第11章 偽りの栄光、最後の晩餐
民衆の心を完全に掴んだ私を、ユリウスとエリナが黙って見ているはずがなかった。
彼らは私の手柄を横取りし、自分たちの権威を回復しようと、浅はかな計画を立てた。国王陛下と有力貴族たちを招いた晩餐会を開き、そこで「聖女エリナの祈りの力によって、食糧危機は去った」と宣言するつもりなのだ。そして、その席で私を「王都の秩序を乱した罪人」として再び断罪しようという魂胆らしい。
カインがその情報を掴み、私に教えてくれた時、私はただ呆れて笑うしかなかった。
「……彼らは、本当に何も学ばないのですね」
「ああ。だが、ちょうどいい。ここで全てにケリをつけよう。奴らのための『最後の晩餐』を、君が用意してやれ」
カインの銀色の瞳が、冷たく光る。彼の手には、分厚い帳簿の束が握られていた。
晩餐会当日。王宮の大広間は、かつての私の断罪劇の時と同じように、きらびやかに装飾されていた。
玉座の横で、ユリウスが誇らしげに宣言する。
「皆の者、聞くがよい! 聖女エリナの懸命な祈りが天に届き、我が国を襲った危機は去ったのだ!」
それに合わせて、エリナが慈愛に満ちた(ように見える)笑みを浮かべ、その手からふわりと柔らかな光を放つ。貴族たちから「おお……」と感嘆の声が漏れた。初歩的な光魔法。ただ人を幻惑するだけの、子供だましのトリックだ。
「そして、この場に、王都の民を扇動し、秩序を乱した者を呼んである! 入れ!」
ユリウスの合図で、私が広間へと招き入れられる。
全ての視線が私に突き刺さる。しかし、今回は嘲笑ではなく、好奇と、そして一部には同情の色が混じっていた。
「ロザリンド・フォン・ルクス! 貴様は追放の身でありながら、勝手に王都に戻り、炊き出しなどというパフォーマンスで民を惑わせた! その罪、万死に値す――」
「お待ちください、ユリウス殿下」
彼の言葉を遮ったのは、私ではなかった。会場の後方から現れたカインだった。彼は臆することなく王の前まで進み出ると、手に持った帳簿の束を床に叩きつけた。
「これは、聖女エリナ様がこの一年間で購入されたドレスや宝石、その他贅沢品のリストと請求書です。その総額は、国家予算の実に5パーセントに上ります」
ざわ、と会場がどよめく。
「さらに、こちらが宮廷の食費に関する帳簿。ロザリンド様が管理されていた頃の三倍に膨れ上がりながら、その質は見るも無残。隣国との外交問題にまで発展したことは、皆様もご存知のはず」
カインは淡々と、しかし明瞭な声で事実を突きつけていく。
そして、彼は私に目配せした。今度は、私の番だ。
「皆様、私が王都で行ったのは、扇動などではありません。飢えた民に、安価な食材で栄養のある食事を提供し、その調理法を教えただけです。それを可能にしたのは、聖女様の祈りではなく、ポルト・ノーヴォの豊かな食材と、海猫商会の流通網です。ここに、全ての取引記録がございます」
私もまた、証拠となる書類を提出する。
「そ、そんなものは、でっち上げだ!」
ユリウスが叫ぶ。エリナは顔面蒼白になり、得意の泣き落としをしようとするが、もはや誰も彼女の涙に同情はしない。
「そして、エリナ様の『聖なる力』について」
私は最後に、決定的な一撃を放った。
「それは、魔力の素質がある者なら誰でも使える、初歩的な光魔法にすぎません。人を幻惑し、心地よくさせるだけの効果しかありません。作物を育てたり、天候を回復させたりするような、本物の『聖なる力』など、最初から存在しなかったのです」
私がその魔法の原理と構造を冷静に解説すると、会場はしんと静まり返った。国王陛下が、厳しい目でエリナを睨みつける。
全てが、暴露された。
ユリウスの愚かさ。エリナの偽り。
膝から崩れ落ち、うろたえる二人。貴族たちの視線は、もはや軽蔑と怒りに満ちていた。
華やかなはずの晩餐会は、彼らにとって、権威と栄光を失う「最後の晩餐」となった。皮肉にも、テーブルに並んだ豪華な料理には、誰一人として手をつけようとはしなかった。




