電話の掛け方がわかりません
目の前にいる少女は
最近ネットなどで有名な歌手のARIAという人物で
最近俺の所属するユニオン、ここ『フロストハイぺリオン』を中心に
突然街中でライブを行うという活動をしていた。
当初はあまり見向きもされちなかったようなのだが、
最近はSNSなどでライブを見ると運が上がるなどという
噂が広まり、それを機に徐々に注目が集まり、
そしてもともと可愛らしい容姿と透き通った声を持っていたため
急速に人気が上がった、今一番話題の有名人だ。
長々と彼女の説明を頭の中でする。
一体俺は誰に説明してるんだよって、感じなのだが…
とりあえずもう一度顔を確認する。
――間違いない彼女だ。
さっきの重装備は騒がれないための変装だったらしい…
でもな!!―――さすがに重装備すぎるだろ!!
心の中で俺は全力で突っ込んだ。
「い――言っとくけど!あたしはARIAじゃないから! 」
少女は慌てているようで、声が透き通った地声に戻っている。
自分はARIAじゃないという彼女の言葉は、
その声のせいで説得力は皆無に等しかった。
「…ん?今ARIAの声がしなかったか? 」
斜め後ろの席の方から男がそうつぶやく声が聞こえる
それに続くように
「いやいや、さすがにここにはいねぇよ
ああいうのは高級レストランで食べてるんだって
こんなぁ庶民派なところにいるわけねえだろ」
その男の連れと思わしき男の声がそれを否定する。
だがその男たちの会話が発端となり店内がざわつき始める。
「え?ARIAいるの?! …」「どこ!? 」
「もしかしてあの席の」
「あの男だれ? 」――――――――
店内の視線がこの席に集まる。
それに気づいたノアが余計にテンパり始める。
「違うって! あたしはARIAじゃないし!! 」
もう一度発言してしまったのが決め手となった――
「やっぱりARIAだ!! 」
客の一人の一声により客がこちらの席に集まってきた。
「うわ!!本物だ! 」 「歌!歌ってください!! 」
「サインください! 」 「握手してくれ!! 」
そのままノアがファンたちに威圧されて壁際に追い詰められていく…
正直この不審者、もとい人気者を助ける義理などあまりない。
しかし流石にこの状況で困っている女の子を一人置き去りにして
一人知らん振りをして帰るのは、いち男としてどうかと俺の良心が判断し彼女の方に手を伸ばす。
「おい! ノア! 手! 」
「え…? 」
素早くノアの手を握り、テーブルの上に置いてあった水の入ったプラスチック製容器を握りしめ
「店員! あとで弁償するから今は目ぇ瞑ってくれ! 」
水を後ろに勢いよくばらまきながら振り上げてからの
日頃からのイライラと今日のこのよくわからん状況に対する怒りも含めた、
渾身のスイングを窓ガラスにブチかましてやった。
渾身の一撃の前に窓ガラスが力なく砕け散ってゆくのが見える。
ざまーみろ窓ガラス!――――いや、お前には何の恨みもないけど。
そんなかわいそうなガラスをしり目に、俺はノアを引っ張り外に飛び出して逃げた。
× × ×
「はぁはぁ…」
息切れを起こしたノアがしゃがみこんでしまった。
ダメだ追いつかれる―――どうやら彼女は運動ができないタイプの子なのかもしれない。
「おい!!あいつら後ろから追いかけてきやがった!!
立て!また囲まれるぞ!! 」
「む…無理…もう歩けない」
しかし今度追いつかれてしまったら完全に囲まれてしまう。
仕方ない――秘策の秘策を追いつかれてない今、使ってしまおう。
秘策の秘策...それはDOM技術を使った便利なシステムで
ストレージ内の『帰還』と書いてあるアイコンをタップすると
登録した場所に転送されるシステムだ。
俺はこれを親しみを込めて『トンずらシステム』と呼んでいる。
これを使うと、そこらへんにたむろっている不良にイタズラをしても
無傷に帰ることができるからだ。もちろん俺はそんな事はしたことがない
だって怖いじゃん...不良。
「ノア! 手ぇ掴まれ! 」
「なんで? 」
「いいから!! 」
ノアを半分強引に俺の手に掴まらせ『帰還』アイコンをタップする!
――――――――!!
俺たち二人の視界を強烈な光が包み込む
次の瞬間、見慣れた部屋が俺の眼前に広がる―――もちろん俺の部屋だ。
「何処、ここ? 」
何が起こったか理解ができないノアが呟く。
「俺の部屋だよ」
一瞬間があいた…そしてその瞬間、俺の脳内を嫌な予感がよぎる―――
俺は逃げるためとはいえ一人の少女を誘拐してしまったということだ。
“しまった! ”と後悔の念が、俺を駆け巡る。
掴まったりしないよね? 不可抗力だもんね…シカタナイネ。
「ふーん、そうなんだ」
しかし彼女から返ってきた言葉は
まったくもってそんな犯罪に巻き込まれたと思っているような
言葉ではなかった。
「お前、今の状況が危ないなとか思わないのか? 」
「危ないって何が危ないの? 」
質問を質問で返されてしまった...それにしてもホントに何も思ってないのかコイツ
「ほら、知らない人の部屋に来るなって教えられたりしなかったのか? 」
「あ~…そういえば」
と、のんびりな返事をしているが体の反応は早かった。
すぐさま俺から2mほど離れストレージを取り出している。
ああ神様―――俺、捕まるかもしれません…
「此処がどこか教えて、帰るから」
「今出たらまたさっきみたいになるぞ! 」
とりあえず捕まりたくないし今また彼女を外にだしても同じことが起きそうなので止める。
というかこいつが『トンずらシステム』使えば、
もっと早く、このめんどくさい状況が終わったのではないだろうか?
彼女自身が忘れているのかもしれない、聞いてみよう。
「なあお前のストレージに『帰還』ってアイコンはないのか? 」
少し下沈黙の後
「あった」
「押してみろ」
「わかった」
ホッとしたこれでやっとこの謎の美少女(笑)から解放されると。
だが神は、俺が罪のない窓ガラスを割ったのを怒ってしまったのだろうか、
そんな気持ちをすぐに裏切ってしまった。
「何も起きないよ? 」
「――え!? 」
そんな馬鹿な!!と思いノアのストレージの画面を見る。
『ポイントが設定されていません』
一番最悪のパターンだった、コイツはこれで帰れない。
このままでは俺の安息は訪れない。
そういえば待たせている友人がいたな、そろそろ干からびてる頃だろうか、
とりあえずこのどうしようもない状況を改善する手立てを考えつつ
今日の約束を断るメールを、干物になっているであろう友人に送る。
「そうだなぁ...お前どこに泊まっているんだ? タクシー呼んでやるから」
「ホテル」
なんともアバウトな回答が返ってきた。
そうじゃない、それはわかっている場所を教えてくれよ!
「どこに泊まってるんだ?名前くらいわかるだろう? 」
「わからない、ホテルはホテルだよ」
駄目だ...とうとう万策が尽きそうだ。
そういえばどこぞのアニメでは、毎話そんなことを言うキャラがいたな…
だが俺はまだ諦めるつもりはない!!何か案を考え出してやる!
そして一番簡単で、一番優良な方法を思い出した。
「おい電話!! 知ってるやつに電話して迎えに来てもらえ!! 」
「あー...なるほど、わかった」
彼女はそういうとストレージを開きそして――――止まった。
「おい、どうしたんだ? 」
「電話のかけ方わからない」
「――はっ?! 」
ここまでは冷静に対応しているつもりな俺だった。
でも流石に、この言葉には呆れてものも言えない。
電話の掛け方がわからないの!? それ小学生でも下手すりゃわかるよ!
というかこいつ今までどうやって生きてきたんだよ!!
今の世の中にここまで科学に順応してない人間がいたものか、
否―――いない!! 目の前にいるこの少女以外でなら
「ちょっとストレージ貸してみろ」
「はい」
彼女はストレージをあっさりと俺に渡してきた。
もう一度言うが、これは身分証や財布、鞄の役割をしている。
世間一般の常識がある人間なら、ここまであっさりと渡すことはないだろう。
余にあっさり渡されて、俺の方が戸惑う。
「いいのか簡単に渡して!! これ大事な物だろ!! 」
「別に、もう正体もばれてるからいい」
「そこだけじゃないだろ! 」
「あたしは別に気にしない」
「気にしろよ!! 」
このままだと会話が平行線で進みそうにないので
連絡先を確認する。
ものすごい量の男性名が載っている。
ああ…あれかこいつ、あれなやつだったのか…
ちょっとショックだった、たとえそれが今日初めて会った赤の他人でも、
彼女がそんな尻の軽い娘だったとは…
「で誰にかければいいんだ? 」
「兄さん」
兄貴か、というか兄貴がいたのか...
つまりコリンズという名前を探せばいいわけだ。
だがまたもや俺は大きな勘違いをしていることを教えられた。
「いないぞ? 」
「見せて―――いるけど」
いると言われ、もう一度画面を確認する。
やはりコリンズという名前は見当たらない。
「いないじゃないか」
「いるよ、だってこれ全部そうだもの」
「ん?! 」
「どういうことだ? この人たちは血はつながってないだろう!? 」
「剣士様が言ってた、村のみんなは家族だって、
だから血がつながってなくても、みんな家族なんだよ」
一瞬俺の思考が停止した。
彼女の口から出た新事実は、今までこの現代社会で生きてきた俺には
余りに非現実的で、架空の話のようにしか感じとられなかったのだ。
だが一つ分かった。彼女は身も心も、今のところ純潔を守ってきている。
そのことだけはなんとなく分かった。
さっきはなんか失礼なことを思ってごめんなさい、と心の中で謝っておく。
「...とりあえず全員兄貴ならそれでいい
誰でもいいから名前をタッチしてみろ、そうすりゃかかるよ」
「わかった、じゃあかけてみる」
彼女の細く綺麗な指が板と垂直にゆっくりと降りてゆき画面をタッチする。
やはり彼女は科学に適用できているようには見えなかった。
そして次の瞬間また、俺の頭を蹴飛ばすような言葉が飛んできた。
「かからないけど? 」
「はぁ?! 」
「でも、お掛けになった電話番号はって...」
「マジかよっ! 」
“万策尽きたあぁぁあああああ”という言葉が俺の脳内を駆け巡る。
流石にこれ以上はどうすることもできないと俺は判断した。
「何でもいい…かけれるだけかけてくれ」
「わかった」
× × ×
あれから何十分経っただろうか、一向にノアの電話は一度もつながってない。
先ほどまで惚け気味だったノアも、今では深刻そうな顔に変わっている。
「なんでかからないの…」
この裏で彼女たちの兄が大変な事になっていたことに、
その時の俺やノアは気づいてはいなかった。
2話目です。現状7話目でいったん区切りがつく予定となっております。
というか7話目までは書いてあったり…
次回投稿は2015月2月11日です(大体午後5時ごろを予定)。




