第10話 アシュトンの視点1
叔父上は遠方のケフィ聖王国から仕えていたクローディア様の護衛騎士だった。そして当時私は見習い騎士として、オレーリア様の傍で従者の真似事をしていた。
オレーリア様が5歳、私が12歳。
あの頃は、王城内も穏やかで明るかった。ソリーナ王妃が王子たちの教育に熱心なことと、クローディア様が離宮からでなかったことも大きい。
王妃としての政務やその他運営なども完璧で、多忙でありながらもオレーリア様との時間を大事にされていた。
「アシュ」
「なんでしょうか」
「花冠を作ったの」
「私が頂いてもよろしいのですか?」
シロツメクサで作った花冠はつたなくも、世界で一つだけの贈物だった。差し出すオレーリア様はもじもじしながらも差し出す。
「うん」
なんと可愛らしいのだろう。
「ありがとうございます。保護魔法を掛けて家宝にしますね」
「うん? うん!」
「お返しは何が良いでしょうか? やはり宝石やドレス? それとも私の瞳の色をあしらったアクセサリー……」
「甥の溺愛が怖い」
「なにか言いましたか、叔父上」
「犯罪は犯すなよ」
「もちろんです」
叔父上は苦言を呈するが、そのぐらいは弁えている。オレーリア様は私にとっての光であり、仕えるべき、守るべき宝そのものだ。全身全霊をお守りする。
「アシュ。……魔法で蝶々を作れるのようにあったから見て!」
「喜んで」
オレーリア様は幼い頃から魔法の才能があり、青い蝶を再現しては私に見せてくれた。愛らしくて、心優しいオレーリア様が大好きで、この方に剣も心臓も捧げると心に誓った。
結婚式ごっこで私を選んでくれたことも嬉しかった。まあライバルとは彼女の抱き枕の黒猫だったが。
「オレーリアはそのぬいぐるみが大好きね」
「うん! いつも一緒なの」
(まさか黒猫のぬいぐるみに負けるとは……)
ぐっ、と涙を堪えているとオレーリア様と目が合う。
「アシュも大好きだよ?」
「──っ!」
僅差で私が勝ったらしい。お転婆で好きなことに夢中になると本人が納得いくまで調べ続けた。しかも8歳でさまざまな言語を理解して、いかなる文字も読み解ける天才だった。彼女の能力の高さが悪用されることを叔父上とクローディア様は懸念していた。
「いずれこの子の能力に気づいた者が悪用しないように、アシュトン、どうかこの子を導いてあげてくださいね」
「はい。私の全身全霊をかけても、オレーリア様をお守りします」
そうクローディア様と叔父上の前で、誓ったのだ。誓ったのに……っ。
クローディア様が病死して、叔父上が後ろ盾になろうとした矢先に事故死。オレーリア様の傍にいるために侯爵家の力を使っても、全ての悪意から守ることはできないどころか、敵は的確に私の弱みを握り契約を持ちかけてきた。
『オレーリアを不要に傷つけないことを保証するわ。それと貴方が婚約者として傍にいること。けれど溺愛はせず、距離を取りなさいな。笑顔は禁止だし、この契約のことを話すことも駄目。そうすればあの女の形見を返してあげる』
それらの条件を飲む代わりに《隷属契約》を受け入れた。すべてソリーナ王妃の仕組んだ罠だったと知ったのは、しばらくした後だった。オレーリア様は私のことを朧気にしか覚えておらず、護衛騎士として出会ったと思い込んでいた。
度重なる不幸に耐えきれず、記憶を消したのだろう。私のことを忘れてしまったのは悲しかったけれど、オレーリア様の生活を守ることだけに尽力した。
その結果、狡猾な王妃の策略に嵌まり、何度もオレーリア様に悲しい顔をさせた。騎士失格だ。何度、叔父上とクローディア様の墓標の前で謝罪の言葉を口にしたか。私には貴女に笑いかける資格などないのに、諦めきれずに貴女を思い続けてしまった。
「オレーリア様……っ、」
私がオレーリア様を思えば思うほど、ソリーナ王妃が酷いことを考えて彼女の心を抉る。本当はもっと傍で貴女を存分に甘やかしたかった。
もっと笑って、怯えも苦しみも悲しみも取り払った場所に、貴女を魔法塔に連れ出したい。
(私と一緒に魔法塔に逃げてくださいませんか──と言ったら、受け入れてくれるだろうか?)
あそこならオレーリア様の能力を生かしつつ、庇護下に入ることだってできる。推薦状を用意して、あと私にできることはあるだろうか。どちらにしてもオレーリア様が16歳になるまで、契約は解消されない。
あの方が笑えるような居場所を私が用意できれば、あの方の逃げ道だけ。
愛している、と告げることも許されない。
オレーリア様への贈り物がご本人に届いていないと知ったのは1年前。誕生日や祝い事になるとわざと遠方や面倒な任務をあてがわれる。脆弱で、愚かな私とは違って、オレーリア様が自分の口から魔法塔に行くと行った時、嬉しくてなんと言葉を返せば良いのか分からなくなった。
「私も一緒について行きたい」とは口が裂けても言えなかった、言えるはずもない。今まで散々、オレーリア様を傷つけた私を貴女は許さないだろう。
当然だ。許されるわけがない。けれどあの方の大切な物は返させてもらう。
***
まだ日は出ているのに王城内は闇の帷が降りたように薄暗い。澱んだ空気が充満しているようだ。
(別空間、いや結界の中か。発生源はおそらく……)
「お前の探し物はこれか?」
美しく煌めく空を閉じ込めたようなネックレスを見て、全身がカッとなった。それはあの方が持つに相応しい物。
「……出たな。魔術師」
闇の中から姿を見せたのは、床に付くほど長いローブを纏った男だった。影のある顔にはありありと敵意が向けられる。この男がクローディア様と叔父上を呪い殺した元凶であり、ソリーナ王妃の剣であり盾。私に結んだ《隷属契約》も、この男の発案だったのだろう。
「契約解除おめでとう。最高に良い舞台だったよ。私の求愛を拒んだクローディアも、その騎士も、娘も不幸になる。騎士として守るはずだったお前が、あの娘を苦しめて最高だった。ああ、素晴らしい!!」
「その茶番も今日までだ。契約通り、そのネックレスを返してもらおう」
「そうだな。約束通り、お前に返そう」
適当に放り投げたネックレスは弧を描き地面に落ちる。その前に両手でネックレスを受け取った。
(ああ、ようやくクローディア様の形見を、オレーリア様にお返しできる)
受け取った瞬間、床に数十の魔法陣が展開。
逃げる暇も、防御も間に合わず──爆音は轟いた。土煙と壁が崩れ落ちる音の中で、魔術師の高笑いが耳に届く。
「バカが! 罠に決まっているだろう! これだから脳筋の騎士は! 魔術師は術式を組み替え紡ぐ芸術品。特に人を傷つけて、壊すことこそ究極の美!」
「────っ」
「殺しはしないさ、《隷属契約》が切れた後は、お前に惚れ薬を飲ませる計画だからな! これで晴れてクラリッサ様と恋仲になる。そうすれば侯爵家の財産も王妃のもの!」
血で絨毯を汚してしまったが、ネックレスは無事だった。確かに本物だ。
やっと取り戻すことができた。最初から一撃はくらうつもりだったが、思いのほか反射魔法防御が間に合ったようだ。
なるほど。一度契約を切ったのは、惚れ薬でオレーリア様への思いを上書きする気だったのか。
「くだらない」
「なっ……バカな」
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