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第14話

 一週間後。

 空中都市のとあるカフェにて。

 王国での公式発表(新聞)に目を通しながら、アシュトン様は怖い顔をしていた。私は気付かないふりをして、オレンジタルトを頬張る。


(んん、美味しい。ここのカフェも当たりだわ!)


 今はアシュトン様と今までできなかったことをしようとなって、カフェ巡りデートを楽しんでいる。


「ほどよい酸味にクリームが合う。そしてさっぱり。アシュトン様も食べてください。美味しいですよ」

「それは楽しみですね」


 アシュトン様の爽やかな笑みにドキリとしてしまう。以前とは違って困った顔は見せず、笑顔を向けてくれるのが嬉しい。だから「食べさせてくれませんか?」というお願いにも喜んで答えてしまう。


「ん……んん。幸せな味がします」

「ふふ、このカフェも当たりですね」


 アシュトン様は新聞をテーブルに置くと珈琲カップに口を付けた。多少機嫌は良くなっているが、また眉間に皺を寄せている。


(思ったよりも怒っている。私の功績だと言いつつも、悪意のある書き方をしているのよね。まあ、でもこんな書き方をすれば魔法塔から注意勧告がいって馬鹿を見るのは王家なのだけれど……)


 私としては毎月の利用料+超過料金も振り込まれるのでホクホクだし、傍にいない人に何を言われても別に気にしないし、どうでもいい。

 そんなことに構っているよりも、アシュトン様と一緒の時間を楽しみたいのだ。


(そう何度も言っているんだけれど……。うーん)

「オレーリア様。毎月の利用料だけとは、あの国への報復は甘くありませんか? 使用不可にして……なんなら今からでも巨大魔法を使って王城を落としてきますか? そうしましょう」

「物騒すぎます! 絶対にダメですからね!」

「しかし……」


 しゅん、と叱られた子犬のようになるので「うぐっ」と、強く言えない。今まで契約で私の味方が出来なかった負い目が、そうさせているのかもしれない。これも気にしないでほしいと何度も話し合ったのだが、まだアシュトン様の中では消化できていないのだろう。

 それは時間が解決するのを待つしかないのだろうけれど。


「私を侮辱して嘲笑った方々も、毎月城一つ買えるぐらいの利用料を払っていかなければならないのですよ。勝手に自滅していくので、このぐらいでいいのです。それにアシュトン様が大事な物は全部掬い上げてくださいましたし」

「だとしても、この記事は酷すぎます」

「アシュトン様の気がすまないというのなら、近くに可愛いぬいぐるみ専門店があるのです。そこで抱き枕を買って……アシュトン様?」

「抱き枕……黒猫のぬいぐるみ(ライバル)は……、もういないのですか?」

「黒い猫のぬいぐるみ? ああ……ずっと昔に王妃に取り上げられてしまってます」


 できるだけ明るく言ったつもりだったけれど、アシュトン様は途端に笑顔になった。


「……………………なるほど」

(これはガチギレの笑顔だわ)


 優しさの欠片もない目をしている。これは完全にブチ切れているやつだわ。


「オレーリア様、五分ほど席を外しても?」

「アシュトン様、滅ぼしに行くとかダメですよ!」

「ダメですか?」

「ダメです!」


 ションボリしてもダメなものはダメだ。あまりにも悲しそうに言うので「ダメじゃない」と言いそうになった。狡い。


「わ、私とのデートをそっちのけで行くほどのことですか? 私を一人にするのですか?」

「そうでした。オレーリア様とのデート以上に優先事項などありません」

(ちょろい。いやこの場合はそれで助かったけれど)


 私とアシュトン様は魔法塔の一員として働くのはもう少し先となる。というのも引っ越しなど新しい生活に慣れるところからスタートなので、一カ月ほど有給休暇が貰えるとか。私は国から今までの魔法技術料などが手に入っているので、ちょっとした小金持ちだ。


「あ。銀行口座を新しく作ったり、役所への手続きも終わってないので、国を滅ぼしている場合じゃないですよ」

「役所では最初に手続きをしたと思いますが? 何かまだ残っていましたでしょうか?」


 キョトンとしているアシュトン様に、私は自分だけ意識しているみたいで恥ずかしくなる。


「その……婚姻関係の手続きとか? 住所登録も…………その……ここにきた時は魔法塔の寮にお世話になると思っていたので……」

「あ」


 アシュトン様の退院後、私は彼の家の転がり込んでいる──と言うか同棲的な状況だ。

 いつも一緒にいることが嬉しくて浮かれていたが、今後の生活費とか将来設計などのすり合わせも大事だと思う。特に家賃はアシュトン様が出しているし、私はほとんど養われており状態なのだ。


(うう……。養って貰っているだけじゃ駄目だわ。私も何かしなきゃだし、掃除とかお料理なら前世の知識と経験で出来るから……その当たりから貢献しよう!)

「婚姻……オレーリア様。プロポーズの準備を考えていたのですが、前倒ししても?」

(ぷ、プロポーズ!?)


 いつになくアシュトン様の目が真剣だったので、コクコクと何度も頷いた。


「…………その本当に私で良いのですか? 私の落ち度でオレーリア様には多大なるご迷惑をかけたのですよ?」

「……それはまあ、悲しくて苦しかった時期もありましたが、でもやっぱりアシュトン様が好きなんです」

「全力で幸せにします」


 私も手を掴んで誓ってくれた。それだけで胸がいっぱいになる。これがプロポーズでも私的には全く問題ないのですが。


「すごく盛り上がっているところ悪いんだけど、婚姻届には保護者か血縁者のサインが必要なんだ」

「ウォルト!?」

「………………」


 唐突に現れたウォルトに驚き、アシュトン様は舌打ちする。あまりの豹変ぶりにビックリしてしまった。


(え、なんで?)

「これはこれは。今後同僚になる第十三王子ではないですか。本日はどのようなご用件で?」

「うん、前から思っているけど、押し潰そうとする殺意を引っ込めて欲しいのだけれど? 僕、これでもオレーリアの又従兄妹なんだけど?」

「「え」」


 ケフィ聖王国からは「王位継承問題があるから」と、突っぱねられていたと記憶していたが、実際は血縁者にフォローさせるとなっていたらしい。それで色々自由に動けて権力もあり介入ができそうだったのが、ウォルトだった。


「は、初耳!?」

「国王と王妃を油断させるためにも切り札は残しておかないとね。変に対策されても嫌だったし」

「なるほど……。私のことを気に懸けてくれて……嬉しいです」


 ウォルトが私になにかと骨を折ってくれたり、守ろうとしてくれていた理由も、ここでストンと腑に落ちた。


「まあ、それとクローディア様と契約していた聖獣がオレーリアを守っていたのもあり、ケフィ聖王国的にもどう動くか考えあぐねていたのはある」

「え?」

「君の影の中にクローディア様の聖獣の半分が住み着いている。それで今まで洗脳やら、暗殺や殺されそうになった時に守っていてくれたみたいだ」

「え!?」


 ということは私がよく意識を失ったりした時や、階段から落とされても無傷だったと言うのは、私の影の中にいる聖獣様のおかげということになる。私には誰もいないと思っていたけれど、周りをよく見ればいざという時に助けてくれる、手を差し伸べてくれている人たちはいたのだと気付く。


(私が思っている以上に、私は守られていたのね)

「今はあの国を出て、オレーリアが安全を確認できたら今までため込んでいた殺意という毒を、向けた側に戻しているはずだ」

「え。え!?」

「それはとても素晴らしいことです。正直、オレーリア様を無碍に扱った連中に報復したいと考えていたので、少しばかり溜飲が下がりました」


 アシュトン様がそういうのはアシュトン様もまた《隷属契約》で私を苦しめていたのを知っているから、贖罪という罰を求めているのだと思う。アシュトン様の態度に傷ついたけれど、それ以上にアシュトン様は身動きが出来なくて苦しんでいた。だからこれ以上、自分を傷つけることはしないでほしい。

 そう思っていたからこそ、第三者による制裁という事実にアシュトン様は少しだけホッとしていた。


「あと騎士団長の洗脳を拒否(リジェクト)していたのも聖獣だよ。本当にそこは良かったね」

「ええ、本当に感謝しても仕切れません」

(あれ? 一瞬で打ち解け合っている??)


 それからウォルトは、今後の魔法塔での生活についての諸注意を話して帰って行った。衝撃的なことも多かったので思った以上に自分の中で消化するのに時間は掛かりそうだ。



 ***



 日が暮れて影が伸びる中、私とアシュトン様は夕食の食材を買いつつ、家に帰る。二人で手を繋ぎながら、献立を考えるの楽しい。


「オレーリア様の手料理。……今から楽しみです」

「普通ですよ?」

「私も手伝いますから、一緒に作りましょう」

「うん」


 私たちは今までできなかったことを一つずつ叶えていこうとなり、空中都市の散策に、デートを重ねて、生活サイクルを二人で作っていく。

 こういう時、王女ではなく前世の記憶や知識が役に立つと心からそう思った。


「オレーリア様」

「アシュトン様、もう様を付けるのは、……その、やめてみませんか? こ、婚約者? いえ……そのゆくゆくは夫婦になりますし! よ、呼び捨てなど……」

「オレーリア様。それはダメです。私の心臓が保ちません。せめて183日ぐらいは心の整理が必要です」

「うん、ほぼ半年ですね。……手を繋いで、キスやハグはするのに」

「それとこれとはまた違います。そんな愛らしいことばかりですと、押し倒してしまいます」

「アシュトン様なら別に良いですよ」

「──っ!?」


 ちょっと恥ずかしいけれど、本心だもの。この先も、この人と一緒に居られると思うと、ちょっぴり大胆にもなれる。

 とびきり幸福を噛みしめながら、お互いに耳まで真っ赤になりながら照れ合ったのだ。これからとびきり幸福な時間が待っていると思うと、嬉しくてしょうがない。


(魔法塔の仕事も楽しみだけれど、アシュトン様と一緒に住むこの日常が凄く好き。今日よりも明日が楽しみになるなんて、なんて幸せなのかしら)


 ちゃぷん、と私の影が「よかったね」と言うように跳ねた気がする。


楽しんでいただけたのなら幸いです。

下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマもありがとうございます。

感想・レビューも励みになります。ありがとうございます(ノ*>∀<)ノ♡

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