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美髪な彼女  作者: 真咲静
異世界生活だよ
5/6

2-2

「ハツハ様。ご無沙汰しております。ミミさん。こちらが薬師第一位のハツハ様。ハツハ様、こちらがロージオン様に新たに側付きになった美々さんです」


 イグノスが互いを紹介するとハツハと美々は握手を交わした。


「ミミです。お世話になります」


「ハツハです。お話は聞いています。製薬を仕事となさっていたとか」


「えぇ。まだかけ出しでしたが仕事をさせてもらっていました」


「こちらの技術とどう違うかは分かりませんが、まずは案内からいたしましょうか。イグノス、ここからは私が」


「では、本日の退勤時間に迎えに参ります。ですが、何かが起きると事ですので、ミミさん付の護衛兵を一人つけさせていただきますが、よろしいでしょうか」


「かまいませんよ」


「では、ミミさん。頑張ってくださいね」


「はい。イグノスさん」


 簡単に紹介を終わらせてイグノスは去る。

 美々はよしと口に出さずに気合を入れると、ハツハの仕事の説明に耳を傾けたのだった。




 こうして、美々はハツハの管理下、薬師塔に詰めることになったのだが、現代日本の研究室とこの世界の薬剤研究は基本の基本は一緒だが、まだまだ日本の最新鋭の研究室とまではいかない。

 基本、基本と毎日、学生時代の実験の仕方を思い出す日々のスタートでもあった。


「ミミさん、これは」


「あ、それですか? 痛み止めに止血剤に化膿止めを混ぜて丸薬にしてみたんですけど、壊滅的な味で、効果はイイけど、使えないと医師塔から戻ってきたんです」


 美々の隣のブースの人物が帰ってきて、美々の手元を覗き込み尋ねた。

 隣のブースの人物はハツハに次ぐ技量の持ち主で、美々の指導役を任命されたのだが、ハツハやこの人物が思うよりも高い実力を早々に見せた美々は幾日もしないうちに人をお役御免にした。

 名前をリコベルと言う。ボサボサ頭に無精髭が特徴の男だった。

 一位のハツハがエリートの鏡のようなら、この男は何かと紙一重に近い天才だった。リコベルが世に出した薬は多い。


「そんなにすごいの?」


 そんな男も注目するのが現在の美々だ。


「気絶している人すら目覚める不味さらしいです」


「それはすごいね」


 気絶している人間すら起こすとはどんな味なのだろうか。考えるだけでリコベルの全身に鳥肌が立つ。


「ただ、効果は良いらしいので、味を何とかしてみようかと思いまして」


「すごいなぁミミさんは。ここに来て一か月だけど、もう医師塔に持っていけるだけの薬が作れるなんて。ハツハ様の審査、厳しいんだよ?」


「リコさん、何をおっしゃるやらですよ。ハツハ様の審査に一番通るのはリコさんじゃないですか」


「いやいや、最近だとミミさんに負けそうだよ? で、それは何を入れてるの?」


「エラージの蜜を入れて、成分と味の調整が付くかなって思いまして。止血剤にハデーナの実を使っているんですが、ハデーナとホルルンの葉の相性が悪くてまずくなるのではないかと」


「なるほどね。でもね。今までの薬でもその二つは混ぜていたと思うよ。エラージとホルルンだと薬効が落ちない?」


「いえ、ハデーナとホルルンは確かに混ぜている調剤方法はあるのですが、その時に使うブブスカで味もまぁ飲めるものになるのですが、若干の薬効が落ちているようなのです。で、考えたのが、ハデーナとホルルンにブブスカではなく、ホデルリラ(化膿止め)なんですが」


「薬効は?」


「ブブスカより効き目はいいですね」

「ただ味かぁ」


「味なんです」


 薬バカの議論は白熱していくばかりで、いっこうに終わりを見せない。

 毎日のことながら、この二人、ないし時に数人に増えて行われる議論を止めるのは勇気のいる行為だった。


「ミミさん。そろそろお時間なんですが……」


 今日の護衛のイオトがそぉっと声をかける。

 まさに盛り上がっているところ空気を読まずに声をかけてスミマセンだ。


「あ、すみません。えっと、今夜はアビゲイルさんと夕食をご一緒する予定でした。えっと、少し待っていてくださいね。丸薬だけ作ってしまいます」


「手伝うよ。実験もしとく?」


「いえ、それは明日にでもしようかと思います。リコさんも何日自分の部屋に戻っていらっしゃらないんですか? 今日ぐらい早めに就寝しましょうよ。なんか凄い顔になっていますから」


「そんなに酷い?」


「えぇ。浮浪者並みですよ」


「じゃあ、僕もミミさんの終わったら帰ろ」


「それがいいです。あ、リコさん、もう少しゆっくり入れてください」


「ん。わかった」


 調剤バカ二人を前にイオトはただ見ているしかできなかった。





「あれ? ソムロスさんも一緒ですか?」


「そうなのよ。この子、一緒に食べるって聞かなくってね。さぁさ、食べましょう」


 食堂で美々を待っていたのはアビゲイルだけではなかった。

 この離宮の侍従長も美々を待っていた。満面の笑みで。


「今日は遅くなってすみませんでした」


「まぁ、お仕事をキリまでって、大変よね。ハツハ様は厳しい方ですし」


 謝罪する美々にアビゲイルは苦笑した。


「いえ、ハツハ様のような方が元の世界でも上司でしたので、そこはあまり気にならないのですが」


「ですが?」


 アビゲイルはそれは難儀なと言う顔になった後、妙な所で区切った美々に小首をかしげる。


「なんと言うか、ものすごく見られてるんですよ。視線的には羨望ですね。髪の毛を皆さん、見ていらっしゃって気になるんです」


 美々は垂らされた後れ毛を一掬いする。黒々としていて艶やか。見ただけでもしっとりと触り心地が良さそうだ。


「そんなの決まってるじゃないの。ミミちゃんの髪、とっても綺麗なのよ。色、艶の次元が違うって言う」


「何か特別なお手入れをされているのでしょうか。僕たち侍従や女官。特に側付きの者はミミさんのお手入れを知りたいと思っていますよ」


 二人が今までとは違う食いつきを見せた。

 確かに今までアビゲイルや他の女官達に髪をいじらせてほしいと願われることは多かったし、髪を見つめる女性も本当に多いのだ。


「この世界での入念なお手入れとさほど変わりませんよ」


 ただし自分なりに配合を変えているが。


「本当ですか? あまりに見事な髪に見惚れてしまいます」


 ソムロスがうっとりと見つめている。


「一応、私にあった配合には変えてあるんですよ。殿下の髪質に合わせて少し配合を見てみましょうか?」


「ミミさん、お願いできますか?」


 ロージオンの見た目管理は自分の仕事。己の仕事に誇りを多大に持つソムロスにとって、美々の一言は願ったりだ。男にしてはロージオンの髪は手入れがされている方ではあるが、美々の髪の毛の美しさにソムロスは更に上があると学んだ。この都にいるどの女性よりも美しいとソムロスは美々の髪を見て思っている。


「えぇ。ソムロスさん。かまいません」


 美々にとっては何の手間でもない。


「ミミちゃん。それは会ったことのある人なら、配合できるものなの?」


「いえ。会わない人でも一週間の食べたもののリストと髪、それと手入れに使っているものが一房ありましたら出来ますよ。ですが、手入れしている人の聞き取りはしたいですね。ところでアビゲイルさんの髪の毛先が最近荒れ気味なのが気になっているんですが、配合を任せてもらってもいいですか?」


「あら、嬉しい。最近、櫛の通りが悪かったの。助かるわ」


「後で聞き取りと診断をさせてくださいね」


「えぇ。いいわ。ご飯が終わったら、私の部屋に来てもらえるかしら」


「はい」


「ハツハ様の所には先に届け出しておくから、明日、午前のお茶の時間にロージオン様の執務室に来てもらえるかな」


「はい。では、ロージオン様の髪に使われているものを全て用意していただけますか」


「わかりました。お待ちしてます」


 食事をしながら美々の予定を押さえたソムロスは愛嬌たっぷりに耳にウインクを放つ。それをアビゲイルは困ったな子ねと呆れる様に、美々はしょうがない人ですねと言うかのような笑みを浮かべる。

 その後も和気藹々と三人は食事を続け、ソムロスはその間、度々に二人から生暖かい目で見られつつも、美々を口説いていた。

 アビゲイルと美々は食事後、アビゲイルの部屋へと向かうため、ソムロスに就寝の挨拶をするとソムロスは美々の手を取り、腰を引き寄せた。


「ミミさん。明日お待ちしてますから。今日は明日を待ちわびて寂しい夜を過ごします」


「ソムロスさん。いつまで待たれてもダメですからね」


「ソムロスもしつこいわね」


「ミミさんは私の理想なんですから、口説かずにはいられないのです」


「ソムロスさん、おやすみなさい。また明日」


「えぇ。明日」


 別れ際は毎度のこと情愛と悲哀たっぷりで、美々は二人に見えない様にため息をこぼしたのだった。


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