番外編3 不器用なサプライズ・オムライス
今日は、ロザリンドの誕生日だ。
普段はクールで、仕事のことしか頭にないように見えるカインだが、この日ばかりは朝からそわそわと落ち着かなかった。彼は数日前から、ある壮大な計画を立てていたのだ。それは、ロザリンドのために、自らがキッチンに立って料理を作るという、彼にとっては人生最大級のサプライズだった。
彼はレオに頼み込んで、こっそりと店の厨房を借りた。
作るメニューは、もちろん決まっている。自分が初めてロザリンドの才能を認め、彼女に興味を持つきっかけになった、あの「オムライス」だ。
「いいですか、カインさん。まずフライパンをよく熱して……」
レオ先生の指導のもと、カインの奮闘が始まった。しかし、普段ペンと帳簿しか持たない彼にとって、包丁やフライパンは未知の武器に等しい。
玉ねぎを切れば涙が止まらず、チキンライスを炒めれば米粒がコンロの周りに飛び散る。
「あちっ!」
そして、最大の難関は卵だった。ふわとろの半熟卵を作ろうとするが、火加減が分からずに焦がしてしまったり、逆に生すぎたり。何度も失敗を繰り返し、彼のプライドはズタズタになりかけていた。
「くそっ……! なぜだ……!」
頭を抱えるカインに、レオが笑いながら言う。
「カインさん、ロザリンドさんは、きっと完璧なオムライスじゃなくても喜びますよ。大事なのは、カインさんが作ってくれたってことです」
レオの言葉に、カインははっとした。そうだ、自分は格好つけようとしすぎていた。
彼は深呼吸をすると、最後の卵をフライパンに割り入れた。心を込めて、ただ、ロザリンドの喜ぶ顔だけを想って。
その夜。ロザリンドが家に帰ると、食卓には一皿のオムライスが置かれていた。
卵は少し破れているし、形もいびつだ。でも、そこには見慣れたエプロンをつけたカインが、指に絆創膏を貼りながら、照れくさそうに立っていた。
「……誕生日、おめでとう。ロザリンド」
その瞬間、ロザリンドの目から、大粒の涙が溢れ出した。
彼女は、その少し不格好なオムライスを一口食べた。
「……おいしい」
味は、自分が作るものには遠く及ばないかもしれない。けれど。
「世界で一番、美味しいオムライスだわ……!」
どんな高級レストランのフルコースよりも、どんな宝石よりも、心のこもった手料理が、最高のプレゼント。
ロザリンドは、涙と笑顔でぐちゃぐちゃになりながら、不器用なサプライズを、一口一口、大切に味わうのだった。




