Q4「魔法とは何なのか」
小屋へと入った俺と亜蓮。そして小一時間程の号泣と懇願を経て入室を許可された妹。
室内は質素な木造の造りで、奥に暖炉があり、中心には四人用の木製テーブルと四つの椅子が、二対二の形で配置されていた。俺と江舞は左側の椅子に並んで腰掛け、それに向かい合うように亜蓮が座った。
「じ、じゃあ....亜蓮。お前が知っているだけのこの世界の事...教えてくれるか?」
「うん...。分かった。....それと、今から言うことは全て真実だから...あまり動揺しないで聞いてね」
「あぁ。大丈夫だ」
「......それじゃあ、話すよ?」
重い口を開くように、亜蓮は語り始めた。自分が転生してから今までの事。異世界について。...俺と江舞は全てを受け入れる覚悟で、その話を真摯に聞いていた。
◇◆◇
....そして、約数十分に渡る説明で、...次々に飛び出してくる非現実的な話に衝撃を受けながらも、大体この世界については把握出来た。それらを単純にまとめるとこうだ。
・この異世界には”魔法”が実在し、それによって人間たちの生活の根幹が担われている。
・だが魔法を使うには、”術者”と、術者の魔法を最大限に引き出す”召喚人”と呼ばれる特殊な人種とのペアリングを組まなければいけないらしい。そしてその術者と召喚人のペアを”デュアル”と呼ぶ。
・召喚人とは、何らかの形で異世界に..文字通り”召喚”されてきた者であり...例え召喚前は通常の人間だったとしても、召喚された時点でその者には、...原理は解明されていないが、召喚した術者の魔法を引き出す力が付与される。
・故にこの世界には、半ば強制的に召喚させられ、召喚人として扱われている人間が多数いるらしく...更に、魔法を使用した犯罪や戦争も相次いでいるそうだ。
「つまり....俺達はすでに....召喚人ってやつになっちまってる...ってことなのか!?」
「そう。私が召喚してこの世界に来た時点で、レン君と...あとついでに江舞ちゃんは、私の魔法を最大限に引き出す力を有してる」
「ついでって....。亜蓮さん、それってまさか、...亜蓮さんの力を引き出す為に...利用する為だけに、私達をここへ召喚したんですか!?」
「お、おい江舞...落ち着けって」
「...巻き込んだのは謝るわ。でも、決して利用するためじゃない。...さっき言った通り、この世界には魔法を使った争いが絶えないの。...崖の下に広がってた景色....見たでしょ?」
「あぁ、あの....古代遺跡みたいな所か?」
「........数年前、私はあそこに住んでいたの。...あの”街”に」
「数年前!?い、いや、...たった数年で...あそこまで廃れるなんて事....天変地異でも起きない限りありえないだろ!?」
森を抜ける前に見た景色。
原型を留めている建造物など何処にもなく、少なくとも一瞬見た限りでは、数千年前に存在した街なのかと思っていたのだが....
「起きたのよ。....天変地異が。....強力な召喚人を連れた術者のせいでね....」
「え.....?それって....まさか...」
「そう。たった”1組”のデュアルの魔法で....あの街は一瞬にして滅んだのよ。住んでいた人間はほぼ全員死んだ。...奇跡的に私だけが生き残ったのだけど」
彼女の言葉に、俺と江舞は激しい衝撃を受ける。...つい先程見た遺跡が、ほんの数年前に栄えていた街だったなんて....。考えるだけでも身の毛がよだち、魔法という力の恐ろしさに震える。
「....嘘...だろ...!?そんなの...もはやチートじゃねぇかよ...!」
「亜蓮さん、...まさか、その街を滅ぼしたデュアルに....対抗するつもりなんですか!?」
「そうよ。その為に...私に”協力”して貰いたくて...レン君を呼んだの。私自身が個人的にレン君に逢いたくて悶え死にそうだったのもあるけどね」
「だが亜蓮。...いくら俺が協力したところで...そんな化け物みたいな奴らに対抗できるのか?」
「ちょっと兄さん!?協力するつもりですか!?危険すぎますよ!!」
危険なのは承知の上だが...生まれ変わった亜蓮の頼みを無下にする訳にもいかない。それに...不謹慎だが、若干この世界について好奇心も湧いてきていた。現実では有り得ないような力や社会。その全貌を見てみたいと...そう思ったのである。
「分からない。...でも、きっと私とレン君が組めば、強力な魔法を扱えると思う。...それにデュアルには、術者と召喚人同士の絆が大切らしいしね」
「絆.....か」
「亜蓮さんがレン君に向けてるのは...絆じゃなくてただの独占愛だと思うんですけど」
「口を閉じろ。皮を剥ぐぞ小娘」
「私に関しては絆もクソもありませんね!!!」
「....しかし....まさか亜蓮が本当はこんな暴言吐く娘だったとはな...ごめんな。俺...お前の事、もっと知ろうと努力出来なくて...」
先程、小屋の前で亜蓮に言われた言葉が今更胸に突き刺さった。
いつも守ってもらってばかりで、俺の方から歩み寄ることが出来ていなかったんだと...そう反省した。
せっかく再会できたんだ。...これからはもっとこいつの事を精一杯見守ろう。
「別にいいよ....。レン君が少しでも私を見てくれるだけで十分。そうだ、ちょっと今から挙式しましょうか?子供はどうする?妹さんはどう処分する?」
「待て待て待て!!...色々飛ばしすぎだろ過程を!!」
下手したら本当にこいつ...知らぬ間に江舞を処分しかねないな....常に江舞も見守らなければ...!
「フフ.......じゃあレン君、それに愚妹...間違った。江舞ちゃん。....今更だけど...私に協力してくれる?」
亜蓮は、少し楽しげに...だが真剣な眼差しで俺たちにそう言った。
....まだ分からないことだらけで、正直この世界で生き抜いていくことには不安しかない。だが....何故か俺と亜蓮、そして愚妹...いや違った。江舞の三人なら、どうにか進むことが出来る気がした。
どうせ元の世界にいてもゴミのような生活が待っている。少しでも誰かの力になれるなら...喜んで協力してやろうじゃないか。
「....どうする?江舞」
「.......こ、こうなってしまった以上、仕方がないですしね....私に対する扱いをもっと良くしてくれれば...出来る限りのことは.....その...協力します」
何だかんだ言って、妹も協力する事を選んだようだ。
それに続くように、俺は亜蓮を見据えて言った。
「だってさ。...俺も同じ意見だ。....精々死なない程度に使ってくれ。...俺達”召喚人”を...!」
二人の答えを聞いた亜蓮は、...始めて、満面の笑顔を見せた。それはまさに...彼女が転生する前に俺が見ていた笑顔と...全く同じであった。
「ありがとう.....二人共...!」
「よし!じゃあ亜蓮、早速だが....その魔法って、どうやって使うのか教えてくれ!」
「そうですね。私達がどれだけ力を引き出せるかも知っておかないと...」
「え?......私....魔法の使い方なんて知らないけど?」
......さっきまで良い感じに”冒険の始まりだ!”的な感じだった俺の心は....激しい轟音とともに、崩れ去ったのだった。