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追放された悪役令嬢ですが、辺境の港町で気ままなレストランを始めたら、最高の仲間と恋を手に入れて国まで救っちゃいました  作者: 緋村ルナ


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第8章 忍び寄る食糧危機とみんなのカレー

 ジェラルドが王都へ帰ってから数ヶ月後。王国を揺るがす、深刻なニュースが飛び込んできた。

 全国的な異常気象による、小麦の大不作。

 パンを主食とするこの国にとって、それは致命的な事態だった。王都ではパンの価格が日に日に高騰し、民衆の食卓からその姿を消しつつあった。当然、不満は王家へと向けられる。しかし、ユリウスとエリナは「聖女の祈りで天候を回復させる」などと非現実的なことを言うばかりで、何の有効な手も打てずにいた。


 ポルト・ノーヴォも、その影響と無縁ではいられなかった。小麦粉の価格が上がり、私の店でもパンを出すのが難しくなってきた。町の人々の顔にも、将来への不安の色が濃く浮かび始めている。


「どうしよう、ロザ姉……。このままだと、みんなお腹を空かせちゃうよ」

 レオが心配そうに呟く。

「大丈夫よ、レオ。パンがないなら、別のものを食べればいいの」

 私の頭には、前世の記憶から、こんな時にこそ役立つ最強のメニューが浮かんでいた。それは、小麦粉を使わず、比較的安価で備蓄の効く米や芋を主食にできる料理。そして、様々なスパイスが食欲を増進させ、栄養も満点の一皿。

 そう、「カレーライス」だ。


 幸い、カインの商会ルートを使えば、様々な種類のスパイスを手に入れることができた。クミン、コリアンダー、ターメリック、カルダモン……。私はそれらを独自の配合でブレンドし、香ばしく炒める。そこに、たっぷりの飴色玉ねぎと、ニンニク、ショウガを加えて香りを引き出し、トマトで酸味と旨味をプラス。この世界で手に入る芋や人参、そして安価な豚肉をゴロゴロと入れて、じっくりと煮込んでいく。


 やがて、『迷い猫のキッチン』の店内は、これまで誰も嗅いだことのない、複雑で、深く、そして猛烈に食欲をそそるスパイシーな香りで満たされた。

「な、なんだこの匂いは!?」

 店の前を通りかかった人々が、その未知の香りに誘われて集まってくる。


 私は、炊き立ての真っ白な米の上に、その褐色に輝くソースをたっぷりととかけた。

「新作、『みんなのカレーライス』です。安くて、栄養があって、お腹いっぱいになりますよ!」

 最初に口にしたのは、常連の漁師たちだった。

「辛っ! ……けど、うめぇ!!」

 一口目のスパイシーな刺激の後から、野菜の甘みと肉の旨味が波のように押し寄せてくる。複雑なスパイスの風味が、今まで経験したことのない味覚の世界へと彼らを誘う。そして何より、このスパイシーなルーが、米と驚くほど合う。


「なんだこりゃ、飯がいくらでも食えるぞ!」

「体がポカポカしてきた!」

 カレーライスは、瞬く間に大評判となった。安価で腹持ちが良く、何より美味しい。パンがなくても、米と芋さえあれば作れるこの料理は、食糧危機に喘ぐポルト・ノーヴォの救世主となった。不安に沈んでいた人々の顔に、カレーを頬張る笑顔が戻っていく。


 カインは、この状況を冷静に分析していた。

「ロザリンド。君はまた、奇跡を起こしたな。このカレーライスは、ただの料理じゃない。社会不安を鎮める力がある。俺は、王都の小麦不作の情報を掴んだ時から、芋と米を大量に買い付けてある。この町の人間が、飢えることはない」

 彼の先見の明に、私は改めて感嘆した。

「ありがとう、カイン。あなたのおかげよ」

「礼を言うのはまだ早い。……おそらく、近いうちに王都から『客』が来るぞ。愚かで、プライドだけが高い、厄介な客がな」


 カインの予言は、いつも正しい。

 私は、来るべき時に備え、静かに覚悟を決める。私の料理が、ただこの町の人々を笑顔にするだけでは済まない段階に来てしまったことを、肌で感じていた。

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