言い方はないだろっ」

  「貴様が戦闘に参加したところで、糞虫以下の存在だ」

  「なんだと!!俺だってそれなりに力には自信があるぞ! 」

  「その余裕の態度が気に入らん、それが命取りになんだ」

  「何だと、この糞がっ! 」


  さっきから俺を、塵を見る目で見ているのは分かっていたが――

  ここまでハッキリといわれると、流石に腹が立った。

  俺は大男に近づく。

  

  「―――アルトごめん!! 」

 

  大男と俺の前にノアが割って入ってきた。


  「ゴリ兄ってさ! 口がすごく悪いの!!

   でもね――今のだって、唯――アルトを貶していたわけじゃないの」


  ノアが必死に俺に、頭を下げて来た。


  「ノア、そんな男に構う必要はない、勝手に怒らせておけ」


  「ゴリ兄も、いつもそうやって

   皆の事を、本当は心配してるのに

   悪口で済まそうとするのはよくないよっ! 」


  「俺は...そんなことは思ってない」


  大男が前を見て、それっきり黙ってしまった。

  

  「ごめんねアルト、せっかくついてきてくれたのに」

  「いや俺も、少し調子に乗ってたのかも知れない」


  というか後どれくらい歩かされるのだろうか。

  かれこれ小一時間は歩いている気がする。


  「そういえば、後どれ位で着くんだ? 」

  「…そうだな、そろそろ上に上がっても良い頃合いだろう」


  大男の動きが止まる。


  「俺がまず先にこの梯子を昇る、その次に貴様が来い」

  「…ああ分かった」

  「最後にノアだ、いいか? なにも落とすなよ」

  「あたしだって好きで、落してるわけじゃないし! 」

  「ならいい」


  まず大男が梯子を軋ませながら昇って行く。

  それに続いて俺も昇る。

   

      ×   ×   ×


  出たのは街の外の丁度、外壁あたりだった。

  いつもは此処まで近づくことがなかったので分からなかったけれど。

  外壁はかなり巨大だった筈だった―――確か高さが300m位あった気がする。

  そしてその壁は、街をぐるりと囲んでいるのだ。

  その圧巻の大きさに俺は息をのんだ。

  

  「でかっ…」

  「貴様いつも暮らしているくせに何を言ってるんだ? 」

  

  大男が不思議そうに聞いてくる。


  「ここまで近づいた記憶がほとんどなくって

   久々にこんな近くで見たから思わず言っちまった」

  「ふむ、当たり前に有ると、その異様さに気づかない物なのだな」

  「そりゃ空を見たって何かを思うことは無いだろう、それと一緒だと思うぜ」


  男は少し沈黙し


  「なるほど、中々面白いことを言うな小僧」


   とまるで“今更だな”と言わんばかりに言う。


  そんな少々皮肉交じりの男の返答に


  「そりゃどうも」


  俺は罵る様に返事をした。


  「――――二人とも何を話してるの? 」


  俺の後から昇ってきたノアが、後ろから会話に割って入ってくる。


  「ああ、どんなに凄かったり大切だったりするものでも

   当たり前にあるせいで気づかないなって話だよ」

  「ふーん…そういうものなんだ」

  「そういうもんだ、この壁だって俺は今の今まで

   こんな風にでかいなんて考えたことなかったしな」

  「う~ん…確かに、この壁って大きいよね」

  

  そういえばこの壁の上には見えない壁が発生しているらしく

  航空機を使っての街から出たり入ったりはできないそうだ。 

  しかし意外とそれが当たり前という認識のが強いせいで、

  実は何とも思ってない人のが多い。

  上の見えない壁、絶対不便だよなぁ…


  「まあ昔は壁の大きさでその街の富を争った

   時代もあるみたいだからな、その名残なんだとよ」


  「へ~、アルトって頭いいんだね」


  ノアが本気で俺にそう言った。

  これ小学校で習うんだけどな―――

  

  「お前、ちゃんと学校とか行ってたのか? 」

  「行ってないよ、だって学校なんて“ここ”に来るまで知らなかったんだもん」

  「はぁ? どういうことだ義務教育はどこのユニオンやホルプスでもやってるだろ? 」

  「違うよ、あたし達が住んでた場所はそんな物がなくって、

   ただただ毎日を必死に生きる為に皆が助け合ってく場所だったから

   そんな所、行ったことないよ」


  訳が分からなった―――ホルプスやユニオンに一度も属していない人間が

  この世にいるなんて。

  じゃあ彼らは一体何者なのだろう。

  もしかするとホルプスともユニオンとも判断が下されていない。

  小規模集落の人間なのかもしれない。だから生活のために

  已む無くテロリストの仲間になってしまったのか。

  だがそれなら大男がノアに言った「ここから追い出す」

  の『ここ』とは何を示しているのだろう。

  街からか?いや街からなら大男も一緒に出ているのだから

  『追い出す』という表現は正しくない。

  じゃあさっきの下水道からか?

  でも彼らは自分たちの情報をわざわざ街に置いていくことは無いだろう。

  それに下水道ならすでに出ている。

  だからこの『ここ』も違う―――なら一体『ここ』とはなんなのだろう、

  彼らは何処から来たのだろう、唯々――謎は深まるばかりだった。

  

  「―――何処から…お前らは来たんだ? 」

  

  彼らに尋ねた。


  「それはね、本当のs―――」

  「ノア! 口が過ぎるぞ」

  

  何かを言いかけたノアを大男が止めさせた。


  「言えないことなのか? 」

  「貴様が知る必要はない。だから言わなかっただけだ」 

  「俺だって今は、お前らに命を預けてるんだ!

   教えてくれたっていいだろう!! 」

  「知る必要はない! 」


  この後も聞き返したが、大男は『知る必要はない』と言葉を変えることはなかった。

  一体何を隠しているのだろう...


       ×   ×   × 


  その後は唯、ひたすら無言で夜の舗装もされてない大地を歩き続けた。

  そして壁の下から歩き始めて1時間ほどたって

  大男がようやく足を止めた。


  「ここだ、いいか下手な真似はするなよ。

   ここには俺よりも気性が荒い人間が多くいる。

   貴様が何かしでかせばその綺麗な顔が

   すぐに醜くひしゃげるぞ」

  「わかったっつの」

  「いい度胸だ」


  大男が目の前の地面に積もった土を払うと其処には

  人一人が入るのが精一杯であろうハッチが現れる。


  「こんなところに」

  「入るぞ」


  大男がハッチを開け入ってゆく。


  「ノア、先に入るか? 」 

  「うん、ありがとうアルト」


  ノアを先に入れ最後に俺が続いた。

 

  

  しかしまあ想像はしていたが――――


  まるで何処ぞの『光の剣』を振り回す映画に出てくる

  賞金稼ぎの溜まる砂漠惑星の酒場のような光景だった。

  右から左を見ると其処には体のどこかしらに

  大きな傷を持った強面の男たちが酒の代わりに

  これまた映画でしか見ることのないような

  大小さまざまな銃器をを抱えてこちらを睨んでいる。


 「兄貴そいつ誰っすか? 」


  手前にいた彼らの中では、比較的に若く

  そして脱色した髪に耳にピアス、鼻にも

  これまた『牛なのかよっ! 』と突っ込みたくなるような

  リングを着けたTHE不良 の様な容姿の男が

  大男に向かって言った。


 「こいつは俺達の存在を知ってしまったため

  明日の作戦に支障を及ぼさないために連れてきただけだ。

  作戦が終わりここを離れる際には解放する」


  一瞬男たちがざわめく。


 「隊長!そんなの危険です」「そいつは生かしておくべきじゃない! 」

 「今すぐやっちまいましょう」

  

  などと危険な言葉が飛び交うのが聞こえる。


 「落ち着け、まだこいつと俺達が接触したのは見つかってないはずだ。

  それなら問題はなかろう。それにだ! 俺達は人殺しじゃない

  どうしてもというなら明日のこいつを解放するときでも

  遅くはないだろう」


 「逃げたりするのでは? 」


 今度は奥のスキンヘッドで顔にきり傷がある男が

 大男に尋ねた。


 「その時は殺せばいい、以上だ」


 そう言うと男たちは一瞬の沈黙の後

 各々のやるべきことに戻った。


 「―――さてお前らが勝手にウロチョロされると

  こっちも迷惑だ。今日のところはさっさと寝ろ」


 「こっちだよ」


 ノアに引っ張られ俺は奥の部屋に連れてかれた。

 大量のベッドが置いてある。


 「適当に使っていいよ」


 ノアが一番奥のベッドに飛び込みながら言った。


 「わかった、じゃあ適当に使わせてもらう」


 俺は言われた通り手短なベッドに倒れこみ

 そのまま深い眠りについた。


4話です。次回5話投稿は2015年2月13日

6話投稿はその次の日の2015年2月14日

7話投稿はさらにその次の日の2015年2月15日を予定しております。

次回の5話、6話に関してなのですが。

ぶっちゃけ飛ばしてもらっても問題のない内容となります。

そして二つ合わせて約2万文字あるため、いきなり序章ラストの7話にとんでもらっても大丈夫だったりします。

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