ザマァ・タロウ②
復讐を決意してから十年が経った。そして、今日ようやく最初の復讐が為される。
父が死に母親と二人で暮らす事を余儀なくされたロスリックは、生まれた街を離れタイフーン帝国へと移住した。そこは異世界人と呼ばれるこの世界の理から逸脱した超越者の収める国。どういう訳か、そこの王は平和を望み。また、悲劇を伴う片親に優しい国だった。
ロスリックは自身の復讐心を隠し、タイフーン帝国軍へと入隊。日夜訓練へと励み、初陣は十四歳の頃だった。それは確か、小さな小国との小競り合いであったが、タイフーン帝国の王は外の世界の理屈を以て、国ごと穿った。
その後ロスリックは除隊し、母親を連れエルフの森へと流れる。そこのエルフから魔法の基礎や、超能力などを教わり齢18にして始まりの地へと戻った。
10年ぶりの街は様変わりしており、過去の面影はない。それどころか、わずか10年で街の面積は5倍になっており、その中でもタロウの作ったギルドはもはや城と呼べるまでに増築していた。
10年という月日はロスリックを見た目も精神も大人にさせたが、タロウの見た目は何一つ変わっていなかった。ロスリックは願う。どうか精神も当時のままであれ、と。
ロスリックの復讐は時間も場所も選ばない。街に到着するとすぐにタロウのギルドへ足を運ぶ。無論、彼らはロスリックの事なんぞ覚えていない。異世界人とその仲間たちには人の顔と名前を覚えられないという共通の特徴があったのだ。
ロスリックは易々とギルドの中へ入ると、習得した魔法を放つ。それはもちろん火炎の魔法。放たれた炎は内側から燃え広がり瞬く間にギルドの全域まで広がる。
異世界人の作るギルドはそのほとんど木製であり、内側からの敵を想定していない。ギルドに対して真向から放たれた魔法や攻撃はオートで無力化でき、その二十倍の力で反撃できるにもかかわらず、内側からの攻撃には無力だった。
ギルドの中で燃え広がる炎を消す事もせず、ただじっと眺め、悲鳴を上げている連中には頭があがらない。ロスリックはまだか、まだかと待ち望む。ヒーローがやって来ることを。
「ウォーター・スプラッシュ!」
威厳のない詠唱と共に現れ、火をとめるために水の魔法を放つタロウ。しかし、燃え広がった火は止まらない。当たり前である。ここまで炎を放置したのだ、もはや建物を破壊して鎮火させる以外に手はない。
「くそ、どうして消えない。なんで、こんな酷い事が出来るんだ!」
ドラマチックに叫ぶタロウ。ロスリックは安堵する。嗚呼、変わらないでいてくれてありがとう。
「お前、何者だ!……もしや!」
ロスリックに何やら話しかけるタロウ。ロスリックは支離滅裂な彼と対話をする気はない。ただ、殺すために来たのだから。
ロスリックは腰から剣を抜き、タロウに切りかかる。けれど、その剣は決して骨を断つことは出来ず、薄皮一枚を切る程度だった。異世界人は硬い。けれど、何度も切りつけるロスリック。
「くそっ、コイツ……手ごわいぞ。……こうなったら本気を出す!」
出し惜しみというのも彼らの特徴であった。それがいかなる犠牲を出そうとも。
「チートスキル!オン!」
言葉だけで中身の伴わない攻撃はロスリックに通用しない。あるいは、具体的にどういう攻撃なのかロスリックには理解できないだけなのかもしれないけれど。ロスリックには効かない。
「なに!俺の能力が効いていない!?」
ロスリックの威圧に蹴落とされ、倒れ込むタロウ。ロスリックは確実に息の根を止めるためにその首を斬り落とそうとする。
「クソ!……なっ、何とかなれ!」
叫ぶタロウ。すると、空気の振動と共に綺麗に切断されるロスリックの右手。
嗚呼、そうだ。こいつらの力はそういうものだった。けれど、それだけだ。たった、右腕だけ
ロスリックは勢いよく飛んだ自分の右手に見向きもせず、残る左手をタロウの口に突っ込む。そのままギルドを燃やした時の魔法を使用し、タロウの体を内側から焼く。
火だるまになるタロウ。ロスリックはタロウの苦しむ姿を見る事さえせずに、飛んで行った自分の剣を探す。剣を見つけると今度こそ、もがき苦しむタロウの首を刎ねた。
ロスリックはタロウだった肉塊を見て、未来を憂う。
嗚呼、あと何人このような奴の首を刎ねればいいのだろう。