番外編2 レオの心づくしのスープ
レオは、最近ずっと悩んでいた。
ロザリンドは、今や王国の食文化を牽引する大人物だ。夫であるカインと共に、毎日忙しく飛び回っている。そんな二人、特に自分を拾って育ててくれたロザリンドに、何か恩返しができないだろうか。
そうだ、とレオは思い立った。料理人である自分にできることは、ただ一つ。最高の料理で、彼女を驚かせることだ。
レオは、店の営業が終わった後、一人厨房に残って試作を繰り返した。作りたいものは決まっている。自分がロザリンドと初めて出会った日、あの廃屋の前でご馳走になった、温かいスープ。あの味が、レオの人生を変えたのだから。
ロザリンドが教えてくれたレシピを基本に、自分なりのアレンジを加えていく。
ポルト・ノーヴォの特産であるジャガイモは、一度蒸してから潰して、クリーミーな舌触りに。干し肉だけでなく、港で手に入れたベーコンをカリカリに焼いて、食感と香りのアクセントにする。スープのベースには、鶏ガラをじっくり煮込んだ出汁を加えた。
「うーん、何か足りない……」
味は悪くない。けれど、あの時感じたような、心にじんわりと染み渡るような感動がない。
レオは何度も失敗し、何度も首をひねった。
その時、ふとロザリンドの言葉を思い出した。
『料理で一番大事なスパイスはね、レオ。美味しくなあれ、って思う心よ』
そうだ、心が足りなかったんだ。
レオは目を閉じ、ロザリンドへの感謝の気持ちを思い浮かべた。拾ってくれたこと。料理を教えてくれたこと。家族になってくれたこと。ありがとう。本当に、ありがとう。
その気持ちを全部、目の前の鍋に注ぎ込むように、彼はもう一度丁寧にスープを温め直した。
翌日、レオは少し緊張した面持ちで、ロザリンドとカインの前にスープを差し出した。
「え、これは?」
「俺からの、日頃の感謝の気持ち、です!」
ロザリンドは驚きながらも、嬉しそうにスプーンを口に運んだ。
その瞬間、彼女の目が優しく細められる。
「……美味しい。レオ。すごく、美味しいわ……。あの日のスープの味がする。でも、それよりもっと、ずっと優しくて、温かい味がする」
それは、レオの心が込められた、世界でたった一つのスープ。
ロザリンドの頬を、一筋の涙が伝った。それは、どんな高価なプレゼントよりも嬉しい、一番弟子からの最高の贈り物だった。




