第11話 アシュトンの視点2
魔術と魔法の違いは体内に魔力器官があるか、ないか。内側から魔力を練り上げて解き放つ威力は、魔術の数倍。
魔法は生まれた時から神々から贈られるギフトの一つ。だからこそ魔法塔は、魔法使いを保護するため、その力の使い道を導くために設立した。
「ところで……。今のが全力か?」
そう尋ねたら、魔術師はあからさまに狼狽えていた。
「なっ……ありえない……。直撃して五体満足でいるはずがない……」
「ああ、そういえば私の力をあまり王都では見せていなかったな。情報規制を徹底しておいて良かった」
今までは補助魔法の《肉体強化》ばかりを使っていた。それは騎士としてであって、全力ではない。魔法騎士としての力を使うのは、あの方のためだけ──。
「騎士の誓い」
だから本来の力を、本来捧げる方のために、ようやく使うことができる。あの方のために鍛え上げた魔法武装。
背に生じる漆黒の光が三対六翼の形となって、顕現する。盾であり刃となる攻防一体型でもあり、あの方をお守りしつつ活路を見出すために代々受け継がれた魔法の一つ。
「な、なんだ、そのバカみたいな魔力の塊は!」
「お前が知る必要はない」
「ふざけるな!! 獣よ、我の敵を食い殺せ! 漆黒の獣たち」
後ろから襲いかかってきた四足獣を素早く感知して、羽根が槍となって獣を貫く。数が増えようと、一定の距離に入った瞬間──獣は貫かれ床に転がり落ちる。
「後ろからとは、本当に屑だな」
「うるさい、勝てばいいんだよ。卑怯な手を使ってクローディアも、その騎士も殺したんだ!」
本当は剣で倒したほうが手っ取り早いけれど、大事なネックレスが傷つかないように両手で包み込むほうが大事だ。正面から勝てなかったから策を弄したのは、戦術的に正しい。ただそれだけだ。
死ぬ瞬間まで、後悔させてやる。
「まずは足だな」
そう呟いた瞬間、羽根の一つが矢の如く飛び出し、魔術師の左足を貫き、床に縫い留めた。
「ヒッ、ぎゃあああああ!」と喚き声まで聞くに堪えない。あの方の痛みはもっと、苦しみはそんなものではなかった。
次々と襲いかかる四足獣を肩翼の刃が貫く。間合に入った段階で死角からだろうと獣を感知して一撃で屠る。
獣の死体が三十を超えたところで、魔術師の顔色が土色に変わっていく。
「わ、私の結界であり、私の世界なのになぜ!?」
「お前のチープな結界の中に私の特殊結界を張っているのだが、ああ、それすら気づかなかったのか」
別に上級魔法でもない。ただの基礎の応用だ。オレーリア様だって12歳で出来ていた。
「なっ、魔法塔の人間でもないお前が、そんな訳──っ」
「魔法塔の人間だが?」
「ああああああ! もうそんなことはどうでもいい! お前を殺す。命令と違うがお前さえ殺せば、そのネックレスは主人の元に戻らずに済むのだからな!!」
(めちゃくちゃな奴だ。自分の思い通りにならないと癇癪を起こす。あの王妃とまったく同じだな)
思い出すと腹立たしさが増した。
「暗き闇の王よ、我を贄に捧げて世界を滅ぼしたまえ──終焉!!」
ゴオオオオオオオオ!
闇が泥として具現化することで、この空間を泥で覆うつもりなのだろう。その泥も触れるもの全てを溶かしていく。
「お前も、あの娘も、不幸に!あはははっははは」
そう言って男は泥に呑まれた。術式による簡易召喚の劣化版か。これを結界の外に出すのはまずい。最後の最後まで非常に面倒な男だ。いやそれがわかっていたのに、できるだけ時間をかけて復讐しようとした私の慢心が招いたもの。
許せなかった。叔父を、クローディア様を害した者に苦痛と凄惨な死を与えるつもりだったのに。私はどこまでも、完遂できずに護衛騎士失格だ。
『アシュトン様』
私の名を呼ぶ方の声が聞こえた気がした。
(いや、完遂すべきことはまだ残っている。私はどうなろうともいい。けれどこの両手にあるクローディア様の形見だけは、オレーリア様に届けなければ……)
その一心で、魔法塔まで辿り着けた。
夕暮れの闇夜が迫る中。オレンジ色の夕焼けが美しくて、最後にオレーリア様の腕の中で逝くとは贅沢なことだと、自己満足してしまった。
本当に私は騎士失格だ。
***
(オレーリア様をお守りできず……本当に……申し訳ありませんでした……)
心からそう思って目を閉じた。この先、オレーリア様が前を向いて進むためにも、幼かった頃の楽しい記憶だけでも取り戻して差し上げたかった。
(オレーリア様……。ずっと、お慕いしておりました……)
意識がそこで吹き飛び、次に目が覚めると、視界いっぱいにオレーリア様のご尊顔があった。
「!?」
「……すう」
(え、な、寝顔を見るのは久し振りだけれど、もの凄く可愛い。天使? いや女神がどうしてこんな超至近距離に!?)
触れても良いだろうか。夢なら許されるだろう。
(至福。まさか天国!? いや、オレーリア様は生きておられる! いや待て。全く覚えがないけれど、私は今、オレーリア様を抱きしめている? 無意識に? こ、これは事故です。事故なのですが……肌の温もりや柔らかさが伝わって……)
不思議と胸が温かくなる。
「愛しています、オレーリア様」
思っていたことがスッと声に出た。今まで《隷属契約》のせいで言えなかった言葉がすんなり口から零れ──胸を熱くした。
「オレーリア様、好きです、愛しています。……ああ、やっぱり、オレーリア様への思いを声に出せている。……ずっと貴女様に言いたかった。貴女と藤の花を見に行く約束も、誕生日に一緒に過ごすことも、ダンスをする約束も、市井でデートする約束も全部、覚えています。何一つ叶えられず、貴女の全てを取り戻せるように奮闘したのに、居場所を作ることすらできませんでした。贈物も何一つ届けられず……本当に申し訳ありません」
すうすう、と眠っている愛おしい人。
こんなに近くにいるのは、いつぶりだろう。睫毛も長くて、長い髪に触れたらサラサラして、愛おしくてたまらない。キスしたいが、さすがに寝込みを襲うなど恐れ多い。いや、この状況がすでに死罪にあたる。
しかし死ぬ前にオレーリア様を別のベッドで寝かせるべきだ。でないと私の理性が蒸発するまでそう長くは保たない。
(オレーリア様を抱き上げて……。軽い!? ちゃんと食事はとっていただろうか。……オレーリア様から良い匂いがする)
抱き上げたものの離したくない気持ちがぐぐっと膨れ上がる。
「むうっ……!」
「──っ!?」
起き上がってオレーリア様を抱き上げようとしたが、寝ぼけていたのか私に抱きついて離れない。
(なんですか、そのあざとさ! 可愛い。どこで覚えたんです!!? ハッ、あれですか、黒猫のぬいぐるみを抱き枕にして眠っているのですね。わかりますよ、アレは私の生涯のライバルでしたから! それともあの留学生──)
「アシュトン様……」
(私!? 私を思って? あの留学生でも、黒猫のぬいぐるみでもない!?)
思わず「勝った!」と、口元が緩んでしまう。
ぎゅっと、抱きついてくる。良い香りがするし、想像以上に柔らかい。
(もっと抱きしめても? さすがにキスは殺される)
いや、しかし幸せ過ぎる悩みに、理性もすり切れ寸前だった。
「おいて……いかないで……」
「──っ」
そんな切ない声で言われたら、もう騎士の矜持などどうでもいい。オレーリア様を抱きしめて、「大丈夫、私は何処にも行きませんよ」から、「愛しています」とか「好き、可愛い」と愛も囁く。
さすがにキスは我慢したが。そんなことをしていればオレーリア様が目覚めないわけもなく。目覚めたオレーリア様は声にならない声を上げて、目を白黒させていた。
「あ、アシュトン様が壊れてしまった?」
開口一番もなんと可愛らしい反応だろうか。
「オレーリア様、狼狽する姿も実に愛らしい。愛しています。愛おしくて言語化が難しい。……貴女に触れても良いでしょうか?」
「……すでに触れています……よ」
頬を真っ赤にして、ああ、どうしてこんなに可愛らしいのだろう。
「では、口づけまでは許して頂けますか」
「くち……くちづけ!?」
耳まで真っ赤になって、なんて愛くるしいのだろう。もう何も我慢しなくていいということが嬉しくて、口元が緩んだ。
楽しんでいただけたのなら幸いです。
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