就活・無気力・交通事故
20XX年春。
「あーあ。大学4年生かー実感ねぇな。」
葉は無気力に溜息をついた。
ここはこの国の首都、光京。この国は十年ほど前、政府の弱腰外交で敵対する国に付け込まれ、ミサイルをぶち込まれて国家崩壊まで行きかけたが、なんとか持ち直し、その後急速に成長し、現在では世界に強い権限を持つ国家だ。
そんなことで今のこの国は安全で豊かな暮らしが送れる。そしてその首都である光京は世界一の最先端技術が至る所に見受けられ、世界各国では「未来の都市」と呼ばれている。
大学4年生4月。すでにバリバリ就職活動すべき時期だ。しかし葉は殆どといっていいほどに何もしていない。
「就職をしないといけない時期が来ちまったんだなー。んあぁー」
着なれないスーツで俯きながらとぼとぼ歩く。
ドンッ
「んあっスイマセ・・・おおっ!」
葉が顔を上げると目の前にはスタイル抜群の女性が。
「ちゃんと前見ないとダメでしょー。そんなんじゃ就活成功しないわよー」
「うっ、ハイ。え?てかなんで、、、」
「そりゃあその似合わないスーツ姿見ればわかるわよー」
「…俺のスーツ姿が似合わないのは認めるけど、あんたのカッコウも間違ってるだろ、、、まだ春だってのに真夏かよ」
葉は小声で彼女の大胆な露出の服装をツッコむ。
「何か言ったー?」
聞こえていたのだろう。わざとらしく豊満な胸の谷間を押しつけるように言い寄る。
「んあっ!いっいえいえ!じゃ、じゃあ僕は。」
逃げるように歩き始める。
「はーい。がぁんばってねー」
「エラい目にあったぜ。あんな服装でSとか・・・イイな。」
葉はバッチリ目に焼き付けた豊満な胸を思い出しながら歩いていると、たった数歩で今度は後ろから走ってきた子どもとぶつかった。
「オイこら!ぶつかってんぞ」
子どもは葉の注意なんかには耳も貸さず、公園に入って行った。
「ボクはそんなに肩幅広いかね。」
「大丈夫。あなたは細身よー頼りないくらいにねーフフッ。」
独り言のつもりだったツッコみが豊満S女に聞かれていたらしい。
「あ、アハハハ。。。」
振り向いて頭を掻きながら空笑いをする葉。視線を進行方向に戻そうとすると、ぶつかってきた少年の入っていった公園のグラウンドが目に入った
公園には無邪気に遊ぶ子どもたち。グラウンドでは野球をやっている。
「オーライオーライ」
上がったフライを外野手の子が捕球する。こんなに車通りのある都市の公園だが、すごく細く、ちょっとやそっとの力では切れることのないネットが高くかかっているこの公園は場外ホームランで車直撃ってこともない。子供がネットに衝突しても、やわらかく跳ね返る。このネットの素材はこの国でしか作れないらしい。その他にも走りながら勢いよく公園から出ようとすると足場がランニングマシーンのように動きだしたり、危険な動きをしたら警告する監視カメラなど、安全管理は万全だ。監視カメラに関しては公園だけでなく街の至る所に設置されており、「光京の街の中の97.5%はカメラが見ている」と言われている。
カメラは監視するだけではない。
「現在午前9時7分、鷹瀧記念公園前。トコロヨウサンノ歩行速度デ9時30分ニ目的地点ニ到着スルニハ若干遅レテイマス。通常ヨリ早メニ歩イテ下サイ。」
葉の腕時計が振動しながらしゃべる。腕時計に入ったICチップを監視カメラが認知し、必要な情報を腕時計が伝えてくれる。因みに時間に追われないのんびり無気力生活を送っていた葉はこの腕時計を使うのはほとんど初めてといっていいほどだ。
「んあっマズいっ。急がねぇと。」
子ども時代に戻りたいと思いながらボーッと野球少年を眺めてしまった時間を取り戻すべく、早足で歩きだす。
「何だって祝日に面接なんだし。平日だろフツーに。願わくばお昼頃にして欲しかっ…あ」
公園の野球少年が打ったファールボールが遊具に跳ね返って公園から出てしまった。
バウンドしながら道路に出たボールをまだ小学生にもなっていないような小さな女の子が興味津津に見ている。そして次の瞬間、ボールを追いかけ道路に出てしまった。そこに車が走ってきた。
「!!!」
その子のお母さんは別のお母さんと喋っていて気付いていない。気付いている通行人も数人いるが、誰も助けに行けるような距離にいない。
ボールを捕まえて満面の笑みを浮かべる少女。車はフルブレーキだが到底止まれるような距離じゃない。
「くっ。吹っ飛べ!」
「キキーーー!ドンッ」
大きなブレーキ音と車と「何か」が強くぶつかる音。
「りかっ!りかー!」
気付いたあの少女のお母さんがあの少女の名前を呼ぶ。ぶつかる直前に両手で目を塞いだ葉の隣にたまたま居合わせた高校生ぐらいの女の子がその場で泣き崩れる。
「あらら。泣き出しちゃったよ。けど、、、」
「うわーぁん!」
向かい側の歩道の成人男性が抱えた少女が泣きだす。つい数秒前に止まり切れない車の目前にいたあの少女だ。
「りかーーー」
お母さんが走って少女のもとへ向かう。車のフロントガラスにぶつかったボールが10メートルほど先でバウンドしている。
「ありがとうございます!ほんとにありがとうございます!!」
「いや、私はぶつかる瞬間目をつぶって、開いたら目の前に…」
「なんとお礼したらいいか、、、ほんとにありがとうございます!」
パニック状態のお母さんには男性の言葉は聞こえていないようだ。
「ですから何も…」
パチパチパチ
「んあー素晴らしい!ボクは見ていましたよ。車にぶつかってフッ飛んだ少女をうまくキャッチしたあなたを。奇跡的に当たり所が良かったことと、あなたのナイスキャッチが少女の命を救ったんですよ!素晴らしい!」
葉は拍手と大きな声で褒め称えた。周りにいた数人の通行人も拍手する。泣き崩れていた女の子も、状況を把握するのに数秒要したが、理解すると立ち上がって男性に向かって大きな拍手をしながら「ありがとう!」と繰り返し叫んでいる。声を裏返っても繰り返し叫ぶ。涙は止まるどころか拍車がかかっているようにも感じる。
「うれし涙、か。しかしあそこまでの風力を俺が…」
葉は自分の右手を まじまじと見つめながら思う。
「もしかしたら気付いていた通行人の中にAPが、、、そうなるとあの中だと泣き虫女の子しか該当しないっぽい感じだけど・・・ん?んあっイタっ!」
「現在午前9時15分、鷹瀧記念公園前。トコロヨウサンノ歩行速度デ9時30分ニ目的地点ニ到着スルニハ大変遅レテイマス。走ッテ目的地点ニ向カッテ下サイ。」
緊急性が高まると弱い電気が流れるようになっている高機能腕時計。これもこの国の技術力の賜物だ。
「はいはいわかってますよ。ついでに今日の企業の採用期待度を算出してくれませんかねーナビ付き高機能腕時計さんよー。」
走りながら腕時計のボタンを適当に押す。
「今日ノ、トコロヨウサンノ運勢ハ、残念ナガラ最下位デス。今日ハ家デ大人シクシテ…」
最後まで聞かずにストップボタンを押す。
「どこまでも高機能だぜ・・・。やかましいぐらいに。」
緊急事態と認知した監視カメラのすぐ下に付いているスピーカーから警告が流れている。
「緊急事態デス。安全ヲ確保シタ後、デキルダケ動カズニ警察ノ到着ヲ待ッテクダサイ。」
「待ってたら次はどんな腕時計の攻撃が来るかわかったもんじゃねぇよ。だいたい事故の瞬間、パっと見た感じみんな目そらしてるか気づいてなかったから、警察もラッキーでしたねーで終了だろ。今となっては平和ボケ組織だからな。単なる交通事故で国安軍までは上がらんだろ」
未だ拍手がやまない鷹滝記念公園前を駆け足であとにする。
「今のは…アビリティ?そんなはずはないのに…あれ?彼がいない!」
○○○○○○○○○○○○○○○○
「ちょっと不自然のように見えるけど、この女性の証言通り、当たり所がよかったんだろう。けが人も車の破損もないし、この件は一件落着だ。」
「そうみたいですねーお疲れ様ですっ警官サン」
「きっ君も少し服装を慎まないと暴漢に遭うよ」
「こんな頼もしい警官さんがいれば大丈夫ですよー」
「・・・とにかく私は交番に戻りますので」
「はぁーい」
1時間後の鷹滝記念公園前はほとんど葉の予想通りだった。ラッキーでは済まないような不自然を事なかれ主義で収束させていたのだ。国防部隊どころか事故としても扱われなかった。どうやらそれは彼女がうまく警官をはぐらかした影響も大きいようだ。これは葉の予想し得なかったこと。
まさかあの場に国防隊隊員が居合わせていたとは…
ご覧頂きありがとうございます。
「小説かいてみたいなー」なんて軽く思いついて何も知らず妄想を打ちこんでいます。しかも国語は一切できなかった上に小説もほとんど読みません。。。
なんで、小説投稿にあたってのタブーや、言葉の使い方間違ってるよーなど教えて頂けると嬉しいです。