第10章 救国のキャラバンと本物の聖女
私とカインが組織した食料キャラバンは、壮観だった。
海猫商会の荷馬車が何十台も連なり、山と積まれた米袋、芋袋、そして樽詰めのスパイスや保存食が、王都へと向かう。道中、カインは持ち前の手際の良さで、全ての段取りを完璧に整えてくれた。
王都の門をくぐった瞬間、私たちはその惨状に息を呑んだ。
活気を失い、人々の顔は暗く、道端には力なく座り込む者たちが溢れている。ポルト・ノーヴォとの差は、あまりにも歴然としていた。
私は王宮には向かわず、まっすぐに王都の中央広場へと向かった。そして、持参した巨大な鍋をいくつも並べ、火をおこす。
「さあ、皆さん! 今から温かくて美味しいご飯を作りますからね!」
私の声に、最初は遠巻きに見ていた人々が、何事かと集まってきた。
キャラバン隊の者たちや、カインが手配してくれた人員が、手際よく米を研ぎ、野菜を切っていく。
広場に、カレーのあのスパイシーな香りが立ち上り始めると、人々のざわめきはさらに大きくなった。
「いい匂い……」
「なんだ? 何を作ってるんだ?」
やがて、大きな鍋いっぱいのカレーライスが完成した。私は、炊き立てのご飯と一緒に、それを集まってきた人々に配り始めた。もちろん、無料の炊き出しだ。
飢えていた人々は、最初は警戒しながらも、一口食べるとその表情を一変させた。
「うまい……!」
「あったかい……力が湧いてくるようだ……」
涙を流しながらカレーを頬張る子供。夢中でかきこむ老人。その光景に、私の胸は締め付けられるようだった。
炊き出しは、三日三晩続いた。私はただ料理を配るだけでなく、広場に集まった女性たちに、安価な食材で美味しい料理を作る方法を教えた。芋を使ったスープ、米を使ったリゾット風のお粥。前世の知識を総動員して、人々が自分たちの力で食いつなぐための知恵を授けた。
私の周りには、いつしか人だかりの輪ができていた。彼らは、私のことをこう呼び始めた。
「あの方こそ、本物の聖女様だ……」
「そうだ、祈るだけの聖女様なんかじゃない! 俺たちの腹を満たし、笑顔にしてくれる!」
その噂は、あっという間に王都中に広まった。
私の炊き出しは、ただ空腹を満たすだけではなかった。それは、絶望に沈んでいた人々の心に、希望の灯をともす行為だったのだ。人々は、豪華なドレスを着て王宮に籠もるエリナではなく、エプロン姿で自ら鍋をかき混ぜる私の姿に、真の「聖性」を見た。
カインは、その様子を少し離れた場所から静かに見守っていた。彼は炊き出しと並行して、商会の力で王都の食料流通ルートを再構築し、市場に米や芋を安定供給させ始めていた。私の「ソフト」の力と、彼の「ハード」の力が組み合わさって、王都の食糧危機は、急速に鎮静化へと向かっていった。
民衆からの圧倒的な支持。
それは、王宮に籠もる愚かな二人にとって、最大の脅威となるはずだった。




