Q3「転生とは何なのか」
ヤンデレ表現が難しく、若干ドロドロ展開になりがちですが...何とかコメディーに仕上げるのでご了承ください。
「亜蓮......!?亜蓮なのか!?」
長くて綺麗な黒髪。薄い赤のワンピースに、どこかで拾ってきたのかと思えるほど薄汚れた白のスニーカー。昔から彼女はファッションセンスが皆無だったのだが...まさに今目の前にいる少女も、完全にアンバランスなクソダサファッションだったのだ。...間違いない。この少女は亜蓮だ。
「そうだよレン君。....私だよ」
「な、....何で.....お前がこんな所に.....!?し、死んだと....思っていたのに...!」
混乱と再開の感動で、声が震え目に涙が溢れ出す。ずっと彼女に会いたいと...まさにその願いが叶ったかのように思えて仕方がなかったのだ。...だが彼女は、何故か一切表情を変えず、淡々とこう切り返した。
「レン君達も気づいてると思うけど...ここは私達が元いた世界とは全く別の世界なの。”異世界”って事ね。...そしてここでは、あらゆる物理的法則や時間の概念が、元の世界とは根本的に覆っている」
....何だか様子がおかしい....。こんな話し方をする奴だったか?
すると後方にいた江舞が、亜蓮の姿を再確認する様に、こちらへ近づいてきた。
「あなた....本当に亜蓮さんなんですか?....いくらここが不思議な世界だとしても...死んだはずの人間が現れるはずない....!」
先程は、小屋の亜蓮を見るなり驚愕した表情を顕にした妹だったが...こんな突拍子もない状況、信じろというのが困難な話だ。俺も...現実であって欲しいが、まだ完全に信じる事は出来ない。怪訝をむき出しにして、妹は亜蓮に問いただす。すると彼女は、諭すようにこう言った。
「江舞ちゃん。...確かに私は死んだわ。だけど.......”転生”って....知ってる?」
「転生......よくファンタジーとかに出てくる...死んだら別の世界で生き返ったって奴か?」
そういう類のラノベを結構読んでいた俺は、転生という言葉に反応した。.....待てよ....?まさか亜蓮が....
「亜蓮さんが....その”転生”をした.....ってことなんですか!?」
「そうよ。私は死んだ後、この世界に生まれ変わったの。前世の記憶を引き継ぎながらね」
「そんな.....!待てよ亜蓮!お前が死んだのは三年前だぞ!?....生まれ変わったのがその直後だとしたら、どうしてお前はそこまで成長しているんだ!?」
「言ったでしょ?...この世界は物理的法則や”時間の概念”も、元の世界とは違うって。つまり、レン君達の三年間は....この世界ではおよそ”20年分”って事。」
「....そ、そんな無茶な話.....!」
しかし、こうして目の前に現実を突きつけられている以上、こいつが”生まれ変わった”亜蓮だと...そう信じざるを得ない。...こんな不可思議な再会を果たすなんて...
「私は信じられません!そんな...転生とか時間の概念とか....!あり得るはずがない!」
「........江舞ちゃんがそう思うなら...勝手にそう思ってくれていいわ。....だって....」
次の瞬間、亜蓮の表情が豹変する。まるで殺気を顔全体に貼り付けたような...恐ろしい笑みを浮かべて、妹の目の前まで近づき、冷たい声で言った。
「私が呼んだのは.....レン君だけのはずだもの......」
「ひっ....!な、何...言って....!?」
「お、おい亜蓮!?お前...さっきから様子がおかしいぞ!?....前はそんな奴じゃなかったはずだぞ!?」
まさか...転生して、姿形は同じように成長しても、性格は変わってしまったという事か?
...俺の言葉を聴き、亜蓮は今度は俺に近づき、同じような声色で言う。
「あなたは私をどれくらい知ってた?...どれくらい知ろうとしてくれたの?....私は昔からレン君の傍にいて、レン君の全てを見て、そして知ってきた。私が知らないレン君はどこにもいない。...だけど、あなたはそれと同じくらい...私の傍にいて、私の全てを見てくれた?」
「どう....したんだよ....亜蓮...!?」
亜蓮は、何故か次第に涙を浮かべ...俺の胸元を両手で掴んできた。まるで懇願するように。
「私はレン君に似合う人間になろうと努力してきたの。いつも明るくて...元気で...そしてレン君が困ってる時はいつでも救けに来て。だから死んだ後、ここに転生してからもずっと...私はレン君を待ち続けて、またレン君と会えたら同じように接しようと思ってた。....だけど、何で?何で江舞ちゃんまでいるの?私が呼んだのはレン君だけなのに.....ここに”召喚”したのは...レン君だけなのに!!!」
「”召喚”!?何だよそれ!....聞いてないぞ!?」
この世界に来たのは、あのおかしなメールを開いたからだと思っていたが...違うと言うのか!?
クソ....訳が分からない...!とにかく、ここは亜蓮を落ち着かせて、この世界について洗いざらい聞き出すしかない。
「亜蓮!...一旦落ち着いてくれ!....妹は偶然俺と一緒に連れてこられただけなんだ!...そしてその”召喚”ってのは一体何なんだ?...お前がそれを使って..俺を呼び出したのか!?」
「............そうよ。....何年も何年も待ち続けて....それでも来てくれないから....私から呼び出したのよ.....!」
「亜蓮さん...一体この世界には、どれだけ元の世界と違う常識があるんですか!?...教えて下さい!」
「黙れクソアマ。捻り潰すぞ」
「さっきから私の扱い凄まじいほど酷くなってませんか亜蓮さん!!?」
...どれだけ俺の妹が気に入らないんだこいつは...!昔は結構仲良く話していた記憶があるのだが....。いや、さっき亜蓮が言っていた通りなら...”妹に優しい亜蓮”も、彼女が作り出した偽物の自分なのか?..なぜそうまでして俺に合わせようとしてくれていたのか....答えは全く出ない。あんなに地味で陰気だった俺を、そこまで気遣う理由が。
「と、とりあえず亜蓮。一回小屋の中に入れてもらっていいか?そこでゆっくり話そう」
「....うん...分かった。..入っていいよレン君」
亜蓮は涙を拭いながら小屋へと入る。それに俺も続いたが...妹が入ろうとした瞬間、亜蓮は音速の如きスピードで扉を閉めた。外に締め出された妹に、彼女は嘲笑するように言う。
「...テメェは崖から落ちて死ね。私のレン君に1ミクロも近づくな」
「.......いっそ殺してえええぇぇぇぇぇええええ!!!!!」
妹の悲痛な叫びが、虚しく外界に響き渡った。