第13話 ウォルトの視点
これはオレーリアの代わりに僕がしたいと思った復讐劇だ。身内に酷いことをしてくれたんだから、それ相当の罰を受けてもらおう。
そう思っていたのだが──。
「それでは魔法使いオレーリアが編み出した魔法術式、功績及び所有権は彼女個人のものとし、今後彼女の許可なしに無断利用を行った場合、罰金対象となることをここに宣言します」
僕の上司かつ師匠である大魔法使いレニーが、僕の代わりに王の間で宣言した。
(ああ……僕の役割が……でもレニーが今日も輝いて美しい……くっ……)
良く通る声で有無を言わせない威圧感に、国王も王妃も青ざめるばかりだった。ああ、こんなことなら記録用魔導具で一部始終を録画しておけば良かった。オレーリアもきっとこの場にいたかっただろうし。
師匠は魔法使いに甘い。超甘い。万が一にもオレーリアが傷つくかもしれないと慮って、魔法塔の主人自ら動くのだから、国王も王妃も驚いただろう。
なんの価値もないと思っていた末姫がこの国にとって、もっとも価値のある人間だったと今さら知った顔は傑作だった。どうせ僕の言葉を鵜呑みにして、オレーリアから搾取することを考えていたのだろう。そんなことあの子がするはずない。何せ今まで言うことを聞いていたのも、言いなりだったのも無事にこの国から出るため。魔法技術を盗んでくるよう言ったことも録音していたので、恐喝罪になると言うのに、本当に頭がお花畑すぎる。
魔法使いを守ることこそが魔法塔の存在意義であり、それこそが世界をよりよい道に進めるための《調停者》としての役割でもある。
それを王族が知らないはずがないだろうに。それでもオレーリアの功績ではないと思いたかったのか、誤魔化せるとでも思ったのか。
師匠は基本感情を表に出さない。だが今回はオレーリアのことで珍しく怒っていた。下手すれば国丸ごと焦土にする気満々の武装だったので、先に僕が先手を打つ。
レニーに気づかれずに魔法術式の構築。幾重にも連なる魔法円を重ねて、発動開始まで残り数分と言ったところだろうか。
(出鼻を挫かれたけれど、僕は僕なりのやり方で、復讐をするとしよう)
師匠もオレーリアと似た灰褐色の髪、陶器のような真っ白な肌、緋色の瞳の美女だ。黒のドレスにローブ姿で、いつもながら美しい。怒っている姿も凜としていい。
「魔法使いは世界の宝。それを貶めた罪は重い。魔法使いは貴重であり、国に富と繁栄をもたらすのをお前たちは知らないのか?」
「そ、それは……。しかしオレーリアが他の者の功績を盗んだと報告があったからで」
「だから? 再三、魔法塔で結論を伝えてきたはずだが? 貴公らは文字が読めないのか?」
「なっ……」
ソリーナ王妃が顔を真っ赤にして、睨んできた。全然怖くないし、むしろイラッとする。
「はぁ。どうして、こんなことに……。オレーリアを虐げていれば全て上手くいくと、そなたが言っていたのは嘘だったのか」
「陛下……っ、あの女の娘は、虐げられて当然な存在。誰からも疎まれ、愛されない存在でなければならないのですわ。ああ……惚れ薬を使ってあの騎士から婚約破棄されて、惨めな思いをさせるつもりが……どうしてこうなったの!?」
うわあ。王妃も屑だが、実の娘なのにとんでもないことをいう父親だな。王としても父としても最低すぎる。これ以上会話を続けていたら師匠が王の間を消し炭にしそうなので、しゃしゃりでることにした。
「オレーリアがこの国に貢献したことで、この国の魔法術式の八割はこれより一時間後にストップします。もし今後もご利用するのなら、正規値段で利用料を払って頂くことになりますが、どうなさいますか?」
「この国で育ったからこそ生み出された魔法術式を、個人が所有するなど」
もっともらしいことを言っているが、お前たちが、元クローディア王妃に、あの子に何をしたのか、僕が知らないと本気で思っているようだ。
「魔法塔もむやみやたらに個々人の所有権にするつもりはありません──が、所有者に対してこの国は対価を支払ってきていない。そしてオレーリアを貶める言葉や噂の数々。僕がこの国に留学に来たのは本当ですが、もう一つ魔法塔から監査役としても来ていたのですよ。だから言い逃れはしないほうが良いかと。利用料が嵩みますからね」
国王と王妃はそれぞれ顔が青くなったり、赤くなったりと忙しいようだ。
「ウォルト、私の仕事を横取りするな」
「しますよ、今回は特にね。レニーに驚かせることをするチャンスですし……、それに」
「それに?」
「オレーリアとは又従兄妹ですし、身内を酷い目に合わせたら──報復は必須。それがケフィ聖王国王家の家訓ですからね」
「ケフィ聖王国は、クローディアとオレーリアを見捨てたはずじゃ!?」
国王が青ざめる。どうやら過干渉しないと言う言葉を取り違えているようだ。
「見捨てた? 王位継承争いで色々ありますが、本国が動けない場合は、他国に嫁いだ者や血縁者が対処する──それもあって僕がここの来たのですよ」
「ご、誤解だ! 全てがソリーナが私を唆したのだ!」
「国王陛下!? 私を愛しておるからこそ、私の考えに乗ったのではないですか! ご安心ください。私には魔術士がおります!」
「ああ、あの魔術士なら、騎士団長が倒したぞ」
「な。はああ!?」
ついに王妃は発狂した。喚き散らす中、僕は美しいレニーに視線を向ける。
「どうした?」
「いえ。僕とオレーリアのこと気づいていたのかなーって」
「魔力の色が似ていたもの。気づくわ」
(魔力の色を見る鑑定眼を持つレニーだから気づくレベルなんだけど……。そこも素敵だけれど!)
レニーは僕とオレーリアとの関係を知っていたので、全く驚いていなかった。ちょっとぐらい嫉妬というか、僕を意識欲しかったのだけれども。
(まあ、今回の古代魔法で驚いて貰えると良いな)
最後の仕上げ──と思った時だった。
王の間に元第一王女クラリッサが乱入してきた。よくこの場に顔を出せたものだ。
「お母様、お父様!!」
「クラリッサ……今は」
「アシュトンの姿が見えませんの。先日のパーティーでも姿を見なくて何かご存じですか!?」
「クラリッサ。取り込み中よ」
「ですが……私この日を楽しみにしていたんですよ!」
わぁお。客人がいても自分優先か。相変わらずとんでもない世間知らずなお姫様だ。そんなんだから兄様とソリが合わなくて離縁を突きつけられたのだよな。なぜかこの国では兄様が死んだことになっているし、情報規制が徹底しているというかなんというか。
白い結婚?
浮気三昧で豪遊していたくせに。今度はオレーリアの婚約者にまで手を出そうとするのだから質が悪い。王妃の言われるままに動く頭空っぽの人形姫だって自覚がないのは、憐れだな。
まあ、どう転んでもあの婚約者はずっと前からオレーリア一筋で、魔法塔にも籍を置いていたから心配はしていなかったけれど。
今頃二人で空中都市を見て回っているだろう。うん、同僚となる僕としても最高の結末だな。もっともこの国の者たちはこの先、国としていつまで維持できるか見物だ。一応第一王子はまだまともそうだったから、今回の粛清対象には除外しておいてやった。
「(こちらも少し言っておこう)……これは浮気三昧をして国を追い出された、愚かな王女、大淫婦ではないですか。この国では神聖化されているようですが、時間の問題かと思いますよ」
事実を言うも、クラリッサはムッと頬を膨らませた。
「失礼な人ね。ああでも見た目は悪くないから、今ここで謝るのなら、私の恋人にしてあげるわ」
「冗談じゃない。謹んでお断りします。僕にはずっと好きな人がいますからね」
「そんなこと言って、私とたくさんお話ししたらみんな私を好きになるわ」
うん。会話がしんどい。もうサクッと殺してしまっても良いんじゃないかな。
まあ今簡単に死んだら面白くないから、良いか。
僕としてはこの国の魔法術式の永久凍結でも良かったのだけれど、オレーリアは甘いからな。国王のサインを確認した後、師匠は転移門を召喚する。
転移魔法で帰るのも良いけれど、魔法塔の凄さを見せるためらしい。パフォーマンスも大事なことだ。
レニーは思い出したと言わんばかりに、口を開いた。絶対わざとだ。でも素敵。
「ああ、それとこの魔法術式を使う場合、必ず誰に所有権があるか国が公表しないといけない。契約書にも記載してあった通りだ。三日で国中に通達しなければ罰則となるので注意してくれ」
「は!?」
「そんなこと一言も……」
「口にはしていないが、契約書をよく読めば分かるだろう。本当に同じ人間なのかと疑うほど頭が悪い王だな」
「な!?」
「このままではもって八年といったところか」
「周辺諸国に魔法技術を交渉材料にしていたので、三年も保たないのでは?」
「……ウォルト。何か術式を発動させているね」
レニーはここでようやく気づいたようで、真っ直ぐに僕を見つめる。
(わあああ。レニーの虹色の瞳はいつみても素敵すぎる!)
「ウォルト」
「レニーを驚かせようと思いましてね。この術式はケフィ聖王国特有のもので、半分はクローディア様が保険として残していたものです」
国王陛下、王妃、クラリッサを含めたこの国の者たちの影が揺らめき、幾つもの目玉だけが現れる。
「ひい!?」
「きゃああああああ!」
「な、なんだこれは!?」
「ケフィ聖王国では生まれた時に、影の中にいる聖獣と契約を結ぶそうです。そして主人を守り、害を成したものを許しはしない。今まではオレーリアを守るためだけに機能していましたが、この国を出たので、あとは報復だけ──だったので、僕が見えるように術式を書き換えました。オレーリアが翻訳してくれたので、こうしてお披露目ができて嬉しいですよ」
聞いていないと騒ぎ立てるが、そんなのはクローディア様が事前に書類も渡していたのに、しっかりと内容を読まなかった国王が悪い。本当にこの国は大丈夫なのだろうか。
クローディア様が契約していたのは古代竜。その加護は凄まじくだからこそ、この国で魔物の脅威は薄かった。派生する前に消し炭にしていたのだから。
元々この国は魔物が多い国で頭を悩ませていた。それを解決するためケフィ聖王国と政略結婚を結んだのだ。ただし、嫁いだ花嫁を大事にすること。そして血縁者も軽んじてはいけない──と。
「人外の約束は重い。だからこれから先、お前たちはずっとその目に見られ、呪いと共に朽ちていくといい」
「助けて」
「いやいやいや!!」
「ああああああああああ!」
もうまともに会話するのも難しいだろう。
第一王子はまともだったし、国王王妃の尻拭いに奔走して各地を走り回っているとか。そんな暇があるなら妹を守ってやれよと思ったが、大分溜飲が下がったし僕が出る幕はない。
あのいけ好かない魔術師はオレーリアの婚約者が潰してしまったからこれぐらいはね。
「ウォルト……! すごいじゃないか。この術式、魔法構築もすごい。すごいな」
「むぎゅ」
豊満な胸に抱きしめられ、幸せなまま圧死されそうだ。頭を撫でてもらえればと思っていたけど、予想以上だ。
(このまま抱きついても……?)
「さて帰るか」
パッと離れてしまい、思わず涙目になる。
(ああ、僕の天国が……)
はあ、誰か不敬なことを言って騒いでくれたら、少しは憂さ晴らしができるのに。まあ、どちらにしても、このままだと周辺諸国に滅ぼされるか、自滅だからいいか。これからはオレーリアに未解読な写本とかも読み解いて貰えるなんて、あーワクワクしてきた!
本当にこの国がクズで良かった。
楽しんでいただけたのなら幸いです。
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