彼女の秘密
あれから少し経ったことだった。
俺のストレージにユニオンから緊急通知が
大音量の通知音とともに飛んできた。
『シティ内にてテロ事件が早朝発生、
多数の警備隊員と戦闘状態になりましたが
現在ほとんどの犯人達を制圧しました。
しかし一部犯人が逃亡しているため
ユニオンのメンバーズの皆様は
自宅にて待機していただくよう
ご協力お願いします。』
という主旨の内容だった。
早朝ならもうちょっと早く連絡が来てもいいはずなのだが
なぜこんなにも遅れて来るのか…
「ノア…当―――」
俺が当分かけなくて言い、ということを伝えようとした刹那。
ノアの電話が繋がった。
そしてスピーカーモードになっているらしく
会話の内容が聞こえてくる。
「ノアか!作戦は失敗した!!
リオン達が俺たちを逃がすために少し時間を稼いでくれたんだ!
今の内に、シティの外に逃げるぞ! 今、どこだ!」
電話越しに男の声が聞こえてくる。
「今どこだ!!! ノアっ!!」
「えっと…えっと」
ノアが此処の場所を伝えれるようなものを探している。
「早く!!」
「待って!!今探してる!」
「□△○地区の映画館隣の家だ!!」
俺が会話に入るように叫ぶ。
「―――ノア、そこに誰かいるのか?!
まあいい!!今すぐそっちに向かう!!」
男の声がそう告げると電話は切れた。
「ノア…作戦ってなんだよ…失敗って何の話だ」
俺はほとんど、その答えは分かっていたが
どうしても本人の口から聞きたかった。
例えそれが俺の一番望んでいない答えだとしても...
「…だから止め様って言ったのに…失敗するって言ったのに」
ノアには俺の声が届いてる様子がなかった。
「おい!!」
ノアの肩を揺さぶる。
「お前は一体何者なんだ!!あのテロリスト達と関係があるのか?!」
「兄さんたちはテロリストなんかじゃない!!」
「お前がどう思っているのかは知らんが、事件を起こしたのが
お前の兄貴たちなら、それはテロリストだ!!」
「違う!!」
ノアは現実から目を逸らすかのように俯き、拳を強く握り
声を張り俺の言葉を否定する。
俺だって俄に信じがたい。できればそんなことじゃない方がよかった。
だが今の状況を整理すれば、彼女が兄と慕う人々は間違いなくテロリストだ。
俺はどうすればいいんだ!このまま此処でジッとしていればいいのだろうか
――――とうとう俺の答えが出ることはなかった。
ノアが居てもたってもいられず部屋から飛び出してゆくのが見える。
「ノア!!今外に出ていくのはっ!!」
俺はそう言いながらノアの後を追って外に出た。
外は先ほどと同じ街とは思えないほどの静けさに覆われていた。
其処にノアが一人だけ道の真ん中で、これから来るであろう兄を待っている。
「ノア!中で待ってるんだ!今、外にいるのはいいとは思えない!」
「でも!兄さんがもうすぐ来る!!」
「でもっ――」
俺がもう一度、中へ呼び戻そうとした時だった。
向こうからボロボロの服の男がこちらに向かって走ってきた。
それも大量のフル装備の警備隊員を引き連れて...
「兄さん!!」
ノアが男に駆け寄ってゆこうとする。
その言葉でノアを視認した男が、一瞬顔を緩めたような気がした。
しかしすぐに彼は顔を強張らせた。
「ノ――ッ! 誰だ!てめぇ!!
ぶっ飛ばすぞ!!
ゴラァ!!!!!」
男がノアに恫喝する。
それに反応してノアの動きが止まる。
「このテロリストがっ!!」
男が叫び、足が一瞬遅れたところを
後ろの警備隊員の一人が捕まえ押し倒す。
周りの警備隊員たちもそれに続き男の上に覆いかぶさって行く
「ウグッ!!」
潰された男が悲痛な声を上げる。
「おい!!お前ら!!今は家の中にいろと連絡があったはずだろ!!
家の中に入ってろ!!」
こちらに気付いた警備隊員の一人がこちらに叫ぶ。
「にぃ!!―――ンゥグッ!!」
ノアがもう一度、男を呼ぼうとしたので俺は
咄嗟に後ろからノアの口を手で塞いだ。
「ノア済まない」
俺はそう言い、ノアを家の中に引きづり戻した。
家に入る直前、男が警棒で袋叩きにされているのを見た。
× × ×
それから数十分、ノアとともに玄関で沈黙していた。
そして俺自身困惑していた、なぜ一瞬でもあの男に
同情しノアの身をかくまったのか...と。
ノアだって、彼らの仲間であるには変わりはない
ユニオンのメンバーズとしてあの時、
あのまま警備隊に突き出すのが、正しい選択だったはずだ。
だが俺はあの男の、ノアを庇おうとした時の、
一瞬でも顔の筋肉が緩んでいた顔を見て
俺はそうすることができなかった。
「はぁ…一体これからどうしたらいいんだ」
思わずため息が出る。
もう俺は半分テロリストたちに手を貸したも同然だ
これ以上、自分の立場が危うくなるようなことにはしたくない。
だがノアを庇っている以上、この危機的状況が変わることはなかった。
ノアは依然黙ったまま口を開こうとしない。
俺は不意に何を思ったか台所に向かった―――。
「ほら、これ飲んで少し落ち着け」
「…何これ?」
「ココアだ、女って甘いもの好きだろ。
それに、こんな暗いところでジッとしてても
何かが変わるわけじゃないだろ」
正直なところ、真夏にココア、という俺の選択はどうかとも思った。
しかし家にちょうどある甘いものが、これくらいしかなかった。
「――ありがとう…」
ノアが少しだけ笑ってくれた。
その笑顔に一瞬、俺は見惚れていた。
そして俺は、あることを思い出した。
彼女――ノアの名前を俺はストレージを見て知っていたが
俺はノアに自己紹介すらしていなかった事に今更気がづいた。
「俺、セヴァーナ・アルトニアっていうんだ『アルト』
って友達からは呼ばれてる、とりあえずちょっとの間
よろしくな」
「…うん」
俺は少しこの場が和んだような気がした。
お互い暗い気持ちのままでは真夏なのにこの場が凍りつきかねない
少しだけ気を紛らわせれるような話をしよう。
「そういばお前はARIAなのか?」
「そう…」
「なんでゲリラライブしかやらないんだ?
テレビとか出ればもっと有名になれるだろう?」
「…なんでって、あたしは有名になりたくて
あれをしてるんじゃないから」
「じゃあ何がしたいんだ?」
「兄さん達がやらないといけない事をする間
あたしが一番ライブをやると邪魔そうなところで
ライブをして人を集めて警備隊の人たちを集めること」
つまりノアは警備隊の人員を割くための搖動役だったわけだ
これならARIAが不定期でゲリラライブだけをしていた理由が付く。
「でも…今日のは上手くいかなかったみたい。
ちゃんと引きつけられてるとは思ったんだけど」
確かに毎回あそこまで大規模にやられれば
警備隊は人員を割く必要がある。
だがこの街は、世界屈指の大きさと強大さを持ったユニオンの首都だ。
周りの大規模なシティとは違い
警備の人数も質も全くと言っていいほど違う。
そのせいで彼らの作戦は惨敗に終わってしまったのだろう。
「なるほどな、そういうことだったのか
なんか悪いこと聞いちまったな」
「別にいい、アルトは何も悪くないから」
「もっと楽しい話をしようか」
「別に気を使ってもらわなくてもいい」
「…そうか済まない」
「謝らないで…謝られると悲しくなるから」
「わかった」
そのあと何回か会話を再度試みたが
あまり長くは続かなかった。
沈黙を避けるために付けておいたテレビが
今日のニュースをピックアップしている。
内容は今朝の出来事についてのことだった。
「今回このシティを襲ったのは、各地で最近勢いが増している
『レジステアンズ』通称は『レイズ』と呼ばれる、組織だったみたいですね」
女性のニュースキャスターが犯人グループの名前を読みあげる。
「彼らは、『システムからの人類の解放』を謳い
システムに関連する施設の襲撃を相次いで
しているグループでしたな」
初老の男性キャスターがそれに付け加えた。
『システム』とはこの世界を管理している組織であり
ネットワークを運営管理しているところである。
この世界の勢力を日々監視し『ポルプス』や
『ユニオン』などの行政権を与えるのもここだ。
だからこそ絶対的不可侵の存在であり
その存在は名前以外謎とされている。
ちなみに『ポルプス』とは
この世界で土地を管理し一定以上の住民がいる生活地域を
統治している集団のことを指している。
それに対して『ユニオン』とは
複数のポルプスが集まりさらに広大な土地を管理することのできるようになった集団である。
ユニオンはこの世界で言う国のようなものであり、
ユニオンに住んでいる人間のことを『メンバーズ』と言う。
各ユニオンごとに行政区が置かれていて
ユニオンの首都には支配地域の情報を収集し
その情報を『システム』に送るための巨大なタワーが設置されている。
今回の彼らの襲撃はこの巨大なタワーにあったようだ。
閑話休題。
「今、我々はシステムによって安定した平和を保つことが
できているというのに、なぜ彼らはそれを忌み嫌い憎むのでしょうなぁ」
初老の男性キャスターが続ける。
「やはり戦争によって利益を生み出していた時代の
古い思想や考えを今でも捨てきれていないということでしょうか?」
女性キャスターがそれに応える。
「たしかにそれ―――――
この後の会話は、永延とどうでもいい大人の思想が飛び交うだけだったので
俺はテレビから視線を外し、またこの沈黙の空間のに目を戻す。
ノアは相変わらず虚空を眺め黙り込んだままだった。
× × ×
突然のことだった。ノアのストレージが鳴り響く。
ノアは通話ボタンを押し電話に出た。
依然としてスピーカーモードだったため会話が聞こえてくる。
「ノアお前のいる家の前まで来た。
今すぐ出てきてくれ街の外に行くぞ」
今度は野太い男の声だった
「――わかった!今すぐ行く!!」
先ほどまで絶望に打ちのめされていたノアの顔が
希望の色に変わりまた外へと走り出していった。
俺もまたそれを追いかける。
3話目です。次回投稿は2015年2月12日です。




