第2話
クラリッサが戻る1年前──。
オレーリア・ナイトローズ・セレニティ。
それが私の名前で転生したのだと気付いたのは王城を出て、15歳から入学する魔法学院に入ってすぐの頃だった。誰かに階段から突き落とされて、保健室で目を覚ましたときに様々な事を思い出した。
前世での名前こそ思い出せないものの、子どもの頃から魔法やら旅行が大好きだった。特に古代ルーン文字が魅力的で、北欧神話などに興味を持った私は留学しようと必死で勉強とバイトをして、語学はもちろん旅費を貯めて貯めまくった。
古代ルーン石碑はとりわけスウェーデンに残っているようで、そのことを調べている時もとても楽しかったのだ。だからこそ自分の魔力が高くて魔法を思う存分出来る環境に、前世の記憶を思い出した当初は浮かれていたのだ。
転生者として魔法のある世界は何もかも新鮮で、知識を得ることが楽しくて夢中になった。転生者のギフトとして、この世界の文字、語学の全てが日本語で表記されて読めるのだ。古代文字だろうと、神々の書物だろうと関係ない。その特性を生かして、私は保険をかけておいた。
万が一、アシュトンの心が3年経った今でも異母姉にあるのなら、この国を出ようと。
彼──侯爵家との繋がりを保つから末姫でなくてもいいのだ。私である必要性などない。
普通の王女ならここで心を病むんだろうけれど、転生者である私には前世での経験や知識があり、王宮以外での生き方に抵抗もない。
職があれば一人でも生きてはいけるし、魔法の研鑽を積んで自分の身を守る程度には強くなった。
(これならなんとかなる……はず)
***
異母姉のクラリッサが嫁いだこと、魔法学院内で実技とテストで上位をキープしたことで、何か言ってくる生徒はいなかった。私を階段から突き飛ばした生徒も特定して、退学になったことも大きいと思う。
末姫に手を出せば火傷では済まない、という刷り込みがうまくいったのだ。これらの結果を齎したのは、魔法学院で仲良くなったウォルトのおかげだ。
第十三王子ウォルト・ロゼスカーレット。
トリスイオーラ国からの留学生で、気の良い友人だ。
「いやあ、オレーリア。今日もご一緒しても?」
「どうせ拒否しても居座るでしょう」
「正解。だってオレーリアの考えは新鮮だし、発想力は馬鹿に出来ない。もし魔法学院を卒業して魔法関係の仕事に就きたいのなら、魔法塔に来ないか?」
「魔法塔……」
ウォルトは私と同い年で、王城から魔法学院に通っている。同じクラスの縁で何かと声をかけてくれている。
(私がぼっちにならないのも、彼のおかげなのよね。……感謝しかない)
彼は12歳の時に魔法塔推薦を獲得した逸材らしい。
褐色の肌に緋色の長い髪、長身で美しく整った顔立ちは芸術品のよう。そんな彼は魔法オタクで私がどんな文字でも読めると知って、魔法研究の協力を頼みに毎日のように声を掛けてきた。
私が翻訳作業をしているうちに、ウォルトは魔法学院内での諸々なことを対処してくれたようで、とても過ごしやすくなった。
(魔法塔……。響きだけで絶対に楽しいやつだわ!)
「年齢性別身分性格問わず、才能があれば魔法塔の保護下に入る。衣食住や職などの保証福利厚生なども手厚い。興味あるのなら僕が推薦を出してもいい。君が来てくれるのなら読んだことのない書物の翻訳をしてくれるので、研究が捗るし!」
「ウォルトの目的はそれか」
「当然。有能な人材は争奪戦だからね!」
こんな軽口が日常になっていた。だからウォルトの軽口に救われた部分が多い。王女である以上、今後も国のために身を粉にして働かなければならない。それこそ今以上に酷使されかねないと思っている。
(それならいっそ国を合法的に出ることも出来る。……そうなればアシュトン様とお別れになる)
アシュトン様と離れる。そう思うと胸が痛い。アシュトン様との関係はクラリッサがいなくなったことで、週に一度のお茶会や会う時間を捻出してくれるようになった。王城のガゼボでのお茶会だけで、どこかに出かけるなど誘われたことはない。
(でも、今年の誕生日ぐらいなら……ちょっと我が儘を言ってもいいよね)
その考えこそ間違いだった。
***
アシュトン様とのお茶会はガゼボで1時間だけ。週に一度は豪華なスイーツと質の良い紅茶を提供してくれる。私にとって唯一の楽しい時間でもあった。
15歳の誕生日まであと一ヵ月。今日こそはと、勇気を出してアシュトン様にお願い事をしてみた。
「あのアシュトン様……」
「なんでしょう?」
「来月、私の誕生日に……その街でデートをしてみたいのですが……。お時間を取れますでしょうか?」
「──っ」
私の誕生日は秋の青葡萄と満月の日で、秋祭りの真っ最中の時期にあたる。だから街も賑わっているし、楽しい雰囲気を一度は味わいたい。
恥ずかしくなりながらも頑張ったと思う。でもアシュトン様は驚いたあと困ったような顔で微笑んだ。
「それは素敵な提案ですね」
「じゃあ」
「……今年は難しいですがオレーリア様がもう少し大きくなったのなら、ご一緒しましょう」
「──っ」
あの時の言葉にどれだけ私が絶望したのか、アシュトン様は知らないだろう。知るわけがないのだ。
今年どころか婚約してから、誕生日を一緒に過ごしたことすらないのを覚えていないのだ。
今の一言だけで好いているのは、私だけだと気付いてしまった。
末姫とお忍びであっても、城下町に出かけるなど恥ずかしくて出来ない。あるいは周囲にそう思われたくないのだろう。
(だって……クラリッサとはよく市井に降りてデートをしていたもの。それこそ私と同じ年の時にはもう……)
クラリッサからその話を聞く度に、胸が痛くて苦しくて、アシュトン様が帰ってから部屋でこっそり泣いた。今の私に護衛騎士はいない。魔法学院への送り迎えは、ウォルトもいるので仰々しいが。
ウォルトは私の立ち位置を正確に把握していて、なにかとフォローをしてくれた。私との噂が上がった時はすぐに各国の新聞社に連絡を取って沈静化し、逆に私の名声や知名度を爆上げしたのだ。
ウォルトが私の特出した能力を持っている逸材だと褒めちぎり、『魔法技術と失われた言語の翻訳が可能』と宣言。話は瞬く間に広がり、両国間での共同プロジェクトが決定。それにより私がウォルトと一緒にいることに対して、とやかく言う者はいなくなった。
(情報戦の効果すごすぎる……!)
また今まで私への待遇、侍女や従者あるいは護衛騎士がいないのは王家が意図的にしていたとも公表。国内では握り潰されたらしいが、各国では王家に対しての評価がガクンと下がったらしい。
それにより交渉も難航することになったとか。
体裁をとにかく気にする国王陛下と王妃は、ことの重大さにようやく気付き、私に最低でも一人か二人の護衛騎士が付き、侍女も有能な者に切り替わった。
楽しんでいただけたのなら幸いです。
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