S
いつも、眺めているだけだった。
ボールを追いかける君の姿。授業でふざける君の姿。はしゃいで帰っていく、君の姿。
「綺麗だな」
そう言われても、どうしようもなく悲しい気分になった。どれだけ言われても、悲しかった。
この思いは、届かないから。
届かないまま、この日を迎えた。
「もう卒業かー」
友達に囲まれている君。
そうだね。いつも人気者で。みんなのリーダーで。先頭に立っていくような、そんな人だったからね。
「どこ行くの?」
女の子に聞かれて君が答えたのは、有名な名門学校の名前だった。周りで歓声があがる。
頭もよかったね。サッカーでもゴールを決める度に歓声が上がってたっけ。
「写真撮ろーぜ!」
私の目の前まで来た君は、卒業前と何も変わっていない。
でも多分、中身はぐんと大きくなったんだ。
「はい、チーズ!」
前にいる君が眩しいのは、カメラのフラッシュのせいではないはずだ。
卒業証書を筒の中に入れて持っている君は、綺麗な横顔をしていた。
いつもこの顔に憧れて。いつも目だけで追いかけて。
話すことも出来ない。笑いかけることも出来ない。
そんなまま、三年が終わってしまうんだ。
もう、離れてしまう。
そんなのは、嫌だ。
「綺麗だ」
君が私を見上げて、そう言った。
一瞬だけ、目が合った。
これから先、君がどんなことでも乗り越えていけますように。
二度と会えなくなるけど、最後に。君を思ってたんだよっていう証のように。
「……あ」
君が気付いたようだ。
私を見上げた。
「……桜の……花びらが」
風の向きを見て、計算して、飛ばした。
花びらは計算通り、君の肩に落ちた。
「…………」
無言で私を見上げる君。
私はそっと、もう一枚落とした。
君が幸せに、ずっと笑っていられますように。
「……ありがとう」
君の口が、そう動いた。
私は走っていく君を見送った。
いつでも、困ったら戻っておいでよ。
泣きそうになったら思いだして。それだけでいい。
私は、ここにいるから。
ありがとうございました!
題名の「S」が何の「S」なのか分かっていただけたでしょうか……?