表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/4

3. あなたの冬に、私がいること

 1月7日――その日が近づくと、私は少しそわそわする。


 世間は「正月気分も終わり、さあ仕事だ」という空気に包まれているけど、私にとってはそれだけじゃない。

 あの人……(げん)くんの誕生日。あまり自分のことを語らないけれど、優しくて誠実な人。

 

 そんな彼と過ごす日々が、私の中でどんどん大きな意味を持つようになっていた。

 


 ※※※



 当日、弦くんと駅から少し離れたお店で待ち合わせした。中学校教師の彼は冬休み中。もちろん3学期の準備はあるけれど、今日は大丈夫みたい。


凛々子(りりこ)さん、おはようございます」

「おはよう、弦くん」


 彼の誕生日は、静かな冬の日に似ている。

 凍る空気のなか、ぴんと張り詰めた朝の光。

 騒がしくないけど、確かに存在するぬくもり。


 山羊座の彼は堅実で、穏やかで、黙々と努力を続ける人。


 彼のそういうところが好き――


 お店に入って少し早めのランチを注文すると、窓の外に雪がちらついてきた。

 いつもは雪というだけで寒くて震えてしまうのに、弦くんと一緒に見る景色は美しくて私をうっとりさせる。

 

「凛々子さん、休み中はゆっくりできましたか」

「うん。お正月に初詣に行って実家にも行って……」

「……あまり無理しないでくださいよ?」

「わかってるって♪ 弦くん……いつも優しいんだから」


 私が体調を崩したこともあるので、彼はいつも心配してくれる。こんなに自分のことを見てくれるなんて、顔が熱くなってしまうかも。


 食後のコーヒーが来て落ち着いた頃に、私は鞄から箱を取り出した。

 


「弦くん、お誕生日おめでとう」

「凛々子さん、ありがとうございます。これは……開けてもいいですか」

「うん」


 

 中身はブラウンの色をしたシックな眼鏡ケース。

 気に入ってくれるといいな。


「……こんなにお洒落な眼鏡ケース、いいんですか」

「弦くんの今の眼鏡ケース、結構使ってそうだったから」

「さすが凛々子さん、見ていたのですね」


 彼が眼鏡を外すとき……私はこれから始まることを考えてドキドキしてくる。大きな貴方に抱き寄せられて、心まであたたかくなるんだから。



 外を見ればさらに雪が舞っていた。


「雪、好きですか?」

「うん。弦くんの季節だから」

「俺も……凛々子さん似て綺麗だから」


 嬉しくて2人で笑い合った。

 彼と過ごす時間は楽しくて、安心できる。


「少し歩きませんか?」

「うん、弦くんの隣ってあったかくて……寒さなんて忘れちゃいそう」

「凛々子さん……」


 照れている弦くんを見るのも好きかな。



 お店を出ると、頬にふわりと雪が当たる。

 冷たいはずなのに、不思議と胸があたたかい。


 手袋越しにそっと彼の手を握ったら、すぐにぎゅっと握り返してくれる。

 その力強さが嬉しくて、私は少し照れながらも手を離さずに歩き出した。


 駅までの道を、少し遠回りして歩く。

 ふたり並んだ足音が、雪の静かな世界に溶けていく。

 私は彼の横顔をそっと見つめた。


「……やっぱり、弦くんの手はあったかいね」


 そう呟いたら、彼は私の方を見て優しく笑った。

 その笑顔に、また胸が高鳴る。


 

 この日がまた来年もめぐって、また同じように笑い合えますように。

 そんな願いをこっそり心にしまって――


 私はあなたと歩くこの冬が、愛おしくてたまらない。

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ