表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された悪役令嬢ですが、辺境の港町で気ままなレストランを始めたら、最高の仲間と恋を手に入れて国まで救っちゃいました  作者: 緋村ルナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/17

第9章 愚かな皇太子の嘆願

 カインの予言通り、その「客」は唐突にやって来た。

 王家の紋章を掲げた、立派な馬車。そこから降りてきたのは、やつれた顔をした宰相補佐だった。彼は私の姿を認めると、信じられないものを見るような目でしばらく立ち尽くし、やがて深々と頭を下げた。


 王都の状況は、私が聞く以上に深刻化していた。

 小麦の在庫は底を突き、配給も滞り、ついに民衆の不満が爆発。王宮前では暴動寸前の事態が連日繰り広げられているという。聖女エリナの「祈り」は何の効果もなく、ユリウス殿下は貴族たちの突き上げと民衆の怒りの板挟みになり、心身ともに衰弱しきっているとのことだった。


 そんな八方塞がりの状況で、彼らが最後にたどり着いたのが、ポルト・ノーヴォの噂だった。

「辺境の港町は、食糧危機の影響もなく、活気に満ちている」

「そこには、追放されたはずの公爵令嬢がいて、未知の料理で町を救っている」

 かつて私を案じて訪れた騎士ジェラルドの報告が、今になって彼らの耳に届いたのだ。


 宰相補佐は、私に一通の書状を差し出した。それは、ユリウス殿下の直筆によるものだった。かつての傲慢な筆跡とは違う、弱々しく、乱れた文字で、こう綴られていた。

『ロザリンド。君の力を、この国のために貸してほしい。王都に戻り、この食糧危機を解決してはくれまいか』

 最後は、命令ではなく、懇願の言葉で締めくくられていた。


「……今更、都合の良い話ですこと」

 私は冷ややかに呟いた。あの日の断罪を、追放を、私は忘れたわけではない。あの男のために、動く義理などひとかけらもない。

 宰相補佐は、返す言葉もないのだろう。ただ、深く頭を垂れるだけだ。


「断ればいい」

 いつの間にか私の隣に立っていたカインが、低い声で言った。

「君が奴らに協力する義務はない。これは、奴らが自分で招いた事態だ。君はここで、俺たちと平和に暮らせばいい」

 彼の言葉は、とても甘美に響いた。そうだ、私にはもう、王都もユリウスも関係ない。この愛すべき『迷い猫のキッチン』が私の全てだ。


 しかし、私の脳裏に浮かんだのは、ユリウスの顔ではなかった。王都で飢えに苦しんでいるであろう、名もなき民衆の顔だった。子供たちの、お腹を空かせた顔だった。

 料理人として、美味しいもので人を笑顔にしたいと願う私にとって、飢えている人がいるという事実を見過ごすことは、何よりも辛いことだった。


「……カイン。私は行きます」

 私の決意に、カインは驚いた顔をしたが、すぐに何かを察したように頷いた。

「君らしいな。分かっていたさ」

「でも、ユリウス殿下のためじゃありません。苦しんでいる民のためです」

「当然だ。奴らのために、君の善意を安売りするな」


 私は宰相補佐に向き直り、きっぱりと告げた。

「嘆願、お受けいたします。ただし、条件があります」

「な、何なりと……!」

「私は王宮には戻りません。私の活動に関する一切の権限を、私に委譲していただきます。そして、必要な物資の調達は、全て私のビジネスパートナーである、こちらの海猫商会を通して行います」

 私はカインの腕を、ぐっと掴んだ。

「それから……これは、国王陛下への直接の願いとなります。今回の件が解決した暁には、私の身分を完全に解き放ち、一市民として、このポルト・ノーヴォで生きていく自由を認めていただきたい」


 私の予想外の条件に、宰相補佐は一瞬言葉を失ったが、すぐに「必ずや、陛下にお伝えいたします!」と力強く請け合った。

 こうして、私は王都へ向かうことになった。

 それは、かつての婚約者への復讐でも、ましてや愛情からでもない。ただ、一人の料理人として、空腹に苦しむ人々を救うため。

 私の背後には、カインという心強いパートナーと、ポルト・ノーヴォで買い付けておいた大量の芋と米、そしてスパイスがあった。救国のための、最大の武器を携えて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ