2. 秋のはじまり、君と手を繋いで
文化祭が終わって朝晩は少し涼しくなり、秋の気配を感じる。
今日は9月20日、奈々ちゃんの誕生日。土曜日なので彼女と映画を観に行くことにした。
奈々ちゃんは美術部。文化祭の展示での彼女の作品は、僕の心を震わせるものだった。秋の景色――時計台といちょう並木のある公園。中央に開いた扉があって向こう側には虹のかかった空が見える。
思えば去年も彼女は虹を描いていた。このような希望のある絵を描くのが上手で、尊敬する。
そんなことを考えながら駅前で待っていると、向こうから奈々ちゃんがやってきた。今日は秋の始まりを告げるようなベージュのワンピース、可愛い。
「おはよう、はるくん」
「おはよう、奈々ちゃん」
手を繋いですぐ近くの映画館へ行く。僕たちが観るのは魔法使いの冒険物語。公開早々人気が爆発して学校でも話題になっていた。チケットを購入して涼しいシアターに入る。
「ねぇはるくん。これ本当に怖くないよね?」
彼女はお化けなどの怖いものが苦手。遊園地のお化け屋敷では僕にしがみついていた。
乙女座の彼女は真面目で純粋で守ってあげたい存在。
だからずっとそばにいたいな……。
「うん、多分そこまで怖いものは出て来ないと思うよ」
「それならいいんだけど」
映画が始まり、主人公が魔法を覚えて町を出発するシーンから始まる。仲間を連れて皆で悪者を倒そうとするが……その悪者がなかなか怖かった。
「……っ!」
隣から小さく息を吸い込む音が聞こえる。彼女の震える手が僕を探しているように見えたので、すぐにその手を掴んだ。
「……」
「……」
ようやく悪者が倒れて安心したのか、彼女の手がするりとほどけそうになった。が、僕がしっかりと握って離さなかった。鼓動の速さがバレてしまいそうで、そっと指に力を込める。
そして90分の上映が終わり、シアター内が明るくなった。
奈々ちゃんが頬を赤らめて僕の方を見つめる。
「ちょっと怖いところがあったけど、はるくんがいたから大丈夫だった」
「それなら良かった」
「はるくんたら手、離さないからドキドキしちゃった」
だって君のその顔が見たかったから――可愛い。
僕たちは映画館と同じ建物にある屋上庭園まで行く。そこには秋桜が植えられていて、風で小さく揺れていた。町の景色を2人で眺めていると、ほんのり秋の匂いが混じる。
今日は……彼女に渡したいものがあった。
僕は鞄から細長い箱を取り出す。
「奈々ちゃん、お誕生日おめでとう」
「はるくん……ありがとう。わぁ、開けていい?」
「もちろん」
中身は小ぶりなハートのチャームがついたネックレス。
奈々ちゃんにぴったりだな、と思いながら選んだ。
「可愛い……! 嬉しいはるくん!」
彼女の今日一番のキュートな笑顔に心臓がドクンと鳴る。
「つけてあげるよ」
「ありがとう」
僕はネックレスを奈々ちゃんにつける。首に手が触れて、さらにドキドキしてくる。
「うん、似合ってる」
耳元でそう囁いて、そのまま後ろから抱き締めた。
「大好きだよ、奈々ちゃん」
「私もはるくんが大好き」
秋風がやわらかく吹き抜ける中、彼女の髪がふわりと揺れる。
もう、どこにも行かせたくないくらい――君に夢中だ。