3. あなたの冬に、私がいること
1月7日――その日が近づくと、私は少しそわそわする。
世間は「正月気分も終わり、さあ仕事だ」という空気に包まれているけど、私にとってはそれだけじゃない。
あの人……弦くんの誕生日。あまり自分のことを語らないけれど、優しくて誠実な人。
そんな彼と過ごす日々が、私の中でどんどん大きな意味を持つようになっていた。
※※※
当日、弦くんと駅から少し離れたお店で待ち合わせした。中学校教師の彼は冬休み中。もちろん3学期の準備はあるけれど、今日は大丈夫みたい。
「凛々子さん、おはようございます」
「おはよう、弦くん」
彼の誕生日は、静かな冬の日に似ている。
凍る空気のなか、ぴんと張り詰めた朝の光。
騒がしくないけど、確かに存在するぬくもり。
山羊座の彼は堅実で、穏やかで、黙々と努力を続ける人。
彼のそういうところが好き――
お店に入って少し早めのランチを注文すると、窓の外に雪がちらついてきた。
いつもは雪というだけで寒くて震えてしまうのに、弦くんと一緒に見る景色は美しくて私をうっとりさせる。
「凛々子さん、休み中はゆっくりできましたか」
「うん。お正月に初詣に行って実家にも行って……」
「……あまり無理しないでくださいよ?」
「わかってるって♪ 弦くん……いつも優しいんだから」
私が体調を崩したこともあるので、彼はいつも心配してくれる。こんなに自分のことを見てくれるなんて、顔が熱くなってしまうかも。
食後のコーヒーが来て落ち着いた頃に、私は鞄から箱を取り出した。
「弦くん、お誕生日おめでとう」
「凛々子さん、ありがとうございます。これは……開けてもいいですか」
「うん」
中身はブラウンの色をしたシックな眼鏡ケース。
気に入ってくれるといいな。
「……こんなにお洒落な眼鏡ケース、いいんですか」
「弦くんの今の眼鏡ケース、結構使ってそうだったから」
「さすが凛々子さん、見ていたのですね」
彼が眼鏡を外すとき……私はこれから始まることを考えてドキドキしてくる。大きな貴方に抱き寄せられて、心まであたたかくなるんだから。
外を見ればさらに雪が舞っていた。
「雪、好きですか?」
「うん。弦くんの季節だから」
「俺も……凛々子さん似て綺麗だから」
嬉しくて2人で笑い合った。
彼と過ごす時間は楽しくて、安心できる。
「少し歩きませんか?」
「うん、弦くんの隣ってあったかくて……寒さなんて忘れちゃいそう」
「凛々子さん……」
照れている弦くんを見るのも好きかな。
お店を出ると、頬にふわりと雪が当たる。
冷たいはずなのに、不思議と胸があたたかい。
手袋越しにそっと彼の手を握ったら、すぐにぎゅっと握り返してくれる。
その力強さが嬉しくて、私は少し照れながらも手を離さずに歩き出した。
駅までの道を、少し遠回りして歩く。
ふたり並んだ足音が、雪の静かな世界に溶けていく。
私は彼の横顔をそっと見つめた。
「……やっぱり、弦くんの手はあったかいね」
そう呟いたら、彼は私の方を見て優しく笑った。
その笑顔に、また胸が高鳴る。
この日がまた来年もめぐって、また同じように笑い合えますように。
そんな願いをこっそり心にしまって――
私はあなたと歩くこの冬が、愛おしくてたまらない。